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【5月】パラレル少SHOW少年グラフィティー

偶然、小学校の頃に好きだった女の子のSNSを見つけた。


アイコンに設定されていた現在の彼女の写真には、あの頃の面影が残っていた。


──間違いない……浜名(はまな) 乙梨(いつり)だ。

左目の下に夏の大三角形みたいに並んだ黒子、艶のある黒髪、綺麗な歯並び……絶対に乙梨ちゃんだ。


そういえば、俺には後悔があった。


小学校の卒業式。


彼女は中学受験に合格したので、中学生になればこうして会う事はないと知っていた。


なのに俺は何もできなかった……いや、しなかったのだ。


会えなくなる前に、断られてもいいから告白の一つでもしておけばよかった……日々、悶々としていた小学生の俺よ、あの時はすまない事をした。


SNSのプロフィール情報を見るに、彼女はまだこの街に住んでいるようだった。


『今日はいい天気ですね!嬉しい!』


五分前のポストには一文と、空をバックに微笑む彼女の自撮り写真が添付されていた。


ふと空を見上げた時に、写真に写っていた雲と、俺の頭上に浮かんでいる雲の形が同じだと気付いた。


もしかすると、彼女もまだ近くにいるかもしれない。


この近くで彼女が行きそうなところとして考えられるのは……イオンモール朝霞(あさか)だろうか。


『仮面の忍者シリーズ』が好きだった彼女とは、イオンモール朝霞がまだジャスコ朝霞店だった頃、サウスコートのステージで週末に行われていた忍者ショーでよく遭遇したものだ。


SNSのポストを遡っても、その趣味は未だ継続中のようである。


調べると、今日は『仮面の忍者 錬金ガチャ影』のショーが十四時半より予定されていた。


急げば開始時間には間に合う。


ならば──俺の行動はもう決まっていた。


『錬金ガチャ影』はテレビ朝日にて朝八時に放送されている現行の『仮面の忍者シリーズ』である。


令和忍者第五作目の今作は、タイトルでお分かりの通り錬金術がテーマとなっており、二枚のカードを組み合わせ、忍者剣にスキャンして戦うぞ。


先日放送されたエピソードでは、歴代忍者の力を使うゴージャスな忍者『絢爛レジェ影』まで登場し、大きなお友達を巻き込んで話題沸騰中である。


かくいう俺も、レジェンド忍者回が職場で話題に上がった事をキッカケに、久々に『仮面の忍者シリーズ』を視聴していたのであった。


……さてと。


できる大人なので説明を挟んでいる間に移動を完了した俺は、客席に乙梨ちゃんの姿を探していた。


ショー開始の三分前だ、まだ来ていないという事はないはず……。


だが、最前列の地べたに敷かれたシートには、子供達や、そのお父さんお母さんがいるくらいだ。


その後ろのパイプ椅子席にも、彼女は見当たらない。


……しかし、よくよく考えてみれば俺たちはアラサー。


結婚して子供がいても、何ら不思議ではない年齢だ。


(もし子供がいて、それがショーに来ている理由なら、凹むなぁ……)


デケデケデケデン♪オーッオッオー♪


テレビで聴いたものと同じ、『ガチャ影』の主題歌が流れる。


十四時半。


乙梨ちゃんは見つからないうちにショーの開始時間がきた。


(所詮、昔の恋だったか)


純粋に、『錬金ガチャ影』への興味もあったので、ここに足を運んだ事も無駄ではない。


しかもよくよく考えてみると、急いで来たせいで、適当なTシャツにスエットパンツ、靴はクロックスのパチモンという、どう見ても人に会う格好ではない。


むしろ乙梨ちゃんに会うのが今日でなくてよかったのだ……と、心の中で自分に言い聞かせて、ステージに目をやった。


すると……


「みんなー!こんにちはー!」


マイクを持って登場したのは、その乙梨ちゃんであった。


「「「「こんにちわー!」」」」


元気に挨拶を返す子供達に、明るい笑顔を向ける乙梨ちゃん。


乙梨ちゃんの笑顔は、あの頃と変わっていなくて、とても……とても可愛いと思った。


かつて隣同士でショーを観ていた時も、こうやって綺麗な歯を見せるようにして笑ってたのを思い出す。


小学生の頃の俺は、彼女のこの顔が見たくて、毎週ショーに通っていたんだった。


いつからか、格好つけて観ていなかった忍者シリーズ、忍者ショー。


俺が観なくなった後も、きっと乙梨ちゃんは観ていたんだろう……そして、ずっと観てきたから、彼女はこうしてステージに立っているのだ。


(卒業してからも、忍者ショーを観に来ていれば……)


俺に新たな後悔が芽生えた。

あーあ。


ショーの注意事項を済ませたMC乙梨ちゃんが観客席に呼びかける。


「それじゃあお姉さんがせーのって言ったら、大きな声でガチャ影を呼ぼうね!いくよ、せーの!」


「「「「ガチャ……」」」」


「ガチャ影ェェーーッ!!」


……大人気なく、大声で叫んだ。


子供達も驚いて俺の方を振り向く。


乙梨ちゃんもハッとした顔をしていた。


だが、乙梨ちゃんは目が合うと、俺に気付いてか気付かないでか


「みんな!あのお兄さんみたいに元気な声を出そうね!頑張ろう!いくよ!」


と、切り返し、次の声援を盛り上げる材料にしてくれた。


「せーの!」


「「「「ガチャ影ーーっ!!」」」」


乙梨ちゃんの掛け声で、子供達が声援を送る。


「イェイ!それじゃあガチャ影ショー、スタート!」


──ああ、どうしてか子供に戻ったみたいだ。


君に気付いて欲しいから?それとも久しぶりの忍者ショーでテンションが上がってたのかな?


理由は色々あるけれど、気付かないフリをして、俺は精一杯、戦うガチャ影に声援を送った。


「頑張れーー!ガチャ影ェェーーッ!!」

文芸サークル『むちゃむちゃ海月味』のInstagramアカウント(https://www.instagram.com/muchamucha_kurageaji?igsh=NndteGl1N29obmUx)にて不定期連載中の『きまぐれ!むちゃくらマガジン』5月の部にて掲載されたものです。

テーマは「こども」。

Instagramでは他作家による作品も掲載!

是非是非、よろしくお願いします。

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