第56話 告白、その後
俺と同島は唇を重ねた。そしてそっと唇を離し、しばらく抱き合った。初めて抱きしめた同島の身体から、確かな温もりが伝わってくる。
「桜場、あったかいね」
「それは同島も同じだ」
確か親睦会を抜け出した日の別れ際には、同島からハグされたんだっけ。でも触れるか触れないかという、絶妙すぎる力加減だった。
それで俺は同島が見えなくなっても、しばらくその場から動けなかったんだ。
それが今はこうして恋人として抱き合っている。こんなにも好きになる人がずっと身近にいたなんて、今まで俺は何をモタモタしていたんだろうとすら思う。手遅れにならなくて本当に良かった。
「今度こそ帰ろっか」
同島がそう言ったので俺も同意して二人とも立ち上がる。そして車に戻ろうとすると、同島がついて来ない。
「どうした? 早く車に戻ろう」
「ん!」
「ん?」
同島が右手を差し出す。
「手、繋ぎたい」
「あんなちょっとの距離なのにか?」
「距離は関係ないの! 私が繋ぎたいんだから、黙って従えばいいの!」
同島らしい強気の姿勢を維持しつつ、同島の可愛さが止まらない。こんな姿もまた、素の同島なんだろうか。
車に戻った俺達は、同島が住むマンションへと出発した。
「ね、桜場。やっぱり先名さんと加後ちゃんには、私たちが付き合うことになったって報告するべきだよね」
「それはそうだろうな。あの二人もいろいろ気にかけてくれたから」
俺と同島がデートした日の夜、加後さんからの誘いで飲みに行った時、加後さんは同島に抱きついて涙ながらに本音を打ち明けてくれた。
そして今日俺が先名さんに、「俺が彼女にしたいのは同島です」と伝えた時に、先名さんが少しのあいだ閉じた目。俺はあの仕草がどうしても忘れられない。なんだか先名さんが無理に冗談ぽく振る舞っていたんじゃないかと思う。
俺の思い過ごしならそのほうがいい。自惚れかもしれないけど、あの二人にはきちんと報告すべきだと思うんだ。
「次に出社したら、私から二人に話しておくね」
「ああ、頼む。仕事ではほとんど接点が無いからな」
「ね、桜場。これからも時々は私のグチを聞いてくれる?」
「もちろんだ。今になって思い返せば、ほろ酔いで本音をぶちまける同島、いさぎよくて可愛いよな」
「もうそんなこと言われたって恥ずかしくないもんねっ! だって恋人同士だもんね! むしろ愛情表現だから平気だもん!」
「なんかキャラ変わってない?」
「知らない!」
まったく。照れながら怒るなんて、なんて器用なんだろう。
そして同島が住むマンションに到着した。
「送ってくれてありがとう! えっとね、今日はこのまま帰るね」
「分かった、また連絡するよ」
自宅に帰ってきた俺は、これからのことを考えた。先名さんと加後さんへの報告は同島に任せるとして、職場恋愛となると、どうしても気になることがある。
(やっぱり周りにバレないようにしないと)
それとは別に、加後さんと先名さんと今後どう接しようか。今まで通りにできるだろうか?
それに加後さんもそうだけど、特に先名さんは大丈夫だろうか? あの儚げな表情を俺はどうしても見過ごせなかった。
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次からはIFルートになります。ただですね、話を練るためにここからは隔日更新にさせていただきます。
更新頻度は落ちますが、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。本編ももう少し続く予定です。