心臓の音
「やだ。」
「え。」僕はかなりきつく彼女に告げたのに、やだ…?
もしかして、僕の言葉が聞こえてなかったのか…?そんなこと考えててしまった。
それから授業が始まり、彼女との会話が途絶えたまま、2日目の学校生活が始まった。
授業が終わるたび、彼女はクラスメートに囲まれる。あれから彼女と会話ができないまま、気づけば放課後になっていた。
生徒が帰っていく中で、彼女は未だに教室を出ようとしない。
僕も人混みが苦手なため、今日も人がいなくなるのを待っていた。
クラスから僕と彼女以外の人がいなくなった頃、僕は荷物をまとめ教室を出ようと席をたった。
「まって」昨日と同様彼女に呼び止められた。
「何?」僕は少し冷たく彼女に答えた。
「音楽をおしえて」「僕には無理」これまでと変わらないやりとりをすると彼女は「どうしてそんなに嫌なの?」と僕に問いかけた。
「きみには才能がないし、僕は音楽が嫌いだ」僕は短気なのかもしれない。まだ出会って2日目の人にここまできつく当たるなんて。僕は自分自身に嫌気が差していた。
「私ね、才能がないことわかってる。それでも歌が好きなの。私を救ってくれた歌が」
彼女はそう言うと彼女の過去話始めた。
「私、中学生の頃いじめられていたの。何度も死のうと思ったこともある。誰も信じられなくてそんな自分自身も嫌いで。そんなある日あの曲に出会ったの。その曲は暖かくてその時の私を包んでくれて、世の中にはこんなきらきらしてる曲を作れる人がいるんだって思ったらなんだか少し心が軽くなってね、もう少し頑張ってみようって思ったの!それから見た目とか喋り方を研究して知り合いがいない高校に通ってる。今はクラスの人も優しくて、そんな人達と私はしっかり話せている。それはあのとき私を救ってくれたあの曲のおかげなの。だから私はその人みたいに歌を歌いたい!」
彼女は目から溢れる涙を制服の袖で拭きながら僕の目を真っ直ぐみてそう言った。
気がつくと僕の右目からも涙が一滴落ちていた。
僕の作った歌が誰かの支えになっている。こんな僕でも誰かの役にたてていた。そう考えると僕は音楽はまだ好きになれないが、彼女のためになら少しだけ音楽をやろうと思えたのだ。
「きみが上手くなれるかはわからないけど、少しだけならて、手伝う」
僕は少し照れているのかぼそぼそと彼女に伝えた。
彼女はパーッと笑顔を咲かせ「言質取ったからね!嘘ついたらみんなの前できみに泣かされたって言うから!!」
そう言うと彼女は荷物をまとめ、スキップしながら帰っていった。
「も、もう後には戻れないな…」僕はほんの少しだけ自分の言った言葉に後悔をし、教室を出るのであった。
その日はいつもより自分の心臓の音が鮮明に聞こえると感じた僕だった。