【6月】令和ちゃん、うっかり押すなよテンキーの5
自宅でネットサーフィンをしていたある日、テンキーによってある程度天気を操作可能である事に気がついた。
これは一体どういう理屈であろうか。
私の使用しているテンキーはヨドバシカメラで購入した、BluetoothでPCに接続できるタイプの何の変哲もない薄緑色のワイヤレステンキーである。
ネットでの評価は高いものの、そういえば時々、Bluetoothの接続の問題なのか入力しても反応しない事があったが、私の考察が正しければ、その際に何か別のものに接続され、そこで入力した情報が天候に反映されているのではないだろうか。
接続されている別のものの正体が何かはわからないが、テンキーのどのキーがどの天気に反映されているのかは調べてみてもいいと思った私は、毎日キーを一つずつ押して、そこから天気の変化と日数を観察する事にした。
……一ヶ月半ほど観察してみた結果、キーを押してから、それが天気に反映されるまでにかかる日数はおおよそ三日。
そして、数字によって天気を操作しているという単純なものではなく、2、4、6、8のキーを十字キーの要領で操作し、エンターキーで決定する仕組みのようだった。
さながら暗中模索のようだったが、変化可能な天気は、晴れ、雨、曇り、雪、霰、雷の六つで、選択方法はデレステの曲選択画面と大体同じ感じとイメージして貰えば問題ないだろう。
また、一度選択した天気も、反映される三日の間にDelキーを押せば取り消す事ができるとも突き止めた。
これにより、私は天気を思うままに操る神に等しい存在“テンキング”となったのだ!
“テンキング”とは、私が自らの能力に対して名付けた称号である、どうだ、格好良いだろう。
令和になってから暑い日が多くて大変だろうが、それも“テンキング”である私の計らいである。
何故なら私は夏が好きだからだ。
夏は素晴らしい。人生を八十年とすると夏は八十回しか来ない、そして同じ夏は二度と来ない……その儚さは人類の青春を形作るエレメントを示してくれる。
かつて、コロナ禍で外出自粛の叫ばれる緊急事態宣言渦中に高校卒業を迎えた私は、人生において最も重要な(!)高校最後の夏を奪われてしまったのだ。
なのでこれは私にとっての“聖戦”である。
私の送れなかった分の夏で、この街を、人々を、この国を照らしつけてやるのだ。
無論、夏の日差しばかりでは世界が崩壊する事は理解しているので、適度に雨で大地を潤す事は忘れない。
去年は調子に乗って雨を降らせる回数を減らした為に山の作物が育たず、飢えた熊を人里に放つ結果を招いてしまった。
私は学習できる人間だ、同じ過ちは二度とは繰り返すまい。
さて、二◯二四年六月。
私は慣れた手つきでテンキーを操作する。
《2》《6》《6》《Enter》──雨を降らせる操作手順だ。
ニュース番組のお天気コーナーでは、三日前に入力した雨の予報を気象予報士が伝えている。この私、“テンキング”がそのように仕向けたとも知らずに!
『明日から来週にかけて、空は雨模様でしょう──……』
人にコントロールできようもないものをコントロールするというのはとても良い気分である、ガハハ。
……しかしいくら私が“テンキング”とはいえ、まだ天候操作について万能とは言い難い。
このテンキーにはまだまだ謎が多いのだ。
触れていなかったが、1、3、7、9のキーは若い数字から順に東西南北に対応し、風向をコントロールする機能がある。
上手く操作すれば台風や雨雲を逸らせる等できる為、そこそこ重宝している機能だ。
問題は、5のキーである。
私は未だに、このキーの機能が何なのかを特定できていない。
初め一ヶ月半の観察期間に数回押して以降、触らぬ神に祟りなし……という事で、一切触れていない。
これはあくまで“テンキング”である私の直感であるが、あまりいい結果を招くキーではないような気がするのだ。
……とはいえ「押してはならない!」と思えば思うほど、押してみたい気持ちが日に日に強くなる。
一体、テンキーの5には、どんな機能が隠されているのだろうか……?
『……次のニュースです、国立天文台は今日、太陽系に新たに第十番目の惑星が存在する可能性があると発表しました──……』
文芸サークル『むちゃむちゃ海月味』のInstagramアカウント(https://www.instagram.com/muchamucha_kurageaji?igsh=NndteGl1N29obmUx)にて不定期連載中の『きまぐれ!むちゃくらマガジン』6月の部にて掲載されたものです。
テーマは「天気」。
Instagramでは他作家による作品も掲載!
是非是非、よろしくお願いします。