彼女の歌声
教師の話も終え、休憩時間となった。するとたくさんの生徒が隣、つまり一色 彩香の周りに集まった。
「代表あいさつすごかったね!かっこよかった!」「朝遅刻してたけど大丈夫?」などと彼女はまたたく間にクラスの中心となっていた。そう、彼女は世間から見ると美人の部類だ。身長は160センチでスレンダーな体型、大きな目に整った顔立ち、代表あいさつのために整えた髪は腰まで伸び、絹のようにサラサラな金髪で愛嬌があり、みんなの質問に明るく笑顔で答え、そんな彼女の周りはとても楽しそうな空間ができていた。
僕は少し居心地の悪さを感じ、席を離れようとすると、彼女の周りにいた、肩まで切りそろえた茶髪の可愛らしい女の子が僕に話しかけてきた。「そういえば君、詩音って名前だよね!あの有名な作曲家と同じ名前だね!もしかして本人?」などと少し冗談っぽく話しかけてきた。
「そんな人知らない」うつむきながら僕はそっけなくそう告げると、そそくさと教室を出た。
周りの生徒は「態度悪〜」や「あの有名な作曲家知らないとかヤバすぎ!」などと言った言葉が聞こえてきた。僕はその声が聞こえなくなるよう足早に廊下を歩いた。
一色は「まあまあ」と周りの生徒を落ち着かせ、違う話題へとうつった。
戻りたくはないが、次の授業が始まるため、仕方なく、重たい足を引きずりながら教室へと戻った。
生徒たちの目線はあまりいいものではなかったが、なんとか自分の席に戻ることができた。
「そんな態度ばっかとってたら、一人ぼっちになっちゃうよ?」彼女は心配そうに言ってくれた。
「気をつけるよ…」と僕が告げると担任が今後の授業スケジュールなどの説明を始めた。
あっという間に授業が終わり、下校の時間になった。周りの生徒達は早速できた新しい友達同士で帰宅していた。一色は周りの生徒達に「ばいばーい!またねー!」などと告げながら未だに席に座ったままだった。
「一緒にかえろー!」「まだ帰らないの?」という同級生に「ちょっと用事があるから先に帰ってて〜!また今度帰ろうね♪」などと伝え、僕もクラスメートが帰ったのを確認し、帰ろうと準備をしていると、「待って」と彼女に呼び止められた。「どうしたの」と答えると「朝、音痴って言われたのまだ誤ってもらってない!」彼女が朝で会ったときのような子供っぽい表情をし、僕に言った。
僕はまだ誤っていなかったことを思い出し、「あ、ご、ごめん!謝ろうと思ってたの忘れてた…。」とたどたどしく伝えると、彼女はクスッと笑い「なにそれ〜」と楽しそうに言った。
「詩音って作曲家ほんとに知らないの?」と彼女が僕の顔を覗き込み聞いてきた。「知らないよ」僕はうつむきながらそう答えた。昔から詩音という実名で活動していたが、顔は出していなかったため、気づかれることは今までなかった。だからこれからも隠していこうと僕は思っている。
もう二度と戻ることはない作曲家の”詩音”に。
「そっか。私好きなんだ!詩音の作る曲が!」彼女は笑顔でそう言っていた。
あぁ、彼女も”詩音が作る売れる曲”が好きなんだな。と少し諦観した。
「あのね!確かに最近の曲も好きだけど、私はいっちばん最初に詩音が出した”はじまりのうた”って曲が大好きなの!!もう、あのきらきらしてて明るくて光が指してて、聴いてると暖かくなるあの曲!
歌声もきれいで、楽しそうに歌ってて…あの曲を聴いた頃から私も歌を歌うのが趣味になったの!
私もあんなきらきらしてて、虹のような様々な色に溢れてる歌を歌いたいなって!まあ、まだ私音痴なんだけどねっ」彼女は少しべろを出し照れくさそうに笑った。
「だから、君も詩音の曲を聴いてみてよ!何なら今から歌ってあげる!」
そう言うと、僕が急いで止めようとするも間に合わず彼女が歌い始めた。
全く曲に聞こえないほど下手な歌声だったが、やはり彼女の歌声を聴いていると落ち着き昔の楽しかった幸せだった時間を思い出させる。僕の周りとは違って、彼女の周りはとても色鮮やかだ。
僕と違うから気になるのかな。と思っていると、彼女は歌い終わったようでとても満足そうにしていた。
「やっぱいい曲だね!歌ってると楽しくなっちゃう!朝、君と出会ったときに歌ったのもこの曲なんだよ!」
「え。朝もこの曲歌ってたの!?全然さっきと違うじゃん!さっきのもひどかったけど、朝のとは違うじゃん!」また僕は気づいて口を抑えたが、間に合わなかったようだ。
彼女は少し目元に涙をため、「そこまで言うなら、君が私に音楽を教えてよ!!」と怒ったように言ってきた。
「え。僕が君に音楽を…?」
僕の世界に少し君の色が混じった気がした。
いつもより少し長くなってしまいました…