第46話 後輩が攻めてくる
俺達が集まってから1時間くらい経っただろうか。今のところ加後さんに酔っている様子は無い。
「同島さん、今日って何して過ごしましたか?」
これはまた微妙すぎる質問だな。ただの雑談としてなのか、それともカマをかけてるのか、完全に分かってるのか。いずれにしろ聞かれたのは同島なので、任せるしかない。なぜか同島なら大丈夫だという安心感がある。
「今日はスイーツ店めぐりをして、映画を観て、まったり過ごしたよ」
正直者の同島。きっと心の中では「嘘は言ってない」という言葉が駆け巡っているのだろう。できれば俺だって加後さんに嘘をつきたくはない。でもなあ、「加後さんの誘いを断って同島に会ってた」とはさすがに言えないって。
「わぁ、いいですね、スイーツ店めぐり! 誰かと一緒に行けばきっともっと楽しいですよね!」
おかしいな、楽しい言葉なのに全然楽しくない! 加後さんが全力で揺さぶりをかけてきている!
「同島さん、次は私と行きましょう!」
ほら、この発言も。『次は一人じゃなくて私と』にも、『次は桜場さんとじゃなくて私と』にも、どちらにも受け取れる。仕事で培ったであろう、言葉を選ぶ能力を発揮している。
「そうだね、私も加後ちゃんと行ってみたいな」
さすが同島は冷静だ。そもそも同島はこれを、加後さんからの揺さぶりだと思っているのだろうか?
「決まりですね。桜場さんは今日何してましたか?」
完全に油断していた。なぜなら今日は用事があって加後さんと会えないことを、加後さんに伝えていたから。
「ちょっと用事があったんだ。せっかくのお誘いを断ってしまったことは本当にごめん」
「あっ! そんなつもりじゃなくて、ただの雑談として聞いただけで、私こそ桜場さんに用事があったことを忘れててごめんなさい。今こうして来てくれただけで嬉しいのに」
加後さんは申し訳なさそうに慌てて付け足した。
「桜場さんもスイーツ店めぐり一緒に行きませんか? 同島さんと三人で」
落ち着け俺。同島がせっかく冷静に対応したのに、俺が慌てては何にもならない。
「いいね!」
俺が発した言葉はそれだけだった。少しぎこちなかったかも。潔い分、いいねボタンのほうがまだマシじゃないだろうか。
「やったあ! いつにしますか? あ、その前に私ちょっと……」
加後さんはそう言うと、立ち上がって退室した。同島と打ち合わせするなら今しかない。どうやらそれは同島も同じだったらしく、同島のほうから声がかかった。
「桜場集合」
「おう!」
テーブルをはさんで対面に座っているので、集合も何もない。隣に行くのは不自然だし、結局は移動せずに話す。
「加後ちゃん、気づいてると思う?」
「普通に考えて俺と同島がデートしてたなんて分かるわけないけど、さっき一緒に来たのを見て、勘が働いたのかもしれないな」
「やっぱりそうだよね。それにさっき『今日って何してましたか?』って聞かれて、ちょっと慌てちゃった。私、嘘は言ってないよね?」
「ああ、言ってない。俺でもそう答えたと思う」
「それよりも加後ちゃん、スイーツ店めぐりが決まって本当に嬉しそうだったよね」
「めちゃくちゃ笑顔だったな」
「ねえ桜場、加後ちゃんに本当のこと言っちゃおうか? あんな素直な加後ちゃんに嘘はつきたくないよ」
「実は俺もそう思ってたんだ。でも言ったことで逆に傷つけたりしないかな? 知らないほうがいいこともあるし」
「それは私からフォローするから任せてね」
それからしばらくして加後さんが戻ってきた。
「お待たせしましたー」
俺が同島を見ると、同島は小さく頷いた。これで加後さんがどういうつもりだったのか分かるだろう。