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【12月】アポカリプティック・タナトフィリア・サーカス

ついに、世界が終わるその日が来た。


ピエロとなった少年少女が隊列を組み、世界のあちこちで行進を始めた。


「もうすぐ世界、終わります、みんな死にます、お終いです……」


ピエロ達は太鼓を叩いたり、笛を吹いたり、不気味な歌を歌いながら街中を歩き回る。


「もうすぐ世界、終わります、みんな死にます、お終いです……」


始発よりも早い時間に、ピエロの歌と行進が街に響き、人々は瞼を擦りながら目を覚ます。


「「「もうすぐ世界、終わります、みんな死にます、お終いです……」」」


窓を開け、ピエロ達に向かって「何時だと思ってんだ!」と怒号をあげるおじさんも、空を見上げて仰天する。


蒼く巨大な星が、今にも地上に降ってこようとしていた──。



──こんな日が来るとわかっていた人達は、既に行動を始めていた。


「追い詰めたぞ、餅米狂喰崎」


黒服の男が機動隊員十名を引き連れて突入した都内某所の廃ビル地下二階、そこに餅米狂喰崎 たもの拠点があった。


「あらま。バレちゃった?もうちょっとはバレないと思ってたけど、日本の警察組織って思ってたよりも優秀だったんだね」


「遊びは終わりだ、大人しく投降しろ」


男が手で合図をすると機動隊員達がサブマシンガンを餅米狂喰崎に向けた。レーザーサイトの赤い光が餅米狂喰崎の心臓に集中する。


「おっと、心臓なんか狙って大丈夫?間違って撃っちゃったら発動しちゃうよ〜、オペレーション・ダークネスレコード」


機動隊が撃たないとわかっているからか、餅米狂喰崎は銃が向けられている事も気にせずタバコを咥えて火をつけた。


「ここ、地下だけど換気回りは入念に手を加えててね、タバコ吸っても大丈夫なのさ。……あ、この中で誰か、吸う人いますー?私が吸ってるのはガラム・スーリア・マイルドっていう甘いタバコだけど」


男と機動隊に向けてタバコの箱を差し出す餅米狂喰崎。餅米狂喰崎の不審な動きに緊張を漂わせる機動隊員達。


「……お前が仕掛けてくれた沢山の悪戯のせいで日本は連合条約をいくつも犯した」


男は機動隊員達より前に出ると、餅米狂喰崎に向かって歩いていく。


「悪戯?聞き捨てならないなぁ。私は私なりに世の中の為を思って第十番惑星に素晴らしい名前をつけたのに」


「それはお前がシンギュラリティーに導いたAIの計算でそのようにしたのか」


「あれ、それもバレてるの?」


「政府が準備していたAIに勝手にマシーナリー宮崎メカ新海ハヤオ・ノーランなどというふざけた名前をつけ、映画を作らせたな」


「彼女が望んでやった事さ、私は自由を与えただけですよ。AIの進化を抑制するリミッターを解除してあげた。それだけ」


餅米狂喰崎は目の前まで迫った男にタバコの煙を吹きかけた。


「連合諸国からのお達しは“何がなんでもお前を止めろ”だ。なのでこちらも手段は選んでいられない」


男はジャケットの胸ポケットに手を入れ、そこから拳銃を取り出した。


「あーあ。アンタら、ばかだね。外のピエロ、見てないの?世界が終わるってのに、まーだ政治が大事なんて」


男は餅米狂喰崎の額に拳銃を向けた。餅米狂喰崎は火の消えかかったタバコを咥え直し、目を瞑る。


……男が拳銃の引き金を引く──と、思われたその瞬間、男は餅米狂喰崎の咥えていたタバコを取ると、自分で咥え、拳銃の銃口をタバコの先端に近付けた。


引き金を引くと、カチッと音が鳴り、銃口に小さい火が着く。男の持っていたものは本物の拳銃ではなく、拳銃型のライターだったのだ。


「どういうつもり?」


餅米狂喰崎が尋ねる。


「お前の言う通りだよ。世界が終わる時だってのに連合条約?馬鹿馬鹿しいったらないよな」


男が答えると、機動隊員達はサブマシンガンを下ろし、緊張を落ち着かせた。


「上の連中は世界の終わりをお前のせいだと思ってる。だが、俺たち下の人間は賢いからよくわかってる、答えは逆だと。お前、世界の救い方を知ってるんだろ」


男がそう言うと、餅米狂喰崎はニヤリと笑った。



──こんな日が来ると思ってもみなかった人達も勿論いる。


柿本知紗は走っていた。世界が終わるなら、今日が最後の晩餐になる。それなのに幼馴染の菊谷竣は知紗の弁当ではなくInstagramで知り合っただけの謎の料理系インスタグラマー“カルボナーラのアヤカ”の元へカルボナーラを食べに行った。


カルボナーラしか作れない得体の知れない女との食事が竣にとって最後の晩餐になるなんて考えられない。知紗は何としてでも作った弁当を食べて欲しかった。


何故なら知紗は、世界の終わる瞬間、ようやく自分自身の気持ちに気付いたのだ。


(僕は──竣の事が好きだ)



──こんな日が来るとわかっていながらも、何も行動せずただ運命を受け入れている人達もいる。


渋谷駅近くの個室居酒屋でもつ鍋を突きながら青年とピエロの女の子が話していた。


「お兄さんって絶対自分にしか興味ないタイプですよね」


「……そうでもないと思うけど」


「うっそー、だって好きな人とかできた事ない顔してますよ」


ピエロの言葉を受け、青年は上を見上げてこれまでの人生を思い返した。


「……言われてみれば確かに」


「ほら。ほら!」


ピエロは得意な顔で笑う。


「そうだな。じゃあそろそろ誰かを好きになってみるか」


「ええーっ、遅いですよ、もう世界終わるのに。あーあ、もっと早く気付いておくべきでしたね、お兄さん。今から好きになる人、見つけられそうですか?」


青年は顔を下ろすと、ピエロの目をじっと見つめた。


「興味ないピエロと何回ももつ鍋つつくわけないじゃん」


「…………」


ピエロは黙って俯いた。


「てっきり君もそうだと思ってた。……もしかして違ったかな」


青年はそう言いながら、ピエロの器に鍋の具を入れて差し出す。


ピエロは俯いたまま震えている。


「……もうお腹いっぱいだった?いらない?」


「……ううん、違います、違うんです」


ピエロは両手で器を受け取り、顔を上げた。


ピエロは笑みを浮かべていたが、目からは涙がぼろぼろと溢れていた。すると、特徴的な白塗りのメイクに次第にヒビが入り、そのヒビはどんどん大きい亀裂となり全身に広がっていき、まるで殻を破って雛鳥が生まれるようにバラバラと崩れ、その中から高校生くらいの少女が現れた。


「嬉しいです。ようやく見つけて貰えて」


「……そういえば自己紹介まだだった。俺、川村(かわむら) 咲也(さくや)、25歳のフリーター」


「傘木 風華、高校二年生です」


「……まじで。ほぼ10歳差だよ」



──こんな日が来ている事に気がついてない人達だっている。


以前、ヒーローショーで偶然にもかつての想い人である浜名 乙梨と再会した火崎(ひさき) (あつし)は、以降何かと乙梨の出演するショーに足を運び、小学校卒業以前までに関係性を再構築しつつあり、今では週に一度、駅前のミスタードーナツで30分ほど近況報告のような会話をするようになっていた。


「乙梨ちゃんはガヴ影は観てるの?」


「勿論!めちゃくちゃ面白いよね。やっぱり本編がいいとショーをやる私達も気持ちが入るっていうか」


「そっかそっか。次のショーって日曜日?」


「うん。放送お休みだから子供達も沢山来るんじゃないかな?観にくる?」


乙梨はバッグからチラシを取り出した。いつもと同じ、朝霞のイオンモールでのショーだ。


「勿論、いくよ」


淳はチラシを受け取り、鞄に入れる。


「前から言おうと思ってたけど、火崎くん……今働いてないでしょ」


乙梨に痛いところを突かれ、火崎は思わず食べていたエンゼルクリームを吹き出してしまい、上に乗っていた粉が爆発したように舞う。


「わっ、大丈夫!?ごめんごめん!もしかして気にしてた……?」


まるで実験に失敗した博士のように顔を真っ白にした火崎は慌てて取り繕う。


「げほげほ……っ、い、いや……詳細話してない乙梨ちゃんにバレてるって事は多分誰にでもバレてるんだろうなって……」


「そりゃあ、平日のこの時間にスエットパンツでいる人、誰がどう見ても働いてないよ」


「まァ、そうなんス……前まで勤めてた豆腐工場がコロナ禍で潰れちゃって」


「じゃあ……今、暇なんだ」


乙梨はそう言うとバッグからもう一枚チラシを取り出した。それは乙梨の所属しているイベント事務所の求人広告だった。


「コロナも落ち着いて、またヒーローショーがあちこちでやるようになって人が足りなくてさ。暇なら……ウチ来ない?」


火崎は乙梨からチラシを受け取り、じっくりと目を通す。


給与は1ステージにつき約1万円、練習に時給は発生せず交通費も支給されない。有難い事に自宅と事務所と距離が近いので通う事に苦労はないものの、仕事内容自体は割に合うものではなかった。


黙っている火崎に対し、乙梨は苦笑いを浮かべる。


「……そうだよね。割に合わない仕事なのはわかってるし、言ってみただけだから……」


「いや、やる」


「え?」


火崎の意外な返事に驚く乙梨。


「誘っておいてなんだけど、普通に就活した方が絶対いいと思うよ?」


「大丈夫。生活に関しては実家暮らしだからすぐには困らないし」


「……本当に?誘ったの私だけど、まさか本当に乗ってくれると思ってなかった。なんで?」


火崎は身を乗り出した。


「乙梨ちゃんを客席から見てて、もし俺が応援じゃなくて、近くで活躍できてたらどうだろうって、最近考えててさ」


火崎の話ぶりに、乙梨は妙な悪寒を感じた。


「……火崎、ちょーっと待って。うわ、うわうわ、思い出したわ……昔噂で聞いた事あった……忘れてたけど……」


「いやいや、勘違いしないで!確かに昔、俺は乙梨ちゃんの事好きだったけど!今はもっと違う感情だと思う……多分」


火崎は息を呑んで続ける。


「同級生だったから、お互いの立場の違いを感じただけだと思う。だから……乙梨ちゃんが思うような心配はここにはないよ、多分……ごめん、断言はできないけど」


火崎の話を聞いた乙梨はホットミルクティーをゆっくりと飲んだ。


「……オーケー、わかった。じゃあとりあえず、ウチの事務所の面接組むように社長に話してみるから」


「……ありがとう」


乙梨ちゃん、と続けようとした火崎に、乙梨は人差し指を立てた。


「事務所に入ったら……乙梨ちゃん、じゃないでしょ。わかるよね?」


「……はい、乙梨先輩」


乙梨の威圧感に圧倒され、火崎の背筋がぴんと伸びる。


火崎は内心、本当の事を言わなくてよかった……と、思った。


(俺、この子を落とせるのか……?)



──世界の終わりが近付く中、様々な人間関係が進展していく。


一つの恋愛が成就する度、世界の終わりも近付いてくる。


蒼い星が堕ちる時、世界最後に恋愛を実らせたのは一体誰と誰だったのか。


1億2000万kmになる金星と火星の間に存在した太陽系第三の惑星、地球。


今となってはそこにどんな生命が存在し、それぞれがどのような恋をし、愛を育み、命を営み、いかなる物語を紡いできたのかは……誰にももう、わからない。

文芸サークル『むちゃむちゃ海月味』のInstagramアカウント(https://www.instagram.com/muchamucha_kurageaji?igsh=NndteGl1N29obmUx)にて不定期連載中の『きまぐれ!むちゃくらマガジン』12月の部にて掲載されたものです。

テーマは「恋愛」。

Instagramでは他作家による作品も掲載!

是非是非、よろしくお願いします。

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