二人の練習
家に帰り、夜ご飯やお風呂を済ませ布団に入った23時。なぜか今日はあまり眠くない。朝学校で寝たからか、それとも体力がついてきたのか。はたまた…。放課後での彼女の姿が不意に脳裏に流れてきたが、僕は頭を振り布団を被った。そう繰り返している間に僕は眠りについたのであった。
いつものように朝のアラームで目覚め…ることはなく、表示されている時間は8時30分。そう。寝坊である。
「遅刻確定じゃないか…。3日目にして遅刻とは、さすが僕!逆にすごいよね!どうせ遅刻だしゆっくり行こう」
僕は現実逃避を始め、いつもと同じように準備を始めた。9時30になる頃、全ての準備が終わり、とうとう学校へ行く覚悟を決めた。重い扉を開け、僕は歩き出した。
教室のドアを開けるとそこには授業中のクラスメートの姿と、ホッとした顔の彼女が見えた。
「おい上田〜3日目にしてもう遅刻か〜早く席につけ」教師の青山先生の授業だったようで、僕は「すみません」と一言だけ言い、席についた。
「音楽教えるのが嫌で休むのかと思った。危なかったね!そうしてたらきみに泣かされたってクラスの人に言うところだったよ!」彼女はにやにやしながら僕に言った。
危なかった。行かない選択を取っていたら、ただでさえクラスで浮いている僕は社会的に死ぬところだった。学校に行く選択をした自分を褒めつつ、僕は授業の準備を始めた。
「今日の放課後、音楽室ね」彼女はウィンクしながらそう言うと、黒板に目を向け授業に集中するのであった。
それからあっという間に時間は過ぎ、放課後となっていた。
人が少なくなり始め、音楽室に行く準備を始める。彼女は教室にはもういなかった。
音楽室の前にいくと聞き覚えのある下手くそな歌声が少し漏れていた。
「へたくそ」僕はそう告げながら教室に入った。
「失礼な!これでも真剣に歌ってるんです!!」彼女は両腕を組み、口を膨らませながらそう言った。
「まずは音を取れるようになろう。僕がピアノで音を鳴らすから、同じ音で歌って」
僕はピアノを開き、椅子に座るとピアノの音を確認しながら準備を始めた。
「わ、わかった!」彼女は少し緊張しながらピアノの隣になった。
「じゃあ鳴らすね」「う、うん!」
僕はドの音を鳴らす。彼女はミを発す。
僕はレの音を鳴らす。彼女はシを発す。
僕はミの音を鳴らす。彼女はレを発す。
「ねえ、ふざけてる…?」あまりの音の合わなさに僕は驚いた。
「ふ、ふざけてないもん!真剣にやってるもん!」彼女は目に涙をため言った。
「ここまでひどいとは…」「うう…。ごめんなさい…。」
またいつものように無意識に失言をしてしまっていた。「あ、ご、ごめん!次は僕も一緒に声を出すからそれに合わせてみて!」
ピアノの音だけでなく僕も一緒に声出すことを伝え練習を再開した。
「ド〜」「ミ〜」「もっと低く!」「ド〜」「シ〜」「低すぎ!」「「ド〜」」「音が合った!!」
同じ音が出た瞬間、彼女は嬉しそうに飛び跳ねた。「まだ一音合っただけだからね。この感覚を忘れずに練習を続けよう」
そう言って二人の練習はもう少しだけ続いた。
音楽室には穏やかな夕日の光で満ちていた。