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彼女が愛したルチアの記録  作者: 蜂屋弥都
第一章
7/7

07.日常のはじまり

次の日からは、入学式と打って変わって、落ち着いた毎日がやってきた。最初は慣れないことも多く、新しい環境になれないことだらけではあったが、着々とそれは普通の生活に変わっていった。


学園での生活は、ルチアにとって新しいものだらけだった。何もかもが新鮮で、あっという間に過ぎる一日一日が輝いて見えた。


授業は基礎的なことをまず教えられ、半年後に組みわけられる部門分けまで、幅広い科目の基礎を勉強する。部門が別れたからと言って、ずっと専門分野だけを学ぶわけではなく、午前は基礎、午後は専門と別れるだけだ。部門は変更する事も出来て、この4年間に4回変更する生徒もいる。その部門事に、必要な資格を取るカリキュラムがなされており、とても実用的である。


ルチアはこの数日だいたいかじった中では、特に商業学と地政学に興味があるため、それに近い部門を視野に入れている。


純粋に興味を持っていた西大陸の商業と地理については、これから先旅をする上でも使える知識だ。冒険者としてまた世界を回るのも良いかもしれない。


ルチアはそんな事を想像しながら授業を聞くのが案外楽しかった。学ぶことは別段嫌いじゃない。あちらの国にいた際は、法学や帝王学から東大陸全土の地理人文学とその生業を勉強していた。魔法があっても、世界的に一般化しているわけではないため、化学の勉強をよく行っていた。


その甲斐あって、国の中枢でも問題なく口を挟めたし、外交や新規事業にも関わる事ができた。案外楽しかったため、独断で動いていた事もある。勿論失敗は何度もしたが。


そんな優等生のルチアでも唯一切手をつけなかったものがあった。


それは、芸術だ。

何故ならルチアには、全くと言っていいほど芸術センスがなかったのだ。デザインセンスはデザイナーが腰を抜かすほど悲惨だった。

また、芸術だけに留まらず、音楽のセンスもなかったため、そうそうに諦める事にしたのだ。


悲しい事にリズム感がなく、ダンスは特に入学前の特訓で相当苦労していたため、パーティの場は出来れば避けたいと思っている。


前回の芸術の授業では、見事なまでに笑いを勝ち取っており、もう芸術は懲り懲りだった。


そんなこんなで、あっという間に二ヶ月が経とうとしており、ルチアたちの最初の関門である学力テストが迫っていた。


「ルチア、今日も自習に付き合って欲しいのだけれど、いいかしら?」


「別にいいよ」


「私たちもご一緒して構いませんか?」


「構わないよ」


ルチアの返答で、シェリルとオデットに加え、アイリンもホッと安堵したような表情を見せる。


「フォランドさん、少しいいかしら?」


その時、一人の女子生徒から声をかけられた。


「ん?」


「この問題を教えて欲しくて」


「ああこれはね――――」


「私もこの後質問いいかしら」


「いいよ」


現在何が起きているのかというと、ルチアは大層モテていた。少々語弊があるが、ルチアに勉強を教えて貰うために、同級生から求められる事が増えたのだ。


というのも、ルチアは芸術関係以外は大変優秀で、教師のお墨付きを貰っている。


自主学習や課題は寝る前に簡単に済ませる程度で、だいたいの授業内容と参考書は全て頭に記憶していた。最初は無表情で近付きにくい印象を持たれており、周囲からは距離を置かれていたが、アイリンやオデットたちと一緒に居る姿を見て、この気に話しかける人が増えていた。


決めては勿論石膏デッサンの実技だったが、真面目そうに見えてズボラだったり、実は美少女で可愛い一面があるのに気付いたクラスの生徒からは、密かにマスコットとして可愛がられるようになっていた。


そして来たるテストに向けて、ルチアはひっきりなしに勉強を教えるようになっていた。教え方も比較的上手く、分からなくても分かるまで言葉を変えて必死に教える様も、クラスの密かな楽しみであった。


「ルチアが居てくれて本当に良かったわ!」


「この前開催してくれた放課後の授業では、みんなとても満足した表情で帰られていたわね」


「これじゃ先生も泣いてるんじゃないかしら」


放課後の図書館で、四人向かい合わせで自習しながら、楽しそうに世間話を楽しんでいた。


「役に立ったようで良かった」


現在は三人それぞれが苦手分野の自習を行い、分からない点があればルチアがそれを教えていた。ルチアは参考書を本のように眺めるだけで、問題集やノートは使わないでいた。


「それにしても、本当にあなたの頭の中を一度覗いてみたいわ。その頭の良さは一体どこから来るのかしら?」


「私だって、分からない事や理解できない事くらいあるよ。ただ、参考書や先生の話をしっかり聞いて、分からなかったら調べると意外と解けるようになるよ」


「それが出来たら苦労しないわ」


アイリンはため息を吐きながらそう言うと、ルチアの参考書を眺め読みする姿を恨めしそうに見つめた。


ルチアはそれ以上返すことを止め、また参考書に目を通した。内容は勿論頭に全て入ってはいるが、抜け目や正式名称の確認をしていた。本気でテスト勉強に打ち込んでいるわけではないが、自分の学力値を測ったのはこれが初めてで、ずっと気になっていた。


待ちに待ったテスト当日は思いのほか順調に進み、ルチアのクラスの生徒も、たまたまルチアが教えた問題が引っ掛からずに解けたと、晴れ晴れとした表情で何度か感謝された。


教科は主に自然地理、歴史、社会学、語学と応用化学に分けられる。これから学ぶ上で必要最低限の知識であり、ここから専門分野に進んでいく。勿論応用問題もあるため、ルチアは徹底的に正回答を目指した。


テストが終了し、待ちに待った結果発表の日。一年生や上級学年がこれから張り出される結果に注目していた。


「只今より結果を張り出します!」


その合図と共に開かれた張り紙に皆が一斉に注目し、混雑した事で中々見れない者もいた。

ルチアも、身長が低い分中々見ることかできず、早々に諦めて待つことにした。


アイリンも早い段階で諦めており、ルチアは友人たちと揃って廊下の壁にもたれかかって眺める事にした。


その場で打ちひしがれている人間もいるため、中々収まらない人だかりの中、徐々に見え始めた結果にようやく目を通すと、ルチアはすぐに自分の名前を発見した。分かりやすいのもそのはず、ルチアは見事一位の満点を叩き出していた。


「凄いじゃないルチア!流石だわ!」


「おめでとう!」


「ありがとう」


他三人の結果も好成績で、平均以上の点数を取れたと嬉しそうにしていた。


「まさかとは思ったけど、満点を出すなんて本当に驚いたわ。けれど大丈夫?」


シェリルの心配気な言葉に、ルチアは不思議そうに首を傾げた。

何か不味いことをしただろうか?


「知らないの?上位成績優秀者はこの学園の上級役員にスカウトされるって。きっとこれから大変よ。あなたそうゆうの、苦手よね?」


「……え?」


「失礼、白髪のそこの令嬢!君がフォランド嬢だよね!」


理解が追いつかない状況の中、不意に後ろから聞こえたルチアを呼ぶ声に、嫌な予感を感じ始めた。

振り返ると茶褐色の優しそうな青年が期待に満ちた目でルチアを見ていた。ネクタイの色が違うため、恐らく上級生だろう。


「な、何か…御用でしょうか」


「学年一位おめでとう!君のようなとても優秀な生徒には是非風紀委員に入って貰いたい!」


隣のシェリルが「早速来たわね」と零したことで、ルチアの嫌な予感は的中した______。



◆ ◆ ◆


午後の休憩時間、ルシアンは生徒会室で優雅にティータイムを嗜んでいた。

室内には他に3年生が2人、4年生が3人おり、皆それぞれ自由に仕事や遊びを楽しんでいた。


ルシアンはソファに座り、横目で奥に座る生徒会長の様子を伺う。

一番奥の目立つ席に座る生徒会長レオン・ハートは、これから起こる事に胸を踊らせ、何やら楽しそうな表情を浮かべていた。


いつも思考の読めない彼の事だが、現在何を考えているかは流石にルシアンでも想像がつく。


ようやく新入生の学力テストが行われ、実力のあるものが明るみになった。毎年成績優秀者は上級役員へになる事が多く、成績が高ければ高い程引く手数多なその学生を、各役員同士で取り合いが始まる。勿論この生徒会でも、贔屓はされない。戦いに参加し、今年も優秀な生徒を勝ち取らねばならない。


今日は待ちに待った結果が発表される日。

皆これから発表される成績の結果を今か今かと待ち望んでいた。


ルシアンたち三人はここで期待し、他の2年生と3年生数人が確認に向かっている。


暫くすると、少し早いノック音が室内に響き、全員がほぼ同時に其方に目を向けた。


入ってきたのは、先程確認に向かった面々。

「失礼します。結果が出ました」


「やっと来たね!待ちくたびれたよ」


レオンは立ち上がり、期待のこもった眼差しで彼らの言葉の続きを待っていた。


「さぁ、結果を教えて!」


「はい。結果はこのようになっております」


「ふむ」


まずは生徒会長に結果を確認させるため、結果が書かれた紙を渡す。


レオンはその紙を一通り読見始めた。


「今年は優秀な成績の子が多いね」


「今年も上位3人のうちの1人は欲しいですね」


「そうね、出ないとここではやっては行けないわ」


生徒会長の傍らでそう言ったのは、同じく4年生の男女だ。


「噂の聖女筆頭候補の子も6位とは凄いね!」


「へぇ、それは凄いですね」


「一度会ってみたかったんだよな」


今度は3年生の2人が話始める。


「____だが、1位に関しては2位と大きく差がある満点を出している」


その言葉に室内のもの達が騒然となる。


満点とは、そう易々と取れるものではない。なぜなら学校側が、決して取れない問題を出題するからだ。だから毎年高得点は何人かいても、満点の前例は非常に少ない。


その前例の1人が生徒会長その人であり、彼を含めた数人の生徒が、異彩を放つ天才たちであった。


「それは一体誰なのですか?」


ルシアンも固唾を呑んで見守る。皆が1番知りたがってる内容だ。


「その人物の名は________」



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