第4話 必要最低限の解説はこれにて終了
――いや、地下室ってなんだよ!?
確かに一軒家としては立派かもしれない。しかしそれは『平民』としては……っという事である。リクトが王都から少し離れた中央都市で生活しているのもそのためだ。
いくら剣聖の息子として育っていたとしても親父は『騎士』であり『貴族』じゃない。まぁそこらの貴族よりは贅沢な暮らしをしているかもしれないが、旅好きな親父にとって国で固定されたお金に価値なんて無い。
「貴族にしてやる」と言う誘いも蹴るような人だ。何を考えて生きているのか僕にもわからない自由人である。話が脱線してしまったが要するに、僕が住んでいるこの家に地下室なんて存在しない。
そんな場所を作るような資金があるとは思えないのだ。
リクトは怒り狂っている母さんの後ろを慌てて追いかけた。母さんが立ち止まったのは普段から使っているキッチンだ。区切られたように木柱が四方向に立っており、リビングからオープンに開けた一般的なキッチン。
なぜここに?
そう思うのも束の間だ。
母さんは木製の床に向かってかかと落しをすると同時に「クレイジーリフォーム!」っと省略詠唱を唱えた。長文の詠唱を自分の中で単語化することで詠唱を省略できる技術。そして頭の中で完全に理解した文字列を『言語』としてでは無く『概念』に訴える技術をこの世界では【無詠唱】と呼んでいる。
母さんが行ったのは無詠唱の一歩手前の技術。
そして周囲に無数の魔法陣が出現すると同時に魔法陣同士が歯車のように結合し始めて「カタカタカタカタ」っと回転を始めた。
全体が秘密箱のように原型を変えていく。そして地震でも起きたのではないかと錯覚するような大きな揺れと共に地面が不規則に動き始めた。
いや、地面だけでは無い。床も家具も全て。
「「嘘でしょ!?」」
リクトの後ろをワクワクした表情で追いかけてきたアメリアも驚愕している。
声が重なった。しかし無理も無いだろう。
僕はそれ以上に驚いている。
どうなっている?
こんな宮崎監督が描きそうな動く家に住んだ覚えはない!
って宮崎監督って誰だよ!?
優れた作品は世界観や設定を超越するということだろう。そして大きな揺れが収まると同時にリフォームをしたように全ての配置が変わっていた。動くはずが無い木柱まで動いているし、こんな仕掛けは王族や子爵以上の貴族でないと再現できない代物だ。
そしてキッチンだったその場所は開けた何もないスペースになっており、目の前には地下へと続く階段が出来上がっていた。
親父は『結界の外で天魔大戦争やってるからちょっと参加してくるわ。次に会う時はリリスちゃんに負けないぜ。って伝えとけ!』と言う書置きを残して現在は行方不明。
そして弟のアーサーも母親は『レボルシオ帝国の第一王女』で腹違い。ここで生活していない。アーサーは僕の母さんのことを尊敬しているらしいが今はどうでもいい話だ。
つまりこの仕掛けを僕は誰からも聞かされていない。
「こんな地下施設みたいな……いやどちらかと言えばダンジョンの入り口。こんなパンデミックな家に住んでいたなんて僕は知らなかったんだけど!?」
「あら、これから死にゆく私の息子リクトじゃない。遺言はそれでいいかしら? それとアメリアちゃんのご両親に土下座しに行くから、死んだ後にアメリアちゃんに謝っておきなさい」
死にゆくのに、死んだ後にまた謝るの!?
僕はどうなってしまうんだろうか? それに土下座って母さんの故郷で使われてる礼儀作法だよね? この国の人たちから見たら変なポーズで謝る変人だよ!?
「あのぉ、シャルルさん。私は別にそこまで怒ってないぜ? はしゃぎ過ぎたことを謝りたいぐらいだぜ」
そう言ってアメリアが淑女らしく頭を下げた。キャラに合わない行動に驚愕している僕を傍に女性同士の会話が始まる。
ついでに説明すると僕の母さんの名前は【シャルル・アレイン】
ただの平民だ。少し違うか……剣聖が認めた平民だ。
ここら辺では珍しい黒髪。そして鋭い目つきは男性すら圧倒させる存在感を放っていた。ポワポワした女性が人気のヴィスナ大国ではなかなか出会えない雰囲気をしている。
リクトの黒髪は母親譲りであり、意外と異性の視線を集めていた。
しかし本人がそれを自覚することは無い。
「そういう訳にはいかないわ。強姦するような鬼畜に育てた私にも責任がある。契りを交わしたカップルならともかく、抵抗もできない少女に無理やり迫ったことも許せないわ」
ちょっと待て!? 母さんはあの一瞬で僕をそんなゲス野郎だと思い込んでるのか。信用と言う言葉が僕と母さんの間に存在していないんじゃ?
「シャルルさん安心してくれ! 私はリクトより強いから問題ない!」
「うぐ!?」――こいつはなんてこと言ってくれやがる。
確かに魔法が使えない僕は弱いかもしれない。しかしその事実を年下の少女に言われると言うのはプライドもメンタルもぶっ壊される。泣きそうだ。
「そうかもしれないけど、抵抗はしなかったの?」
母さんまで認めないでほしい。僕ってそんなに弱いか!? まぁ学年で最下位の実力だから仕方ないかもしれない。けど母さんぐらいは味方になって欲しかった。
シャルルは小首をかしげてアメリアに質問した。
「その……な。リクトならいいかなって。シャルルさんが私みたいなガサツな女を許してくれるとは思わないけどさ」
おい待て!! なんで悲しそうな表情しながらとんでもないこと口走ってんだ!? 母さんが目を見開きながら両手広げちゃってんじゃんか!?
覚悟を決めたような真面目な顔つきでシャルルは両手を広げていた。まるで全ての責任を自分が引き受けるような、そんな歴戦の戦士すら一歩引かせるような覚悟だ。
嘘だろ……アメリア……まさか!?
そのままアメリアはシャルルに抱き着いた。強く激しく抱きしめ合う二人はもしかすると僕以上の絆を一瞬で築き上げたのかもしれない。
「そんなわけ無いじゃない! あなたみたいな優しい子なら私は大歓迎よ! 少し前まであんなに小さかったはずのアメリアが今では立派なレディーね」
ちょっと母さん!? なんで『ちゃん』付けじゃ無くなってんのさ? この子なら息子を任せられるみたいな満足そうな笑みを止めてくれ。
「ありがとうございます。シャルルさん……いやお母さん」
いやいやいやいやこの展開はなんだ!?
「リクトはまだ十八の子供だけどアメリアがしっかりと面倒を見てあげなさい」
「私だってまだ十六の子供だ。リクトにいっぱい迷惑かけるかもしれないが、それを一緒に乗り越えられるような関係になるぜ」
まるで主人公の年齢を伝え忘れた神様的な何かが、会話の流れを無理やり捻じ曲げて僕たちの年齢を知ってもらおうと努力した結果を感じる。
そんな事は一言も言っていないが。それに妄言は次の一言で消し飛ぶわけだ。
「「と言う訳でしっかりと責任取りなさい。リクト」」
なんで会話がハモるんですか? それにアメリアはそんな口調じゃ無かったじゃないか。もっと男勝りで、そんな諭す感じだったか!? 僕の方が疲れて口調が変わってるわ。
僕は視線をそらして「考えておきます」と口にした。
それからリクトがどうなったのかは言うまでもない。しかしツッコミの連続で地下室に入ることは無かった。話も中途半端な結果になってしまい、その地下へと続く階段は何もなかったかのように放置されている。
僕が『師匠』と出会うのはどうやらもう少し後になるらしい。
折れた慈悲の聖剣【カーテナ・A・ジュワユーズ】――聖剣でありながら何物も破壊することは出来ず、何者も殺すことは出来ない。剣として生み出されて剣の役割を放棄した伝説の剣。
故に全ての武器の中で『最弱』であり『最高』の僕の師匠。
読んでいただきありがとうございます。
適度にキャラ紹介も出来たのでそろそろシリアスな展開を始めますか。
そして今後も読んでいただけるなら【ブックマーク】よろしくお願いします!