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「これ」、「それ」、「あれ」。

作者: 四条める

こんな噂を耳にしたことがあるだろうか。


「あれ」って知ってますか? いやいや、詳しく知っている人はいないよ。あくまでうわさだよ。でもこの前の事件知ってるでしょ? 絶対「あれ」の仕業だって。


 


「男性の占い師って珍しいですね。他の方とかっていらっしゃるんですか?」


「そうですね。業界に生き残るには相当な実力がないとだめなんじゃないですか? 女性の方とかは女性の占い師のほうが相談しやすいと思いますし、恋愛運って言うのは僕も得意な話ではないですね」


「それでも信頼されてやってらっしゃるんですね」


「まあ、おかげさまでですね。ですがやっぱりあまり相談がありませんよ?」


「あー、そうなんですね。では普段の業務をされているんですか?」


「いえいえ、相談がなくても活動ができるんですよ。今はy◯utubeなんかで呼ばれたりしますよ。この前は霊媒師と勘違いされて心霊スポットに行ったんですよ。」


「あー、そうなんですね。ちょっと寒くなってきましたね」


「ハハハッ、そうですねこのあたりで止めときましょうか。「あれ」の話もまた今度にしましょう」


「なんですか? 気になりますよ?」


「でもまた今度にしましょう。今度またなんかありましたら来てくださいね」

 そういった彼は笑顔で見送った。にしても占いの館にしてはいいところに住んでいる。都内の高級ビルの12階に位置するもんで、私も最初は住所を何度も確認した。大手の社長もこなす人だから、使用する道具も値が張るやつだろう。すごい人だ。



 ビルを出た私は近場のショッピングモールで化粧品を買ったあと、神奈川のアパートに戻った。夜の7時頃の帰宅でワクワクしながらテレビを点ける。休日の割には少し疲れたみたいだった。そのまま私は眠りについてしまった。

 時計がカチカチとハッキリ聞こえる静けさとともに、私は起き上がった。暗くて時計の秒針は見えなかった。仕事の制服のまま寝てしまった、お風呂にも入らないと。焦る気持ちが部屋に電気を点けると、どうやら三時半を回りかけているみたい。

 目がさっぱり冷めたのか五感が冴えている。やはり、ほのかに感触がある。右股や左腕に誰かに触られた感覚があり、今も誰かに見られているようなことを肌が訴える。夏の暑さも身の毛がよだつほど涼しかった。


「なんだか心臓の音がする」

自分の心音だろうか、いやここで疑うのはおかしい。だって、私は一人暮らしだし、恋人などもいない。


 その時……、洗面所の方向に確かに人の気配を感じた。そこの扉を開けるようとすると、「開けるな」と言われてるような気がする。どうしても視線の先が気になる私はお風呂場の扉のノブに手をかけた。


「えっ?」


内側には鍵がかけられていた。誰かが入っている。でも視線はずっと私の目を見ているのだ。ただ一点、興味を上回る強い執着で黒塗りされた眼光が、白い扉を突き抜けて私に「開くな」と告げるのだ。

すると、カチャと鍵が外れた。


私は怖かった。すぐにノブを自身に寄せて、頼むから開かないでと訴える。震えた腕の力は足で立てなくなるほどだった。しかし、扉は反対の方向に力が加わった。綱引きでグイッ、グイッと引っ張るような強い力が私を引きずり込む。


「もうっ!なんなのよ! これ!!」


引っ張るのを保てなかった私は手を離してしまったため「バンッ!」と扉が開いた。しかし、案外そこには普段通りの洗面所の光景があった。嵐が過ぎたような部屋には風が入り込むベランダの窓が開いていた。カーテンは外にあるさっきの「あれ」を隠すように揺らめいていた。


ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ


天井に張り付いた、「それ」には私はシャワー中で気づかなかったらしい。



 夕方の電車に乗った私はその日の出来事を話すために、友達の千夏と共に占い師のもとに向かっている。ちょっとした土産話でもあるが本当はまだ不安が残っているから共有しておきたかったのだ。


「ゆいちゃん? なんか具合悪い?」


「えっ? そうかな?」

 覗き込んだ綺麗な瞳は、私の白濁とした目に心配をする。最近こう聞かれることが増えてきた。なんとなくとぼけているが原因はあの出来事しかないと踏んでいる。夜はベタベタと触られているような寝苦しさに襲われ、昼間さえも誰かに見られている感覚や、誰にも聞こえない声がしたりもする。

 この前も踏切で電車が通過するのをハンドルを握って待っているとき、車両内に背の高い白い服を着た女性が6回見えてしまったのだ。 

ぎゅっと目を瞑る、視界が滲んでいた。私は何かをしてしまったのだろうか。「怖い」、「助けて」私は毎日その言葉で頭がいっぱいだった。そしてなにより、事前に調べた「あれ」の確率が高いのだ。



「あれっ?」

 揺れる電車はいつの間にか千夏を置き去りに走り出す。隣に座っていた千夏はおらず、目的の駅も過ぎ去ってしまっていた。なぜ、私を置いていったのか、疑問は残ったが次の駅からタクシーでビルに向かうことにした。


「うわあっ!!」


 おもはず大きな声を上げたが、他の乗客は私を見向きもしなかった。私が見たのは奥のガラガラのグリーン車で天井にぶら下がっている背の高い女性を見つけたからだ。逆さまにぶら下がってつり革のようにぷらぷらと揺れていた。

 塵積もった恐怖によって私は目を閉じた。次の駅に着くまで目を瞑っておこう。二の腕を抱き、ぎゅっと固まっていると、隣の千夏が座っていた空いた席に誰かが腰をかけた。次の瞬間、手や肩を冷たい手が触ってきた。痴漢などとは違う恐怖の腕で、肉が入っていないと思うほどのプルプルとした手だ。握ってくることはないが足や首元もさすって来た。「早く駅に着いて!!」と願う私に


「ここを…………切られたあぁら……」


「あ、ああ、い、痛い!!」

 と手のひらと肘の中間のところを手刀の形で「スルスル」と、次に「ゴリ!ゴリ!」と腕を切ろうとしてくる。すごく力が強く、物が持てないほどの痛覚が流れた。

 するとやっと、スッと存在が消えた。どうやら駅に着いたらしい、目を恐る恐る開けると車両のドアが開いた。千夏からの通知も来ていた。私はジンジンと痛む腕を抑えながら、タクシーを拾って例のビルへ向かった。



 一階のエントランスには千夏が怒った顔で待っていた。


「どこに行ってたのよ!」

 こっちが聞きたい気持ちもあったが、悪いのは私だと思うから聞き返すことはしなかった。


「ごめんごめん、ぼーっとしてた」


「え? それよりどこ行ってたの?」


「藤沢まで行ってたの」


「藤沢!? また電車に乗ったの!?」


「また?」

 噛み合わない会話に少しずつ恐ろしさが浮かび上がる。


「だってそうでしょ? 私達一緒に降りたんだから……」


 嘘をついているようには見えない、私はここで千夏ちゃんにも今のこの呪いのようなものを話そうと思った。体が疲れたのもあるかも知れない。千夏ちゃんの手を繋ぎ、私達はエレベーターに乗った。


 12階でポーンと音を鳴った。事務所のドアをノックした私は占い師の早川さんが出るまで待っていた。するとカチャっと鍵が開いて、少しすると早川さんがドアを開ける。早川さんは私を凝視して「なにかありました?」と尋ねた。そして私の状態を心配してソファに横にならせてもらった。そしてそのまま話を始めた。昨晩の体験を混乱しながらも伝えると彼は確信した顔でこう答えた。


「私の知っている「あれ」の情報と一緒だ」


「あれってなんですか?」


「ただの噂だと思っていたんだけどね」


「前のときもなんか言ってましたね。なんなんですか?「あれ」って」


「打ち水の霊」


「打ち水ってあの夏にやる、玄関とかを涼しくするやつですか?」


「そっちじゃないよ。まぁそれに、ちなんでいるわけでもあるけど」

早川さんは私に紅茶の入ったコップを机に置いてくれた。


「その霊はある山を登っている途中で吊り橋を渡ろうとしたんそうです。その吊り橋はなんの問題もなかったはずですが、彼女は吊り橋から落ちて、川の浅いところにぶつかり亡くなった。そしてその後、あの川では妙なことに気温がガクッと下がったんです。近年その霊の被害が増えていることから「あれ」と呼ばれる様になったのです」


「まさかその山って……」


「そうだね、その感じだと行ったところですかね」


「「ひがぬりやま」」


 そうだ。私は千夏とひがぬり山に行った。つい2週間前の話である。

 しかもそこで私も吊り橋を渡った。その時、私のスマホが川に落ちた。だから私は川のところまで階段で下って、岩に引っかかったビショビショのスマホを手に取った。


「あそこの場所では他にも神社でひがぬり女性遺体事件なども起きてます。強力なパワースポットでもあるけど逆に悪い噂が立ち込めているんですよ」


 その神社も私は訪れた覚えがある。観光客で賑わっていたところであり、本殿で参拝もした。いや、その時もだ。本殿の横の石垣の木に白い手が見えた気がしたのだ。私の体温が上がる感覚と共に目眩がした。



 冷蔵庫がジーンと鳴る部屋では暗闇が広がっていた。どうやら早川さんのところで眠りについたらしい。

 しかし、早川さんの姿はなく、私一人が軽いブランケットを握っている。

「あぁ、またか」泣き出したい気持ちが酷く心に刺さる。もう耐えられない。分かりやすく感じる視線は目の前の大きな天井から伸びている影である。いや、複数感じる。


そうか、さっきの話、2つの事件が起きているってことは、「あれ」っていうのは二人いたんだ。


「ハハハハハ」



 これは友達から聞いた話である。「これ」というのはその人にずっと付きまとうもので体に干渉し、腕などを触ってくる。「それ」というのはじっと見つめてくる視線の霊、どこに行っても、壁越しだろうが見られる感覚を残すだという。そして「あれ」というのはいつもどこでも居て、他人には見ることのできないらしい。そして人の手をよくぎゅっと握ってくるらしい。


「ねっ? ゆいちゃん?」



ご愛読ありがとうございます!

今回は初めてのホラー系の話を作って、コンテストみたいなのも初めて参加するに当たって、全力で取り組めた気がしますが、まだまだ話を展開するのは難しいです。

これからも様々なジャンルで書いてみたいと思います。感想やいいね、評価の方をお願いします!!

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