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彼女が愛したルチアの記録  作者: 蜂屋弥都
第一章
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05.初めての友達

一年は瞬く間に過ぎていき、新しい春の温かい日差しの中、ルチアの学園入学の時期がとうとうやって来た。


ルチアがこれから行くのは、西大陸一の名門レーベル学園である。多くの有名人を輩出しており、各国の王族もこぞって入学している。学科は一般科、魔法科、騎士科に別れており、入学当初はこの三つに分けられる。この三つのうち、魔法科と騎士科は入学前に実技試験がある。簡単な素養を図る検査を行い、授業について行ける審査するものだ。


魔法とは万物の力を引き出し、操る力であり、限られた者が発言する能力である。人は身体の内部に魔力核を宿しており、そこから魔力を自由自在に引き出せる人間を魔法士と呼ぶ。魔力を身体が引き出し、操作するためには、一般的に生まれながらの素養や何らかのきっかけで生まれる。これはごく稀にではなく、結構な頻度でじゃんじゃん生まれるけれど、全員がそうではない。


まぁそんな感じだ。


騎士科は、その名の通り、騎士になる為に体力と武力を極めるための専門学科である。脳筋ではないので、魔法科、騎士科共に教養もしっかり勉強する。

簡単に言うと、一般的な教養の他に、専門の学びが設けられた学科である。


最後の一般科とは、魔法科や騎士科の授業が無い代わりに、半年後から一般教養と一緒に数ある専門科目の中からひとつを選び、学ぶ事が出来る。

科目が多く全ての説明は省くが、例えを上げると、医術研究部門は医者を目指すものが多い。聖学部門は、宗教学や聖典を読み、聖者を目指す者が多い。この様な感じだ。


ルチアが通うのは勿論一般科である。まだ部門は決めていないが、何を選んでも面白そうだと感じていた。


貴族や平民問わずこの国の若者には学園への入学の権利が与えられる。そのため、成り上がる者も入れば、平民と懇意になる貴族もいる。

毎年何百人と入学してくるため、その規模は国レベルだと聞いている。


寝坊したら終わりだろう。


全寮制で、男女別れた寮の部屋は、二人部屋が与えられる。


寮の近くには学園市街があり、学生の為の飲食店や出店が出ている。学園は王都の中心地にあるため、学園外の都市にも行けるが、なんせ広すぎるので、中に軽く街がある。


前日まで荷造りに追われ、忙しなくもあっという間に出発当日を迎えた。


「それじゃあ、行って参ります」


あらかた馬車に荷物を詰め終わり、あとは馬車に乗って出発するのみ。ルチアは御者の準備を確かめてから振り返り、両親や使用人たちに向かって挨拶をする。


「行ってらっしゃい、ルチア」


「体には気をつけて、決して無理をしてはダメよ。あなたなら、きっと上手くいくわ」


両親はそう言いつつ、涙ぐんでいた。

後ろでは泣いている使用人がちらほら見えていた。特にメルは涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。折角の可愛らしい顔が台無しである。


「…たくさん、お世話になりました…」


そう言ってルチアは頭を深く下げた。


「何を言ってるのよ。貴方は私たちの子供なのだから……当たり前よ」


今では聞きたれた嬉しい言葉に、ルチアは僅かに頬が緩む。

みんなには本当にお世話になった。こんな私を変わらず愛し、全て受け止めた上で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

まだまだ自分の正体を打ち明けるには時間がかかる。もしかしたら、一生打ち明けられないかもしれない。


それでも、フォランド家の為に、彼らに貰った分、感謝を伝えられたらと思っている。


「ありがとう。いってまいります」


「…いってらっしゃい、気を付けてね」


「はい」


両親と抱き締め合い、後ろ髪引かれる気持ちで馬車に向かう。


手を振る屋敷の者たちに軽く窓越しに手を振りながら、もう一度小さな声で「行ってきます」とルチアは零した。



学園までは数時間であるが、かなりの長旅であった。フォランド伯爵が収める領地は、王都からは少し離れた東側にあった。悪く言うと田舎の領地ではあるが、漁港の栄えた賑やかな街だ。


出発は早朝であったが、到着は夕方になるだろう。それまで気長に待つとするか。


それもつかの間ルチアは、馬車の中で初めての景色にしばしば目を奪われていた。


見たことのない景色、動物、建物、花、人、すべてがユエが知らなかった世界だった。


ルチアは東の大陸から出た事がなかった。海の向こうにも多くの国があり、未だ見たことのない未知の世界で溢れていて、自分たちはその一欠片に立っているのだと昔は夢をふくらませたものである。


特に主人であった陽凛は、世界の話を聞くのが大好きだった。異国の行商人を呼びつけては、いつも異国の話を聞き出していた。骨董品や異国の調度品を集め、コレクションでよく飾っていた。他国の書物を物語のような感覚で楽しんでいた。


でも決して行きたいとは一言も言わなかった。行きたくても彼女はこの先行けないと分かっていたのだろう。


国を捨て、別の道を生きることも出来たのにそれをせず、人生をただ国のためにだけに尽力した彼女。西の国に通じる海を見渡せるあの崖の上で、彼女は何を思って遠くを見つめていたのだろうか。


ルチアは窓から見えるすべての景色が光り輝いて見えて、とても眩しく感じた。無意識に目を細めたのは、果たして日差しのせいなのかルチアにも分からなかった。


きっとこれから、ルチアの周囲は新しいもので満ちていくのだろう。

願わくば、自分の瞳を通して陽凛のもとに届けばいいと思った。


見て、陽凛。

君が見たかった景色は想像以上に美しいよ。


彼女のことを思い出すと、途端に目が熱くなった。


学園に到着すると、長い学園都市を通り過ぎて寮に辿り着いた。明日の入学に備えて、学生は五日前から寮に住むことを許される。ルチアは前日と遅い方である。時刻も夕方になり、ルチアと同じ新入生はもう殆ど見えない。


入ると直ぐ正面に受付があり、聞くと私には四階の部屋が割り振られていた。


荷物は後々業者が運んでくれるので、荷物は軽く持っている。


部屋の合鍵と寮の地図を渡され、地図にそって部屋まで向かう。流石に学園都市が完備された学園の量だけに、広い。


物凄く。


自分の部屋となる一室のドアの前まで辿り着くと、軽くノックする。恐らく同室のもう一人は中にいるのだろう。いくら同室でも、いきなり入るのは不躾だろう。


数秒おいて、ガチャッとドアが開く。


「はーい、待ってたわ。貴方が同室の子ね。どうぞ」


想像した以上に明るくハキハキとした声が返ってきて、僅かに萎縮した。


現れたのは、明るめのブラウンの髪がふわっとゆれる、若草色の瞳の少女だった。猫目のパッチリした瞳は、気の強そうな雰囲気を持っていた。ルチアより数センチ身長が高く、目線が僅かに高かった。


「初めまして。私はアイリン・バーンズ。待ってたよ」


そう言って気さくに手を差し出して来た彼女の手をルチアは軽く握った。


「ルチア・フォランドです。バーンズさん、これから長い間よろしくお願いします」


アイリンはルチアの自己紹介に笑みを浮かべる。


「これから一緒に生活してくんのだから、名前で呼んで。よろしくルチア」


「えっと…では、よろしくアイリン」


ルチアは気さくで親しみやすく、それでいて優しそうな彼女が同室だったことに密かに安堵する。


「ええ、これからよろしくルチア」


与えられた部屋は想像していたよりずっと綺麗で、生活に必要なものはだいたい揃っていた。ベッドと机はお互いに設けられており、それなりに大きなクローゼットもある。


廊下には浴室などもあり、生活する上での必要以上が揃っていた。ちなみに食事は食堂でとることになっている。


「同室の子があなたみたいな子で本当に良かったわ!別に悪い意味で言った訳ではないのよ、ただ、貴族の娘は強気な娘が多いから、色々と小言を言われるんじゃないかと思って心配していたの」


アイリンは心底嬉しそうにルチアを見て言った。


「それに、こんなに可愛い子と同室になれて嬉しいわ!」


「かわいい?」


ルチアははて?と首を傾げた。


眼鏡は外していないし、素顔はちゃんと見えてないはず。髪も銀髪というよりは老婆のような白髪だから、お世辞にも綺麗とは言えない。その上くせ毛でアイリンのさらフワヘアーを羨ましく感じている。


「あら、自覚がないのかしら、あなたひよこちゃんみたいで可愛いわ!それに顔もよく見ると美人さんね。眼鏡がなければもっと可愛いのに」


アイリンから出た言葉に、ルチアは解せぬと思った。何に対してかと言うと、ひよこみたい=小さいと言われた事である。


ルチアはぷぅっと口を膨らませた。普段殆ど機能することの無い眉間が少しだけよって、不服そうな態度でぷいっとそっぽを向き、小さく小言を言う。


「まだ、成長期なので…」


ルチアは未だ小さいと言われる事が大の苦手だった。生まれつき成長が遅く、100年たってようやく10歳程度までと、今の体まで成長するのに長い年月を費やした。そのため、よくチビ呼ばわりされ、苦手意識を感じていた。


そんなルチアの姿に、アイリンは更に可愛いと思った。小さいのを気にしてるのかな?と気付くと、更に可愛くてしょうがなかった。何より、最初会った際に表情に乏しい印象があったが、よく見るとルチアの頭からちょんとはね出た小さなアホ毛が、何とも感情豊かだった。


アイリンはこの可愛い生き物を撫で回したくてウズウズしていた。


そんな事には全く気付いていないルチアは、どうすれば身長を伸ばせるものかと頭を悩ませていた。そう、目の前のアイリンのように、もっと高くなりたい。


「あら、気に触ることだったかしら?」


心底面白く思ったアイリンは、敢えて質問してみた。


「べつに、何も気にしていないよ。ほ、褒め言葉として受け取っておくよ」


そう言いつつちょっとだけしゅんとするルチアを見て、アイリンの手はわなわなした。


「あー!もう可愛いー!!我慢できない」


「へ?うむっ」


堪えきれなくなったアイリンによって、ルチアは抱きしめられ、小動物のように撫でられた。


ルチアは何事かと思ったが、何だか楽しそうなアイリンを見て、まぁいいのかと思った。


その夜、眼鏡を取ったルチアに、更にアイリンが興奮し、ムギュっとされたのは言うまでもない。


しかし何だかんだ友達が出来てちょっぴり嬉しいルチアなのであった。


次回の投稿は1週間後になります。

お楽しみに!

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