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第15話 いけない人

 教室でホームルームが行われている頃、昴は自転車に乗って校門から出て行こうとしていた。

 どうも今日は勉強をしている気分じゃない。そう考えて潔くサボってしまうことにしたのだ。


「いけない人ね。授業をひとつも受けずに、いきなり帰ってしまおうなんて」


 冗談めかした声に振り向くと、校門の塀の陰に小夜楢未来が立っている。

 相変わらずの黒縁眼鏡と三つ編みのヘアスタイル。飾り気のないスクールバッグを肩に提げ、くすんだ赤色のスケッチブックを小脇に抱えていた。


「小夜楢……」

「未来って呼んでちょうだい。そっちだと別れの挨拶をされているみたいだわ」


 クスッと笑って告げてくる。昴もつられるように笑みを浮かべると軽い口調で言い返した。


「そういう君は転校二日目にして遅刻か?」

「サボりよ――あなたと同じくね」


 意外なことを言ってきた。見るからに生真面目そうな姿をしているから、てっきり優等生タイプだと勝手に思い込んでいたのだが、案外そうでもないようだ。


「わたしね、絵が大好きなの」


 未来は手にしたスケッチブックの表紙を見つめる。どこか遠い目だ。


「昨日、この裏の林で町並みを一望できる、とても素敵な場所を見つけたの。本当は放課後まで待つつもりだったんだけど――いてもたってもいられなくなっちゃって」


 どうやら昴と違って、不真面目だからサボるというわけではないらしい。


「裏の林か……」

「何かあるの?」

「いや、一昔前はイノシシが出るって言われてたんだよ。最近はまったく目撃されてないそうだけどさ」


 そういった野生動物への対策として、陽楠学園は高い塀に周囲を囲まれている。

 もっとも、最近はなんの被害もなく、裏門も校門も開きっぱなしというくらいに危機感は薄れていた。


「イノシシか……。まあ、いちおう気をつけておくわ」


 未来はあまり気にしたふうでもない。

 実際そこは放課後には生徒たちも平気で足を踏み入れる場所だ。昴もとくに心配はしていなかった。

 そうこうしているうちに、一時間目開始を告げるチャイムの音が校舎の方から響いてくる。


「――いけね。いつまでも、こんなところにいたら誰かに見つかっちまうな」

「そうね。わたしもスケッチに行くから、これで――」


 軽く会釈をして立ち去ろうとする。


「ちょっと待った」


 昴はやや慌てて呼び止めた。ひとつだけ確かめるべき事が残っている。


「なに?」

「昨日、放課後の屋上でさ……」

「あら、見てたの?」


 鋼のことを問おうとしたのだが、返ってきたのはごく平凡な反応だった。


「なにかスケッチでもしようと思ってうろうろしてたんだけど、けっきょくなにも書かずじまいだったわね。でも、どこで見られたのかしら?」

「いや、反対側の屋上に出たら、君らしい人影が見えたからさ」

「そうなの? わたしはぜんぜん気づかなかったけど……」


 北校舎と南校舎の間は、それなりに距離があるため、それはべつに不思議な話ではなかった。


「手を振ればよかったかな?」

「そうね、声を出して手を振ってくれたら気づいたかも」


 くすくす笑う未来の姿は相変わらず魅力的だった。

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