第52話 俺は決断する
「桜場くん、私たち三人の中で誰を彼女にしたいのか教えてもらえないかな?」
先名さんから、ハッキリと聞かれてしまった。まさかこんなにもストレートな聞き方をされるとは。
「彼女にしたい人ですか」
「答えにくい質問でごめんなさい。これは私のわがままな質問だから、答えなくてもいいのよ。でも今日はそれを聞きたくて来たから、やっぱり教えてほしいかな? ……ダメね、私。何を言っているのかしら……」
珍しく先名さんが言い淀んでいる。この一面もまた、俺が見たことの無い先名さんだ。
もしもここで「先名さんです」と答えれば、先名さんはどんな反応を見せてくれるのだろう?
なんて、花見の時にも同じことを思ったっけ。あの時と違うところは、先名さんの気持ち、で合っているだろうか。
俺は改めて三人について考えた。
加後さん。三つ年下。きれいな黒髪ショートボブで、大きな目をしている可愛い女の子。俺の第一印象は、『礼儀正しくてしっかりしてる子』。
性格は天真爛漫で、甘えてくる一面もある。小悪魔的な可愛さも持っている。酒豪。そしてロリ巨にゅ……。童顔とのギャップがズルい。
おそらくだけど、俺を気に入ってくれている。
同島。同期で同い年の24歳。茶色がかったセミロングのゆるふわパーマに端正な顔立ちの可愛い女の子。性格は明るくて気さく。加後さんをはじめとした後輩の面倒見がいいようだ。
それが本当なんだと加後さんを見ていれば分かる。ややツンデレか? たまに『怖い同島』になる。そこが可愛かったりもする。ふと見せる仕草や表情も可愛い。
先名さん。三つ年上。凛とした顔立ちで黒のセミロングにウェーブがかかった髪の美人。俺の第一印象は、『頼れるお姉さん』。出会ったばかりの頃は、やたらからかわれていたような気がする。けど全然イヤじゃなかった。
大人の魅力とでもいうのだろうか、同島と加後さんには、まだ無いであろう部分。それでいて酔った加後さんと、しっかりお戯れになるという、親しみやすさも兼ね備えている。そしてさっき見せてくれた、弱気な姿。
本当に三人それぞれの魅力がある。そして分かったことは、誰もが素の部分を持っているということ。そしてそれは親しくなった人だけに見せてくれる、その人の隠された姿。
「全員と付き合いたいです」。この期に及んでまさかハッキリ答えないというのは、正直に聞いてくれた先名さんに申し訳が立たない。
「俺が彼女にしたいのは——」
美女三人とのデートを終えた俺は、三人を乗せて国道を走る。外は暗くなり始めていた。スイーツとはいえ、好きなだけ食べれば腹いっぱいになるというもの。誰もが夕食をとる余裕は無かったので、今日は解散ということになった。
俺は責任をもって一人ひとりを家まで送る。先名さんと加後さんの家は知らないが、二人とも場所を教えてくれるのだという。
男に家の場所を教えるって、かなり信用されてると考えていいのだろうか。それとも、やはり無害だと思われているのだろうか。
一人ずつ家まで送り、車の中は二人きりになった。助手席には女性が一人。さっきまであんなに賑やかだったのが嘘のようだ。
数時間前、俺は先名さんに誰を彼女にしたいかハッキリと話した。そして俺は今日、この関係性を変えようと思う。といっても別に修羅場でもないし、俺の取り合いになってるわけじゃないんだけど。
でも三人ともモテるだろうから、手遅れにならないうちに、ということも正直言ってある。
そして助手席に座っている女性の家のすぐ近くへ到着した。
「桜場、今日はありがとう。楽しかったよ! 先名さんと加後ちゃんも楽しそうだったね!」