第6話 剣聖の息子と伝説の聖剣①
頬の傷を綺麗に直したアメリアが不敵な笑みを浮かべて「そろそろ親父を許してやるか」っと言いながらアレイン家から自宅へと帰宅した。こんな短時間で頬の傷が治る訳もなく、シャルルの治癒魔法による結果だと付け加えておこう。
そしてアレイン家は『クレイジーリフォーム』などと言う訳の分からない魔法で内装が変わっている。母さんが言うには「アメリアちゃんの気持ちをもてあそぶような息子の部屋は没収」などと暴論を並べて僕の部屋が消えてしまった。
もともと部屋があった場所はただの壁になっている。
「理不尽だ」――僕は元々部屋だった場所、つまり廊下に座布団を敷く。青色の狸型ロボットですらもう少しマシな生活をしていると言うのに。――本人がいたら「ネコ型だよ!」っとツッコミを受けそうだ。
そもそもロボットってなんだよ。
そんな妄想夢想なツッコミもこの状況だと虚しさを増す。学年順位が発表されてから三日間はヴィスナ学園が休みとなる。その晴れ晴れしい一日目がすでに昼間であり、部屋の没収と悪びれの無いアメリアの表情ではムカついて当然だ。
座布団越しに寝っ転がり、両足を上下させながら掃除道具のように廊下を動き回っていた。今回の件から僕が得るべき教訓は異性の誘惑に騙された男は一生を棒に振るうと言うことだ。軽い挑発に騙された挙句に訳の分からない三文芝居で部屋を没収された僕は、もしかすると今なら世界を滅ぼせるかもしれない。
「やぁリクト。君は廊下で寝っ転がりながら何をしているんだい?」
いきなり登場したリリス。
リクトは廊下で寝っ転がっておりリリスは階段付近に立っている。この角度だと綺麗にスカートの中が見えた。特に意味は無いのかもしれないが僕は少しだけ目を細める。
ん? 可笑しい、影が僕の邪魔をする。
「アメリアの次はリリスか」
「ハハ、そんな嫌そうな表情をしないでくれ。それと私のスカートの中を一生懸命覗こうとするのは構わないが絶対に見えないようになっているから無駄な努力だよ?」
「そんな物理法則を無視するような魔法を僕は認めない」
「魔法じゃないけどね。それに魔法は物理じゃないからその法則を当てはめるのは無理があるよ」
「何でここにいるんだよ? それに休日なのに制服だし」
リリスは休日だと言うのに制服を着ていた。そしてなぜここにいるのかも分からない。とりあえず余計な会話を割愛するために僕はまとめて質問した。
「別に制服でも可笑しくは無いだろう? 王都から学園に通っている生徒は貴族ばかりだから私のような平民上がりの家系はドレスで王都を出歩く習慣が無いのだよ。制服が不自然に思われない唯一の正装さ」
「まぁ、確かに」
ヴィスナ学園は休日であろうと研究会などが行われており登校している生徒は多い。中央都市と王都の境目にあるため帰宅中の寄り道に王都へ出向く生徒は少なくない。だから制服と言うのは盲点だった。
制服ほど気楽に王都を回れる正装は無いのかもしれない。
「それとここに来た理由は地下室に封印されている聖剣を見たくてね。随分と面白いけど戦闘で使える武器じゃないから私には意味が無かったよ。リクトはもう会ったかい?」
「いや、そう言えば地下室には結局入らなかったな。聖剣なのに武器じゃないのか? 随分と矛盾しているように思うけど?」
内心で少しだけ残念に思った。すごい武器なら僕でも少しは強くなれると思ったからだ。まぁ、武器に頼らなきゃ強くなれないなんて騎士として終わってるかもしれないが。
「そんなことは無い。武器として使えないほど傷だらけだった、それだけだよ。それにこのまま私が登場しなかったらリクトは一日中そこで寝っ転がっていたんじゃないのかい? そんな物語に進展が無さすぎる展開は許せなくてね」
「え、リリスってヒロインなの?」
「違うのだよ。どちらかと言えば大きなリュックを背負ったツインテール少女的なポジションがいいと思うんだ。とりあえず会話劇が上手く回らなくなったら登場させとけ、みたいな感じかな?」
そんな「噛みました」っという台詞が似合いそうな迷子少女を僕は知らない。そして僕はそんな言葉上手な少女を満足させられるほどのギャグセンスと読解力を持ってはいないのだから、そんなものは魅力的な主人公に任せるのが一番だ。
「はぁ~適当すぎる」
「そう言えば貴族の中で今話題になっているエトリックと言う少年を知っているかい? どうやら学園の廊下で女子生徒に性的暴力を働いて噂が独り歩きしているらしいのだよ」
リリスのその一言にはさすがに驚いた。性格最悪の貴族に貴族を煮込んだようなクズ野郎ではあるが、それでも偉い家系だったはずだ。そんなふざけた事をすれば貴族の世界で死と同義なんて馬鹿でもわかる。
「嘘でしょ!? 気が狂ったのか、それとも精神的な魔法を受けたんじゃ。あのエトリックがやらかすとは思えないけど」
僕の一言に何故かリリスがため息を吐きながら「私もそう思っていたのだよ」っと悟ったような表情を浮かべている。どうやら何か知っているらしい。しかし面倒ごとに巻き込まれそうな予感がしたのでそれ以上は追及しなかった。
「そうだ。どうやら私は貴族からモテモテらしいのだが、リクトの客観的な意見を聞いてみたいのだよ。もしも私がリクトとの子を望んだとしたらリクトはどうする?」
「いきなりすぎる!? 何だよ、その質問! 断るに決まってるじゃないか。僕はまだ死にたくはないし、そんな事をすれば伝説の英雄達が首をそろえて集合するって」
リリスと婚約したがっている貴族は確かに多いと思う。しかしそれはリリスの父親である勇者――【ロイド・ドラゴニクス】をあまりにも理解していない無知だ。あの人は親バカを通り越してリリスを溺愛している。リリスが惚れた男がこの世に存在すると知れば、その男は間違えなく壮絶な人生を歩むことになるだろう。
少なくとも勇者より強い男が最低条件だ。
「……へぇ。そんなに私は嫌なのかい? そうなのかい? そこまで拒絶されるほど私はリクトに嫌われるようなことをした覚えは無いのだけれどね」
僕は「ハッ!?」としてリリスの冷たい視線に冷や汗を流す。さすがに激しく拒否しすぎた。それに先程からスカートの中を覗きながら会話をすると言うあり得ない状況を受け入れていたが、よくよく考えるとそれも可笑しい。
「ち、違う。そう言った立場みたいなものが無ければ、僕は」
「僕は?」
「そのぉー」
「その?」
「いいと思います」
「――……ふぅーん」
少しだけ視線の棘が丸くなった気がする。リリスはゆっくりとしゃがみ込むと僕の胸に座り込んでニッコリと笑みを浮かべた。僕は抵抗することも出来ず、その不気味と言うほかない表情に苦笑いを浮かべる。
「リリスさん?」
「それじゃ、王都名店の『テリスティー』でレアチーズケーキを私にプレゼントしたまえ。そうすれば今回の件は許してあげるのだよ」
「リリスってケーキ好きだったっけ?」
「リクトの次ぐらいに好きなのだよ」
そんな無駄話を挟んで僕は何とかこの話を有耶無耶に出来ないか試みたが、それはどうやら無理そうだ。銀色の前髪から薄っすらと見える瞳が淡い白色の光を帯びていた。その瞳の前では『嘘も真実も』意味なんて無いのだから。
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