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第12話 剣聖の息子と伝説の聖剣~ラスト~

 それからリクトはリリスと別れてヴィスナ学園を離れる。複数の教師が爆発騒ぎを聞きつけて血相を抱えながら走って来たからだ。リリスは「ちょっと魔法の訓練でね」と言ってその場で言い訳もせずに教師たちに連行された。


 もしかするとレイナが教師に報告したのかもしれないが、その場にいなかった僕には詳しいことまでは分からない。リクトは教師の目を盗んでリリスに逃がしてもらった。


 助けられっぱなしで申し訳なさを通り越して願いの一つでも叶えてあげたくなる。まぁ、僕のような人間に叶えてあげられる事なんて無いんだけどさ。


 そしてリリスはその後、停学処分を言い渡された。


 問題はどうやらヴィスナ学園で学年順位上位者の六名に渡されるバッチを破壊したことにある。あれは身分証明の代わりとしても使える軍人の勲章と同じような物だ。それにヴィスナ学園で『一部の生徒しか入ることが許されない場所』のカギとしても使われる。


 替えが効かない。


 それだけ高い技術力が集結した貴重な物だったと言える。


 他の成績上位者はレイナを除いて呆れていた。そして泥だらけの制服を魔法で綺麗にすることも無く廊下を堂々と歩くものだからヴィスナ学園中が驚愕の嵐となってしまう。リクトが学園の裏で……とか、エトリックが女子生徒に……などと言う小さな話題を口にする生徒はいない。


 勇者と聖女の娘が停学処分を受けて泥だらけで教師に連行される。


 そんなふざけた状況に貴族連中はリリスの弱みを握ろうと必死だ。


 リリスが学園長を含めた偉い方々から解放されたのは夕方が過ぎる頃。すでに放課後となっていた。そしてため息まじりにリリスは出入り口の校門へと向かう。


「全く、両親の肩書やら名誉やらを私に求めないんでほしい。とても不快だ。それにあのバッチで入れる魅力的な場所は無かったと言うのに」


 学生らしい愚痴を並べていると校門の前で立っている少女が一人。


「リリス! ――リクトはあの後……大丈夫だった?」


 レイナ・ヴィスナだ。


 金髪を心地の良い微風でゆらゆらと靡かせながら心配そうに立っていた。校門の前で向かい合うように立っている訳だが、泥だらけの制服を着ているリリスの方がヴィジュアル面で負けているような気がする。


 しかしリクトの為に行った行為だと思えば、ここは勝ち誇った表情を浮かべるべきだ。何もできずに教師を呼びに行くようなバカ女と比べる方が間違っている。


 これはそう言う証なのだから。


 だからしっかりと学園中にアピールしとかなければ。魔法を使って一瞬で綺麗にしてしまうには勿体ない出来事だ。リクトは大怪我もあったから制服を含めて綺麗に再生してしまったが。


「安心したまえ。――私の騎士は無事だよ」


 そのリリスの発言にレイナは目を見開いた。あり得ない事を口にしている。女性にとっての騎士は人生を共にする夫婦よりも重い。夫婦とは愛を形にするであり、騎士とは共に人生を歩むものだ。それは『血の契約』によって結ばれた書類でどうこうなると言うものではない。


 政略結婚が当たり前の世界で騎士だけが女性に許された自由な選択。


 人生で一度しか許されない絆だ。


 レイナにとっては冗談でも笑えない。視線を合わせて表情に棘がある。


「リリスの騎士じゃないでしょ?」


 しかしリリスは気にした様子もなく鼻で笑って見せた。


「いいや、あれは私の騎士だよ。少なくとも今日のレイナの対応を見て、私は君と言う人間を信用できなくなった。君はリクトに言ってはいけない事を言い過ぎたのだよ」


 ――嘘つき。リリスはリクトを選ばないって……


「あんな酷い光景を見てあんな酷い事を言われたら」


 私はリクトになんて言ったの? 覚えてない。それにリリスが停学処分になったって話を聞いた時、私はリクトとリリスの間でなにかあったんだとすぐに察した。


 そして自分が何もできなかった事だけは分かる。


「女性にとって騎士とは対等であり死ぬときは同じ。それは貴族や恋人などと言う書類で済まされる中途半端な物じゃない。血の契約によって結ばれた本物の証――残念だけどレイナには譲れない理由が出来た」


「リリスはそんなにリクトがいいの?」


「聞く必要があるのかい?」


 無い。


 子供の頃から知っている。だからリリスがリクトを騎士にするつもりが無いと私に言った時、本当に安堵した。世界中が敵になったとしてもリクトを手に入れられる自身はあるが、リリスが相手だとびっくりするぐらい勝てる気がしない。


 必ずリクトはリリスを選ぶ。その確信があった。


 確信じゃない、どちらかと言えば常識だ。手からりんごを放せば地面に落ちる。そんな当たり前として受け入れてしまう。


 それほどまでに二人はお似合いだ。


 魔法が使えるようになった日からリクトと私の間には埋めることが出来ないほどの亀裂が出来ている。それを嘲笑うように私以上に優れてた才能を持っているはずのリリスがリクトと対等の立場で話せていた。


 あまりに理不尽じゃないか。


 だからレイナは表情に出さずとも言葉に熱が入る。


「リクトの気持ちも知らずに勝手なことを言わないで」


「知らずに? なにも知らない君がそれを言うのかい? 私と君の差は会話を数回程度かさねれば誰の目から見ても浮き彫りになる。私の予想だとリクトとエトリックは必ず決闘を行う。どちらが勝つと思う?」


「リクト」


「感情に任せた回答など期待していないよ。そうだね、どちらが勝つか――『リクトに二度と自分から接触しない』と言う誓約書を元にギャンブルを行うかい?」


「そんなふざけた事が出来るわけ無いでしょ!?」


「もちろん、レイナが選んだ人の反対で構わない」


「やる訳ないじゃん……そんな事」


 違う。リリスは分かっていてこんな事を言っている。どう頑張ってもリクトがエトリックに勝てるとは思えない。魔法は絶対的な力だ。ここでエトリックを選べば私がリクトをその程度の存在として認めることになる。


「必ずレイナが勝てる条件なのにかい? 私は迷わずリクトに賭けるよ」


 リリスのそういう所が嫌いだ。分かっていて自分は堂々と考えを一貫している。だから私は少しでもリリスを困らせたくて、口が滑った。


「なら、その条件で本当に誓約書を作成するよ? 負けたら一生リクトに自分から会わない。いいんだね?」


 リリスが動揺して話題を逸らすと思った。しかしリリスは悲しそうな表情で「構わないよ。私は何度もレイナに譲るつもりでいたのに、君はどうしてそこまで愚かなんだい?」っと逆に同情されてしまった。


 だから私は本当にその場で誓約書を作成した。本来は奴隷契約を行う際に用いられる物だが、こう言った賭け事に使われることも無い訳じゃない。もちろん私が勝ったらすぐに誓約書は破棄する。


 リリスは少しだけ反省するべきだ。


 それから少しだけ険悪なムードで会話をしながらリリスとレイナは別れた。しかし立ち去るレイナを見ながらリリスは冷たい視線で後ろ姿を見続ける。


 それからポツリと独り言が漏れた。


「私はレイナが羨ましい。その立場に浮かれている君を蹴落としてやりたいと思うのは、平民から勇者と聖女になり上がった両親の影響かな?」


 泥を拭いながらリリスは歯を食いしばった。


 私にも結果は分からない。


 だが、それでも私は絶対にリクトが勝つと確信していた。


 いや、確信じゃなくて常識だ。そう思える程度には信用している。


□■□■――地下室の入り口――■□■□


 リクトは自宅に到着するとリリスに言われた地下室の前に立つ。暗闇がずっと奥まで続く階段だ。辺りに明かりなんて無い。


 不気味な光景に入るのを躊躇いたくなる。母さんは仕事中なのか自宅にはおらず、静かなリビングの端で突っ立っている光景はホラーっぽいかもしれない。


「本当にこんなところに強くなるための何かがあるのか?」


 そんな否定的な意見が自分の中で大半を締める。しかしボコボコにされた事実が、その事実をレイナに見られてしまったことに対する絶望が、リクトの足を進ませた。その表情はとても暗くて、その瞳はどこまでも黒い。


 体中の傷はリリスに治してもらったはずなのに痛みが消えない。


 思い出すだけで身震いを覚える。


 そして階段を降りて行くと正方形の小部屋があった。その周辺は細かい魔法陣が重ね掛けされたように文字だらけの部屋だ。淡い光を放っていると言う事は発動中なのだろう。


 様々な色の魔法陣が壁や床に張り巡らされており、この部屋が一つの魔法そのものだ。どんな魔法なのか想像もできない。そして真中に無数の鎖で繋がれている剣が一本。


「なんだよ、この部屋。気味が悪い」


 鎖で繋がれた剣は握りの部分で判断するにそこまで大きい訳じゃない。しかし剣を繋いでいる鎖は魔物を捕らえるような頑丈さが窺えた。そこまでの価値がこの剣にはあるのだろうか?


 そこらの武器屋に置いてある剣の方がまだ使えそうだ。


「こんな古びた剣でどうしたらいいんだ?」


 リリスに騙されたのか? そう思った矢先、屈託のない笑い声が部屋中に響き渡る。とても不快な気分にさせる「ギャッハッハ」と知性を感じさせない笑い声だ。


「ギャッハッハッハッハ、ウ!! ッゲホ! ッゲホ!」


 そこは咽るなよ。


「全くよぉ、最近はお客が多いから演出にこだわったらこれだぜ。ロックじゃねーな! そこにいるお前もそう思うだろ!?」


「え……えっと」


「答えを聞く必要はねぇー!! お前は黙って出来損ないの俺に同意しとけ。なぁベイビーちゃん」


「これでも僕は18なんだけど」


「あぁ!? ベイビーを通り越して生まれたての精子ちゃんかよ!? それに自分のことを僕とか言っちゃう精子ちゃんはロックじゃねーなぁ!! つまらんから帰れ!」


 精子ちゃんってなんだよ!? と言うかこの声は一体どこから?


 部屋中から響く声にリクトが動揺しているとカタカタと剣が震え出して握りの部分から巨大な唇が出来てきた。一言で言えば気持ち悪い。慌ててリクトは後ろに倒れ込んだ。


 マジで何だよ!?


 口紅でも塗っているんじゃないかと言う無駄に綺麗な唇と無駄に綺麗な歯だ。とても気持ちが悪い。何と言えばいいのか、声質と唇が合っていないのだ。


「うわぁぁあ!? 気持ち悪い!」


「あぁ!? ざっけんなよぉ! この美しい唇が理解できないとは、てめぇー女を知らないチェリージュニアって奴か? おいおい勘弁してくれよぉ、ロックじゃねーな。最近のボーイは熱さが足りねぇ。天元突破する小さいドリルを片手に人型兵器で宇宙戦争をするような奴はいないのかよ!」


 そんなゴーグルが似合いそうで赤い角の生えた帽子が特徴的な、集中力が取り柄の主人公を僕は知らない! あれ? これって別の人じゃないか?


「全然ちげぇーよ!? 何を勘違いしてんだ!」


 あれ? 僕は何も話していないはずだけど。


「あぁ? だからどうした。人間の頭の中を読むことなんて誰にでも出来んだろ? そんな小さなことを気にして人生を生きてんのか? ロックじゃねーな」


 ロックロックうっさいわ! というか、マジか……と言うことは?


「ぼくの……いや俺の考えてることが分かるのかよ」


「あぁ、分かるぜ? ついでにいじめられっ子の弱っちい雑魚野郎ってこともな。ギャッハッハ!! ――しかし聖剣として性を宿している立場から言えば魔が無いってのはいいと思うぜぇ? 俺は魔が嫌いだから魔法を使う奴はま〇こ野郎としか思ってない」


 野郎なのに女性なんだ。


 それに考えっていうか、記憶まで読んでないそれ!?


「いいじゃねーか細かいことはよぉーさっさと願いを言えよ。俺はロックだから聖剣に認められる為の試練とか覚悟とかどうでもいいんだよ。てめぇーの記憶を覗いて、ある程度は認めてやる。魔力なしのベイビーちゃんを雑魚からマシな雑魚にするって話だろ?」


 精子ちゃんからベイビーちゃんに昇格している。


 それに雑魚のままなのは変わらないのかよ。


「はぁーリリスは本当に何を考えて――……」


 そう言いながらも俺は『カテーナ・A・ジュワユーズ』に視線を合わせた。そして自分の胸に手を当てて大声で頼む。多分この聖剣は中途半端な言葉じゃ俺をまた馬鹿にすると思ったからだ。


「――……俺を、世界最強の男にしてください!!」


 それから少しだけ聖剣は黙って俺を見た。


「分かってんじゃねーか、それがロックだ。黙って出来損ないの俺についてこい。今よりはまともな雑魚にしてやる。その途中でベイビーちゃんが口にした『過程』の願いも叶うだろうよ」


「俺はまず何をしたらいいですか!?」


「まずはそのムカつく敬語を殺せ! そして」


「そして?」


「俺をこの鎖から出せ! これじゃ何にもできやしない」


 俺はその時――待って!? もしかしたらまだ引き返せるかも。っと思った。なんとなくこのふざけた聖剣にイラっと来ている。先ほどから汚い言葉と罵声しか聞いていない。当たり前だ。しかし強くなりたいというのも事実。


 リリスの言葉を信じるべきか?


「冗談だろ?」


「はぁ……冗談だよ。クソ師匠」


「ギャッハッハ! クールだな、悪くない。五万文字も待たせやがって」


「最後の一言で雰囲気を壊さないで!!」


読んでいただきありがとうございます。

ペース考えずにダラダラ書きすぎた。カテーナと出会うだけで5万文字ってあり得ない。こういうのは最初の2話ぐらいで終わらせてポンポン進める方が爽快感があって分かりやすいのに。


まぁ、いいか。

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