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グローリー王国、西のガーレン【アルガド】という港町へ着く。次々と船から奴隷が下りてくると、ボロ服と異臭を放つ臭いは強烈なもので、離れたいくらいだった。仕方なくこの中で120人購入しようとしたとき、鎖の音に反応した。その方向に向うと、少女が必死に鎖を外そうと足掻いていたところだった。少女は薄汚い服を着ており、髪や体も汚れていた。目は死んだ魚のようになっていてまるで死人のようだ。
(酷いな……これが奴隷なのか)と驚きながらも彼女の元へ向かう。するといきなり奴隷は大声で怒鳴り始めるんだ!
「あんた!! 一体私に何をするつもり!!? さっさと放せ!!! さもないと、ただじゃあおかないから!!!」
物凄い気迫に押されてしまいそうになるが勇気を出して話しかけることにした。
「お、おい、大丈夫か? 怪我はない??」
と言うと彼女は言ったんだ。
「ない訳ないでしょ!? 早く解放してよね!! 私の邪魔をするつもり? そうなら容赦しないからね!!」
そう言って彼女は立ち上がり、噛み付いてきたんだ。だから仕方なく魔法を使って身動き取れなくした後、もう一度彼女に聞くことにした。
「お前はどこから来たんだ?」
と聞いた途端、彼女は一瞬暗い顔をした後、笑顔を作って答えた。
「東の大陸からですよ」
と言った後、続けてこう答えたんだ。
「そんなことよりも私を解放してもらえませんかねぇ~? そうすれば私も暴れませんからさぁ~!」
と言ってきた。兵士は激怒し、彼女を殴る。
。
『この阿呆!! 王太子様に無礼を働くなど言語道断だぞ!!』
と言って彼女を痛めつけたので俺が静止させ、謝罪した。
「あぁ、ごめん。痛かったか?」
だが、彼女はまだ不満そうに睨んできたので、魔法で痛みを和らげる。
――彼女と話をする事にしたんだが、一向に話をしてくれないから困り果ててしまったよ。 仕方がないから取り敢えず自己紹介をした。
「我はオレリアン王太子。グローリー王国、オーリ2世の息子にして次期国王である。宜しくな!えっと……君の名は、何という?」
彼女に尋ねると、驚いたような顔をする。
「グローリー王国のオーリ2世の息子!? それに、国王の息子って!! しかも次期国王ですって?? えぇぇ!?!?」
急に大声を上げる。(うるさいなこいつ)と思いつつも話を聞く事にした。
「そんなに驚くなよ」
と言ったら、彼女は直ぐに冷静さを取り戻すんだ。
「えっと、君の名は何ていうんだ?」
「え? あぁ……」
再び名前を聞いてみたんだが、答えてくれないんだ。仕方ないから自分で勝手に名付けることにしてみたよ。それで決めたのが、
「エマはどうだ?」
何故か? って思っただろ? 何となく、響きがいいし可愛いじゃないかと思ってな……って、
そんなことはどうでもいいか。
「エマ……とても素敵な名前……ありがとうございます! 王太子様!」
と喜んでくれた様子。どうやら、気にってくれたようだな。それにしても、本当に美人で可愛げがあるよな……って思っていたらまた睨まれてしまったよ……やれやれだぜ……。
俺は心の中で思ったことをそのまま口にしただけだぞ? 決して邪心なんて持ってはいない
ぞ??……そうだ、彼女から自己紹介を聞いてない。早速、彼女に冗談でドイツ語を喋りながら質問する。
「Was ist dein Lieblingsessen?(好きな食べ物は何ですか?)」
まぁ、冗談だから答えなくても良いが……
「ステーキ……」
と答えた途端、俺は笑い出した。まぁまぁ、今のは紛れかもしれない。今度はギリシャ語で喋る。
「Από ποια χώρα είσαι?(あなたは何処の国出身ですか?)」
「Ζω στο Kash Kingdom(カッシュ王国に住んでます)」
彼女の天才ぶりに俺は目を見開き、驚いた。カッシュ王国って確か崩壊してた国たから皆奴隷にされたんだ。そう可哀想だなと思った。彼女の方を見ると、何故かずっと笑顔で俺を見つめ続けるんだ……。改めて見ると、彼女は次期王女になってもおかしくないくらい天才で可愛かった。そのせいか、少し照れてしまって顔を赤くした事は言うまでもない。
今度は天文学の問題を出してみようと思うから聞いてみる事にしようか。
因みに俺の趣味は読書、天体観測、星空観察なんだよな~っと思いながら本を読むことが俺の日課になってるくらいだから面白いと感じるんだ。そう思いながら、本をパラパラめくり、星座のページを開いた後、問題を出す。
「じゃあ、この中のどの星がカペラでしょうか?」
「カペラは夏に見える一等星であり、全天で最も明るい恒星であると言われています。また、別名シリウスとも言うんですよ? 知ってましたか~?」
と彼女が言うと俺は目を輝かせながら頷くのだ。
次に
「それじゃあ、デネブはどこでしょう?」
と聞いたら、
「デネブは白鳥座と呼ばれる星座にある星の1つです」
と答えるんだ。流石だな、と思っていると、彼女は嬉しそうにしながら俺を見つめた。
「凄いですね、流石です。正解ですよ!」
褒めると、彼女も満更でもないような表情をするんだが、すぐに真顔に戻るんだ。そして彼女は顔を傾き、眉を顰めながら俺に質問する。
「何で私が、カシオペアとかシリウスを知らない事を知ってたのですか? それとさっき聞いた質問ですが、あれってもしかして、ギリシャ神話に出てくる人物を当てていたのです? あの有名なアルゲス王は、ゼウスが白鳥の姿になって変身したものでしょ?」
気付いてしまったか、俺は驚いていて何も言えないまま立ち尽くしていた……。
「私が知らないとでも思ったのですかね?」
と言うものだから思わず頷いてしまった。彼女は笑いながら俺に近付いて来たと思ったらいきなり、手錠を伸ばす。
「そんなに見るんだったら私を解放したら? そうすればもっと楽しませてあげるよ?」
と言って来るが、今はそれどころじゃないんだ。彼女が俺を脅してきたせいで頭が真っ白になりかけたからだ……。冷や汗を流しつつも彼女の様子を見てみると何やらドヤ顔してくる。ちょっと苛つきが現れるが仕方なく手錠を解錠したのだった。すると突然、俺の胸に飛び込んでくる彼女。
これには思わずびっくりしてしまい目を大きく開いたのだが、こっちから熱が伝わってくる。よく見ると、彼女の顔は赤くなり、風邪を引いてる様子だったので、とりあえず部屋に連れ帰ることにする。
その後で医者に見てもらったところ、ただの熱だという事が分かり、安堵するも彼女が倒れそうになった時を思い出す度に身震いしてしまう自分がいた。それよりも彼女の心配の方が大きいと思った俺は、付きっきりの看病を始めることにしたんだ。
そんな日々が続く中で分かった事がある。彼女はどうやら俺と話がしたいらしく色々と質問をしてくる。
「グローリー王国ってどんな所? 他の国の事知ってるの?」
と聞いてきたため、答えてやったんだ。
「グローリー王国は他の国には無い文化が発展している国で、とても楽しい国なんだという事と、他にグローリー王国よりも素晴らしい国はない所」
勿論、彼女は納得してくれて嬉しそうだった。だが、彼女は窓の外を見て呟いた。
「地形的と政治的な判断でいくと貴方の王国は消滅しますね」
とその言葉は、俺にとって衝撃的なものだったのだ。
「何故知ってるんだ?」
「いや、面積と街の発展と人口の多さ、そして、地形を私の推理で予想するとほぼ100パーセント敵に占拠されますね」
そう言われた途端に絶望感に襲われた。しかしエマはまだ話を続ける。
「貴方はどう思いますか?」
と言った為、俺も考え始める。
「確かにお前の言った通りになる可能性が高いな……そうなると不味いな」
と言い返す。そこでエマは閃いたのか俺に言ったのだ。
「貴方が私を将軍にしてくれたらこの街は救われる可能性があります。どうしますか? 私を賭けてみる価値はあると思いますよ??」
と言ってくるんだ。だから俺も真剣に考えて結論を出したんだ。
「いいだろう、お前の意見に賭けてみようじゃないか!ただし、裏切ったら承知しないからな!」
と言った後に彼女を強く抱きしめたんだ……。