表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

【9月】私、清算テスモポリア

パスタを茹でる事は想像以上に奥深い。


塩の加減、水の量、熱、茹で時間、そもそもパスタを保存している環境……と、あらゆる面に気を付けなければ美味しいパスタは茹でられない。


私のこだわりは、まずパスタは冷凍庫に保存しておくという事だ。ただ日の当たらない場所に置いているだけでは湿度が高くなくとも湿気を吸ってしまう可能性があるし、何より冷凍しておく事で沸点が下り茹で時間を短縮できる。使用する水は「多いかな?」と思ったそのさらに0.5倍にし、塩は適量、茹で加減は「まだ少し固いかな?」というあたりに留める事だ。水の量が少なければただただ固いパスタになってしまい、茹ですぎれば普通のパスタになってしまう。


パスタを茹でる為の全ての条件をこの絶妙なバランスで保つ事により、私は市販のどんなパスタもモチモチパスタにする事が可能となったのだ。


……さて、パスタを茹でている間にすべき事がある。ソースの準備だ。


昨日のうちに豚バラブロックを熟成させて作っておいた自家製ベーコンを3ミリ厚にスライス、さらにそれを2センチ幅に短冊切りする。


フライパンに有塩バターを溶かし、ベーコンを中火で熱する。薄めにスライスした事でベーコンには熱がよく通りパリパリになるのだが、これが非常にいい舌触りになるのだ。


この世にはあらゆる焼き加減のベーコンが存在しているが、私はパリパリに焼けているべきだと思う。何故ならその方が美味いからだ。


胡椒を適量振りかけベーコンがいい具合に焼けてきたら、フライパンに粉チーズと牛乳、生クリームを入れて混ぜ合わせ、程よいところで火を止める。


余熱が残っているうちに卵黄を加えてさらに混ぜ合わせればソースの準備は完了。


皿に移したパスタにかけ、上に卵黄を乗せれば──インスタ映え間違いなし!特上クリーミーもちもちパスタのクリーミーカルボナーラの完成である。本当にクリーミーなのでクリーミーという単語を二つつけても許されるのだ。


……カルボナーラを作る度にInstagramにアップして半年。アカウントを作って最初に投稿した初めてのカルボナーラと最新のカルボナーラを見比べて悦に浸る。


(私のカルボナーラはこれからもどんどん進化していく……今はソースを自作するに留まっているが、やがてはパスタも一から作り、本当にモチモチのパスタを作ってみたい……)


今日のカルボナーラの写真をInstagramに投稿する。ちょうどお昼時という事もあり、投稿した途端いいねがつく。


最初にいいねをくれたユーザーは、先月から私のアカウントをフォローしてくれたハルサメ・ジュンというユーザーだった。


ハルサメ・ジュンは毎回投稿にいいねとリプライをくれるので好きなユーザーだ、やり取りはした事ないが。


『美味しそうですね!アヤカさんの料理、いつか食べてみたいって思ってます!』


ハルサメ・ジュンのアカウントを確認すると、どうも高校生らしかった。投稿から推察するにバスケ部に所属している二年生の男子らしい。


半年前に彼氏と別れて傷心していた私は、彼からのリアクションをささやかな楽しみにして心を癒していた。


元々料理を始めたのも彼氏の事を忘れたかったからだ。交際していた頃、料理が一つもできない私に彼がよく振る舞ってくれたのがカルボナーラだった。彼の作るカルボナーラを超えるカルボナーラを作る事ができれば彼の事を忘れられるだろうと思い、ひたすらカルボナーラを作り続けた狂気のインスタグラマー……それが私、人呼んで“カルボナーラのアヤカ”である。


私もいつしか、自分の為に作っているカルボナーラを誰かに食べて貰いたいと思っていた。私が人に振る舞える料理をできる自信もなく、友達が「食べさせて!」と言おうと決して食べさせる事がなかったカルボナーラ。


──だが、ついに今日、私は“レベル”に到達した事を実感した。このクオリティのカルボナーラなら人に振る舞っても恥ずかしくない……いや、むしろいつもリアクションをくれるハルサメ・ジュンにならこのクオリティのカルボナーラを振る舞ってあげたい。


私は勇気を出してハルサメ・ジュンのコメントに返信した。


『はじめまして、ハルサメ・ジュンさん。いつもいいねとコメントありがとうございます、アヤカです。私もいつか自分の料理を誰かに食べて欲しいと思っていました。もしよろしければ召し上がっていただけませんか?以降のやり取りはDMにてお待ちしております。』


……ハルサメ・ジュンからの返信はすぐには返ってこない。当然だ。


実際、彼が私の誘いに応じるかは疑問だ。しかし、可能性はないわけではない、現に彼は私のカルボナーラを食べてみたいと言っているのだ。


「……よし、小麦粉買いに行こう」

文芸サークル『むちゃむちゃ海月味』のInstagramアカウント(https://www.instagram.com/muchamucha_kurageaji?igsh=NndteGl1N29obmUx)にて不定期連載中の『きまぐれ!むちゃくらマガジン』9月の部にて掲載されたものです。

テーマは「食」。

Instagramでは他作家による作品も掲載!

是非是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ