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第25話 後輩とコソコソした

 俺と加後(かご)さんがレストランの席に着いてしばらくすると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。先名(さきな)さんと同島(どうじま)の声にそっくりだ。


 俺が加後さんと目が合うと、加後さんは小さく頷いた。どうやら加後さんも気がついたようだ。ただ、仕切りがあるため姿は見えない。だから姿を確認するまでは確定ではない。


「先名さん、お疲れ様です。今日はフォローありがとうございました」


「気にしないで同島さん。私はリーダーなんだから、頼ってくれていいからね」


 秒で確定した。どうあがいても先名さんと同島です。でもこのまま声が遠ざかれば離れた席に行ったということだ。


 ところがすぐ近くで声が停止した。どうやら、通路を挟んだ向かいの席に座ったらしい。

 全くありえないことだとは言わないが、それにしてもなぁ。


 俺は加後さんに声をかけた。もちろん声のボリュームは最小と言ってもいい。


「加後さん、しばらくはこれくらいの声しか出せそうもないよ」


「そうですね。そうしましょう」


 そこまで気にしなくても、思い切って素早く出ればいいと思われるかもしれないが、そうもいかない。なぜなら、注文した品が来たばかりでほとんど手をつけていないからだ。

 さすがにそれを残して帰るなんてことはできない。


「加後さん、とりあえずこれ食べようか」


「ですね。私もそれがいいと思います」


 そして俺と加後さんは黙々と食事した。なんなんだ、このまっったく盛り上がらない食事デートは! 相手が誰であれ、これじゃ二回目のデートにたどり着けず落選だ。加後さんに申し訳なさすぎる。


 特に今日は先名さんからのランチの誘いを断っているから、加後さんと一緒のところを見られたら、本当に気まずい。


 なんか加後さんとはコソコソしてばかりだ。同島の家では夜中にメッセージで食事の約束をして、今日の昼休みは先名さんの誘いを断って食事して、そして今は二人のすぐ近くでデートしている。どんどんイケナイ関係になっていく。


 こうなったらもういっそのこと、一緒に感じた不安や緊張からくるドキドキを恋のドキドキだと脳が勘違いするという、『吊り橋効果』に期待するか? 冷めるのも早いらしいけど。


 店内とはいえ静かにしていると他の席の会話が聞こえてくるもので、先名さんと同島の会話が耳に届いてしまう。仕切りをしていないのだろうか?


「先名さん、これでやっと新入社員研修の準備が終わりましたね」


「そうね、同島さんお疲れ様。あと桜場くんにも感謝しないとね」


 思いがけず自分の名前が出てきて、ドキッとしてしまう。陰口じゃありませんように。


「ですね。桜場も大変ですよね。全部の部署の橋渡しをしないといけないなんて」


「そういえば同島さんが新入社員の時、研修で桜場くんと同じチームだったのよね?」


「そうなんですよ。いやー、あの時は苦労しましたよ。今よりもっと静かでしたからね」


「フフッ、なんだか想像がつくわね。もしよかったら、その時の話を聞かせてくれないかしら?」


「そんな大した話じゃないですよ?」


「全然構わないわよ。私、桜場くんに興味があるの」


 俺のいない所で俺の話をされるって、何を言われるか分からないから案外ハラハラするものなんだな。俺いるけど。あと先名さん、さりげなく恥ずかしくなることを言わないで下さい。


「先名さん、桜場に興味があるだなんて大胆なことを言いますね」


「あら? 同島さんは桜場くんのことが気にならないの?」


「えっ!? 私ですか? さ、さぁー? どうでしょう?」


「フフッ、同島さんってやっぱり可愛いわね」


「わっ、私をからかってどうするんですか!」


 このまま先名さんと同島のお(たわむ)れをずっと聞いていたい。

 そういえば加後さんはどうしているだろうと意識を向けると、同島達の方へ耳を近づけていた。


(めちゃくちゃ聞き耳を立てている!)

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