第1話 故郷の過去
あれから200年、リプコットシティは何事もなかったかのように復興した。世界の危機が起こった時、空襲によって廃墟と化したことがまるで嘘だったかのように。だが、その時に現れた英雄の話は、絵本や小説で語り継がれていた。
英雄のリーダーだったサラがこの世を去って10年後、リプコットシティにはサラの功績をたたえ、女神竜の像が建てられた。女神竜の姿は、世界を救った時の姿を模した巨大な銅像で、街のシンボルとなっている。毎年、この銅像には多くの観光客が訪れ、写真を撮っている。
だが、その話は真実ではなく、遠い昔の作り話だと思う人も少なくない。そして、王神龍の封印がどれだけの効き目なのか、それを知る人はほとんどいない。
ある夏の夜、生暖かい風が吹く。リプコット駅はいつものように賑わっていた。様々な通勤電車や急行、特急、夜行列車、大陸横断特急が発着している。世界の危機だった頃と変わらない賑わいだ。
そんなリプコット駅で、1人の色黒の青年が夜行列車を待っていた。サイカ行きの夜行急行『セイント号』を待っているようだ。
青年の名は、ジーダ・デルガド、16歳、高校2年生。ドラゴン族の青年だ。リプコットシティの私立高校に通っている。家はサイカシティにある。
ジーダはホームに向かった。夜行急行が来るまであと5分だ。ホームには多くの人が集まっていた。セイント号は12両編成で、前から1号車だ。1号車から3号車が2段ベッドの2等寝台、4号車から8号車までが3段ベッドの3等寝台、9号車と10号車が指定席、11号車と12号車が自由席だ。
ジーダは自由席を取っていた。ジーダは12号車の停車位置で待つことにした。自由席車の停まるホームには多くの人が待っている。その多くの観光客だ。ジーダはそれを見て、うらやましいと思った。本当の両親はいないし、家庭は貧しい。それでも生活を楽にするためにリプコットシティの私立高校で学んでいる。いつかいい所に就職して、育てた父に恩返しできればいいなと思っていた。
ジーダは携帯電話を見た。時間は19時30分。夜行急行はもうすぐホームに到着する。
待っている人々はのん気に暇をつぶしていた。トランプをしたり、テレビゲームをしたり。その中には、顔が赤く、ふらついている人もいる。近くの居酒屋で飲んだ後だろう。夜行急行には食堂車も自動販売機もない。ジーダはおにぎりと飲み物をあらかじめ購入していた。
ジーダは今年の春からリプコットシティで生活を始めた。最初は寂しかったが、だんだん慣れてきて、友達がたくさんでき、寂しくなくなった。
「まもなく、15番線に、夜行急行『セイント号』、サイカ行きがまいります。黄色い点字ブロックの内側にお下がりください」
アナウンスが聞こえ、推進運転で夜行急行がやって来た。客車は少し古く、最後尾の貫通扉が開いたままだ。待っていた人々は立ち上がり、乗る準備を始めた。
夜行急行はホームに停まった。それと共に、乗客は扉を開け、車内に入った。ジーダも車内に入った。この客車の扉は自動扉ではなく、手で開け閉めする。
ジーダが車内に入った頃はほとんど乗っていなかった。だが、後から多くの乗客が入り、車内はあっという間に満席になった。座れなかった自由席の客は、立ったり床に座る。この日は夏休みの初日で、旅行や帰省で多くの人が乗っていた。そのため、夜行急行は普段8両のはずが、今日は12両だ。自由席は後ろ1両だけだが、この時期は2両だ。
ジーダは貫通扉の近くの通路に体育座りになり、発車を待っていた。初めての帰省だ。両親はどんな顔をして待っているんだろう。ジーダは初めての帰省を楽しみにしていた。
ジーダは買っておいたおにぎりを食べ始めた。ジーダはホームを見た。ホームには多くの人が待っている。この後来る電車を待っている乗客だろう。
「お待たせいたしました。夜行急行『セイント号』、サイカ行き、まもなく発車いたします」
それと共に、扉の近くにいた駅員は扉を閉めた。機関車は長い汽笛を鳴らした。発車の合図だ。ゴトンと大きな音を立てて、夜行急行はリプコット駅を発車した。
夜行急行はしばらく同時発車した普通電車と並走したが、次の駅が近づくと、普通電車は夜行急行に抜かれた。普通電車にはそこそこ人が乗っていたが、ラッシュアワーほどではない。
おにぎりを食べ終えたジーダは流れる車窓を見ていた。ドラゴンは空を飛べるので、普通はひとっ飛びでサイカシティまで行く。だが、今回はのんびりと夜行急行で帰ろうと思っていた。
夜行急行は心地よいジョイント音を立てて進んでいた。この辺りは住宅地を縫うように走っている。家々の光を見て、ジーダは寂しくなった。ジーダは両親だけでなく、故郷も失った。本当の両親がいる家庭がうらやましかった。どうしてこうなってしまったんだろう。ジーダはいつの間にか涙を流していた。
「お客様、乗車券と急行券を拝見します」
その声に気付き、ジーダは顔を上げた。ジーダの目の前には車掌がいる。ジーダは乗車券を急行券を出した。車掌は乗車券と急行券を見ると、持っていたスタンプを押し、ジーダに返した。
ジーダは再び車窓を見た。電車はいつの間にか高架線に入っていた。ジーダは高架線から街の夜景を見た。ジーダは驚いた。こんなにもきれいなんだ。まるで蛍のようだ。ジーダはしばらくその夜景に見とれた。
しばらく走ると、夜行急行は駅に停まった。地上駅で、夜行急行は駅舎寄りのホームに停まった。ここでも多くの乗客が入ってきたが、リプコット駅ほどではない。座りきれない客が、ますますデッキに入ってきた。ジーダは彼らの中に家族連れを見つけた。家族連れは楽しそうだ。ジーダはその様子をうらやましそうに見ていた。
このホームには架線柱が張られていない。ここから先は非電化路線が分岐するので、このホームはその路線専用のホームと思われる。
駅を出ると、夜行急行は複線の電化路線と別れ、単線の非電化路線に入った。ここからは本数がぐっと減る。列車の両数も減る。
非電化路線に入ると、夜行急行のスピードが落ちた。線路がよくないんだろうか? ジーダは最後尾から別れる電化路線を見ていた。
次の駅は交換可能駅だ。列車を待っている人はそんなに多くない。夜行急行は少しスピードを落として通過した。
やがて夜行急行はトンネルに入った。入る直前、機関車は大きく長い汽笛を上げた。奥に進むと、その夜景は見えなくなった。ジーダはトンネルの中に消えていく夜景をじっと見ていた。
トンネルを抜けると、そこは田園地帯だ。所々に家が点在している。その風景を見て、ジーダは生まれた村のことを思い出した。こんなのどかな風景だった。でももうそこには何もない。ただあるのは、廃墟だけだ。
楽しい生活だったのに、あっという間に奪われてしまった。どうしてあんな目にあわなければならないのか。どうしてそれから孤児院で暮らすことになったのか。全てはあいつが悪い。あいつはどこに行ったんだろう。絶対に許せない。父を、母を、姉を、弟を、そして、大好きな友達を殺された。今思い出しても、涙が出てくる。
しばらく走ると、駅に着いた。だが、扉が開かない。乗り降りもない。目の前の腕木式信号機は赤だ。どうやら運転停車のようだ。ここからは単線で、リプコットに向かう列車を待っているようだ。
駅員がタブレットを肩にかけて歩いている。そのタブレットは車掌から渡された。駅員は駅舎に入った。列車がこの駅に着いたのを知らせるようだ。
しばらくすると、向こうから列車がやって来た。単行の気動車だ。向かいのホームに着くと、扉が開いた。だが、乗り降りする人はいない。駅員と車掌はタブレットを交換した。駅員は次のタブレットを駅に持っていった。気動車がこの駅に着いたことを知らせるようだ。
間もなくして、駅員がやって来た。駅員はタブレットを車掌に渡した。駅員はてこで腕木式信号機を青にした。夜行急行が出発する準備は整った。
夜行急行は大きな汽笛を上げて、駅を出発した。その先には何も見えない。この先も田園地帯のようだ。まだまだサイカシティまでは長い。この先の高い山の向こうだ。
ジーダは下を向き、レールをじっと見ていた。レールはまっすぐ続いているようだ。その向こうには暗闇がある。リプコットシティの明かりはもう見えない。明かりが見えるのはあの先の山の向こうだろう。
ジーダは時計を見た。もう10時を回っている。疲れたのか、ジーダはいつの間にか眠ってしまった。目を閉じると、楽しかった故郷での日々を思い出す。楽しいけど、辛い思い出。忘れることができない。
それは10年前の春のことだった。いつものように朝が来た。今日もいい天気だ。2階の自分の部屋にいるジーダは窓を開けて、朝の風を感じていた。今日もいい1日が始まりそうな気がしてきた。
ジーダが生まれ育ったのはペオンビレッジだ。190年前、壊滅状態にあったこの村は復興した。辺境の地で、人口はそんなに多くはない。ペオンビレッジは自然が豊かで、林業が盛んだ。そんなペオンビレッジには、かつて世界を救った英雄の1人に会えると言われているが、誰も信じない。
だが、ジーダは知らなかった。今日を最後に故郷を追われることになろうとは。そしてこれが、10年後の冒険につながるきっかけになろうとは。
「ジーダ、ごはんよー」
1階から母の声が聞こえた。朝食ができたようだ。ジーダは嬉しそうな表情だ。
「はーい!」
1階からジーダが下りてきた。食卓には食パンとサラダが置かれている。
「いただきまーす!」
ジーダは朝食を食べ始めた。すでに弟と妹は食べている。
ジーダは父のゴルゴン、母のアシーナ、3歳上の姉のキャサリン、1つ下の弟のアンドレの5人暮らしだ。家は賑やかで、笑顔が絶えない。
「今日は誰かと遊んでくるの?」
「うん」
今日は隣に住むゴースト族のテッドと一緒に山道を散歩する予定だ。昼までには帰ると約束している。
テッドは隣に住むゴースト族の少年だ。年齢はジーダより1つ上の6歳。山の向こうの小学校に通っていて、朝早くにスクールバスで出かけている。今は夏休みの期間だったので、この時間でもペオンビレッジにいた。
「あんまり遠くに行っちゃだめよ!」
「わかってるよ!」
母はジーダに注意した。この辺りは険しい所にある。危険がいっぱいだ。けがをしてほしくなかった。
「ここ最近魔族が襲い掛かってくることが多いんだよ! 気を付けなさいよ!」
「はーい」
父はジーダに注意した。ここ最近、魔族が襲い掛かってくることが多い。200年ぐらい前に世界を作り直して、人間を絶滅させようとした神龍教が現れた時のようだ。あの時もそうだったという。だが、神龍教は全く昔の事。誰も信じない。だが、語り継がれてきた。この村には英雄のリーダーを祀る祠があると。だが、誰もそれを話してはならない。いつか来る神龍教の猛威からこの村を守るために。
「ジーダ、来年から小学校だな」
「うん」
ジーダは来年から小学校だ。テッドと同様に朝早くから起きてスクールバスに乗って小学校に行かなければならない。
「スクールバスは朝早いから、早起きして出かけないとな」
「そうだね」
ジーダは来年からの小学校生活を楽しみにしていた。友達をたくさん作って、楽しい小学校生活を送るんだ。きっと、家より楽しい生活が待っているはずだ。
朝食を食べた後、ジーダは2階でのんびりしていた。
「ジーダ、行こうぜ!」
突然、下で声がした。テッドだ。
「あ、テッド! ちょっと待ってね」
テッドの声を聞くと、ジーダは支度をして1階に向かった。ジーダは嬉しそうな表情だ。
「行ってらっしゃい。あんまり遠くに行っちゃだめよー」
「いってきまーす」
ジーダとテッドは出かけていった。この後、とんでもないことになると知らずに。
「昨日さ、面白い所を見つけたんだ!」
テッドは昨日、山道を歩いていた時に変な所を見つけた。次の日、ジーダにも教えてやろうと思っていた。
「面白い所?」
「ああ、祠みたいなところなんだが、行き止まりになってるんだよ」
テッドは昨日言った時からずっとそこの事が気になっていた。ジーダはその祠みたいな所が何か知っているか聞きたかった。
「ふーん、面白そうじゃん!」
ジーダは笑顔を見せた。ジーダは不思議な物事に興味があった。将来はそれを研究する人になりたいと思っていた。
「行ってみる?」
「うん」
2人は笑顔を見せながら村の田園地帯を歩いていた。まだ朝早いためか、農作業をしている人はいない。朝早くから野鳥のさえずりが聞こえる。
2人は人里を離れ、獣道に入った。獣道は静かだ。誰も人がいない。
「静かだね」
「うん」
「この辺りは、誰も通ろうとしないんだ」
「ふーん」
その時、目の前に2匹の赤いドラゴンが現れた。2人を狙っているようだ。
「うわっ、何だ?」
ジーダは驚いた。こんなことになるとは。
「魔獣だ!」
テッドは焦っていた。まさか本当に魔獣が襲い掛かってくるとは。
「狙っているのか?」
「そうみたいだ」
ジーダは真剣な表情だ。ドラゴンの力、見せてやろう!
「ならば、やってやろうじゃないか!」
ジーダは拳を握り締めると、ジーダの手は黒いワニの手になる。胴体は大きくなり、背中からはコウモリのような黒い羽が生える。足は恐竜のようになり、顔は角の生えた恐竜のようになる。ジーダは魔獣としての姿、黒いドラゴンに変身した。テッドの体は徐々に薄くなり、白いおばけのようになった。
「炎の力を!」
魔法の得意なテッドは魔法で火柱を起こした。2匹の赤いドラゴンは少し熱がったが、すぐに立ち直った。
「グルルル・・・」
ジーダは1匹のドラゴンに噛みついた。赤いドラゴンは少し痛がった。
「ガオー!」
1匹の赤いドラゴンは小さな炎を吐いた。だが、2人にはあまり効かない。
「グルルル・・・」
もう1匹のドラゴンはサムに噛みついた。サムは少し痛がった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させた。
「ガオー!」
ジーダは氷の息を吐いた。2匹は大きなダメージを受け、1匹の赤いドラゴンは倒れた。
「グルルル・・・」
残った赤いドラゴンは炎を吐いた。ジーダは少し苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法でジーダを回復させた。
「とどめだ!」
ジーダは炎を吐いた。残った赤いドラゴンは倒れた。
「ちょろいもんだ!」
テッドは両手を払い、自信気な表情を見せた。テッドは笑顔を見せた。
「魔獣が襲い掛かってくるなんて」
ジーダは驚いていた。まさか、本当に魔獣が襲い掛かってくるなんて。
「お父さんがよく言ってる。最近、魔獣が襲い掛かってくることが多いんだって」
「それ、僕のお父さんも言ってた」
テッドも父から注意されていた。父もその昔話の事や、あと10年しか封印の効き目がない事も知っていた。
「でもどうしてだろう」
ジーダは首をかしげた。だが、再び敵が襲い掛かってきた。3匹の頭に角の生えたウサギだ。
「くそっ、また敵だ」
「やってやろうじゃん!」
ジーダとテッドは再び魔獣に変身して、立ち向かった。
「氷の力を!」
テッドは魔法で3匹を氷漬けにした。1匹が氷漬けになった。
「ギャオー!」
ジーダは1匹を引っかいた。引っかかれた角の生えたウサギは痛がった。
突然、角の生えたウサギは頭の角でジーダを突いた。だが、ドラゴンの皮膚は硬く、角が折れた。
「ガオー!」
もう1匹の角の生えたウサギはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。
「大地の力を!」
テッドは魔法で地響きを起こした。3匹は驚き、1匹の表情が苦しくなった。
「グルルル・・・」
ジーダは炎を吐いた。3匹は大きなダメージを受け、1匹の角の生えたウサギが倒れた。
突然、角の生えたウサギは頭の角でテッドを突いた。だが、テッドには効かない。
「氷の力を!」
テッドは魔法で2匹を氷漬けにした。2匹は大きなダメージを受け、1匹の角の生えたウサギが倒れた。
「とどめだ!」
ジーダは残った角の生えたウサギに噛みついた。残った角の生えたウサギは倒れた。
「まさか、王神龍が復活とか?」
「王神龍?」
ジーダは王神龍の事を知らなかった。ジーダはサラの昔話の事を知らなかった。
「今から190年前、世界を作り直して、人間を絶滅させようとした奴だよ」
テッドは説明した。テッドはその昔話の事を知っていた。
「それって、本当にあったのか?」
「神話じゃないよ。本当の事だよ」
ジーダは信じられないような表情だ。今から190年前にこんなことが起こったとは。
「本当の事なんだ」
「で、あと10年しか封印が効かないとのこと」
テッドは下を向いた。それに気づかなければ、人間はあと10年しか生きられない。早く伝えないと。そして、英雄が現れないと。
「だったら、彼らが力を与えているんじゃないか?」
「そうかもしれないよ」
ジーダも下を向いた。もし、それが本当の事なら、自分もあと10年しか生きられない。10年後、自分はどうなるんだろう。
しばらく歩くと、祠が見えてきた。その祠は、何年も前からあるような外観だ。入口にはドラゴンの装飾がある。そのドラゴンはまるで女神のような服を着ている。
「祠だ!」
ジーダは上を向いた。こんな祠がどうしてこんな山奥にあるんだろう。何年前からあるんだろう。
「ここか?」
「うん」
だが、入ろうとすると、敵が襲い掛かってきた。3匹の赤いドラゴンと1匹の1つ目の蛇だ。
「天の怒りを!」
テッドは魔法で強烈な雷を落とした。1つ目の蛇は体がしびれた。
「ガオー!」
ジーダは赤いドラゴンを引っかいた。赤いドラゴンは痛がったが、すぐに立ち直った。
「グルルル・・・」
赤いドラゴンは炎を吐いた。2人はびくともしない。
「ギャオー!」
もう1匹の赤いドラゴンはテッドに噛みついた。それでもテッドはびくともしない。
「グルルル・・・」
更にもう1匹の赤いドラゴンはジーダに噛みついた。だが、ジーダには全く効かない。
「氷の力を!」
テッドは魔法で4匹を氷漬けにした。1匹の赤いドラゴンは倒れた。
「ガオー!」
ジーダは氷の息を吐いた。3匹は大きなダメージを受けた。1つ目の蛇は倒れ、1匹の赤いドラゴンが氷漬けになった。
「グルルル・・・」
赤いドラゴンは炎を吐いた。テッドは少し表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で2人を回復させた。
「ガオー!」
ジーダは氷の息を吐いた。2匹の赤いドラゴンは倒れた。
2人は祠に入った。ジーダは天井を見渡した。こんな山奥に祠があるなんて。ジーダは驚いていた。
「ここが問題の祠か」
「うん」
祠の天井や側面の所々には壁画が施されている。
「何だろうこの壁画は?」
よく見ると、人間や魔族が描かれている。最初の壁画には、人間と魔族が仲良く共存している様子が描かれている。まるで今の世界のようだ。2人は楽しそうにその壁画を見ていた。
その次の壁画には、仰向けになり浮き上がる人間、そしてそれをじっと見つめる三つ目の龍が描かれている。下の人々は祈りを捧げている。どうやら何らかの儀式のようだ。
「この儀式は、何だろう?」
ジーダは首をかしげた。
その先には、ベランダと思われる場所から空を見上げる女性の壁画だ。よく見ると、空には何か光が見える。女性はその光に導かれているようだ。
「これ、『赤竜伝説』じゃないかな?」
「あの昔話の?」
「うん」
テッドは思い出した。昔から、人間と魔族は友好関係にあった。だが、ある日、王神龍という邪神が現れ、人間を生贄に捧げた。新たな世界を作り、人間を滅ぼそうとしているらしい。天の声でそれを知ったドラゴン族のサラは、王神龍を封印するために立ち上がった。奇跡の光が降り注ぎ、その力がサラに宿った時、王神龍は封印された。
その先の壁画には、祈りを捧げる人間と、7つの首を持つ龍と金色の巨大なドラゴンが向かい合う様子が描かれている。
「これは、奇跡の光?」
「そうかもしれない」
そしてその先には、人間や魔族の歓声に手を振ってこたえる赤いドラゴンの壁画がある。やはりこれは、赤竜伝説を現した壁画のようだ。でも、どうしてこんな所にあるんだろう。
「奥に進もう!」
2人は先に進んだ。その先は暗い。一体何があるんだろう。
「ここは、どこだ?」
「僕にもわからないよ。この先に進んだことないんだもん」
テッドは辺りを見渡した。だが何も見えない。
前を見ると、目の前に敵がいた。2匹の小さな赤いドラゴンと2匹の角の生えたウサギだ。
「水の力を!」
テッドは魔法で水柱を落とした。4匹はびくともしない。
「ガオー!」
ジーダは氷の息を吐いた。1匹の赤いドラゴンと1匹の角の生えたウサギが倒れた。
「グルルル・・・」
赤いドラゴンはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。
突然、1匹の角の生えたウサギが頭の角でジーダを突いた。だが、ジーダはびくともしない。
「氷の力を!」
テッドは魔法で2匹を氷漬けにした。2匹は表情が苦しくなった。
「とどめだ!」
ジーダは氷の息を吐いた。2匹は倒れた。
「ここにも敵がいるのか」
ジーダは驚いた。どうしてこんな所に凶暴な敵がいるんだろう。
「怖い所だね」
「僕はこんなとこ大丈夫だよ。だって僕、ゴーストだもん」
テッドは笑顔を見せた。だがすぐに敵が襲い掛かってきた。2匹の赤いドラゴンと3匹の角の生えたウサギだ。
「雪の力を!」
テッドは魔法で吹雪を起こした。5匹は凍えたが、すぐに持ち直した。
「ガオー!」
ジーダは氷の息を吐いた。5匹は凍え、2匹の角の生えたウサギは氷漬けになった。
「グルルル・・・」
赤いドラゴンはジーダを引っかいた。だが、ジーダはびくともしない。
「ギャオー!」
もう1匹の赤いドラゴンは炎を吐いた。ジーダは少し表情が苦しくなった。
角の生えたウサギはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。
「癒しの力を!」
テッドは魔法でジーダを回復させた。
「グルルル・・・」
ジーダは炎を吐いた。5匹は熱がり、1匹の赤いドラゴンと2匹の角の生えたウサギが倒れた。
「ガオー!」
赤いドラゴンはテッドに噛みついた。テッドは少し表情が苦しくなった。
突然、角の生えたウサギはジーダに噛みついた。だが、ジーダには全く効かない。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させた。
「とどめだ!」
ジーダは炎を吐いた。残った2匹は倒れた。
「光が見える!」
テッドが前を見ると、光が見える。こんな洞窟の奥深くに何があるんだろう。
「本当だ!」
「行こう!」
2人はその先の部屋に入った。その中央ではオーブが光っていた。その光がオーブから放たれる光なんだ。2人はその時はじめてわかった。
「こ、これはどこだ?」
その時、オーブはよりまぶしく光った。2人は驚いた。今度は何が起こるんだろう。
「ようこそいらっしゃいました」
2人は辺りを見渡した。だが、誰もいない。どこにいるんだろう。
「ん? 誰?」
突然、光の中から白いマントを着た赤いドラゴンが現れた。羽は途中で途切れていて、光でできている。あのドラゴンは何だろう。
「まさか、女神竜サラ様?」
ジーダは適当に答えた。白いマントを着た赤いドラゴンと言えば、これしか思い浮かばなかった。
「はい、そうです」
そのドラゴンは女神竜サラだ。190年前に世界を救い、死後は女神竜サラとなり、この世界を見守っている。人間を救い、死後も女神竜となって見守っており、『幾万の人間の守り神』と呼ばれている。でも、どうしてこんな所で会えるんだろう。
「おいジーダ、女神竜サラ様と話せるのか?」
テッドには女神竜サラの姿が見えなかった。ただの光しか見えない。普通の人には見えない。だが、ジーダには見える。どうしてだろう。
「知らないよ。初めて見たんだよ」
「まさか、あの伝説は本当だったんだな」
2人は驚いた。あの昔話は本当にあったとは。
「あの伝説?」
「190年前にサラと4人の魔獣の英雄が世界を救ったって話だよ」
「あー、あれね」
驚いている2人を見て、女神竜サラは真剣な表情になった。
「あれは本当の話です。私はその魔獣の英雄のリーダー、サラ・ロッシでした」
女神竜サラはその昔話は本当の事だと告白した。作り話ではない。本当の事だ。それを伝えていき、いつか来る王神龍の復活に備えなければならない。
「でもすごいな。ジーダが女神竜サラと話せるとは」
テッドはまだ感心していた。どうしてジーダは女神竜と話せることができるんだろう。
「どうして?」
ジーダは首をかしげた。どこがすごいのかまだ理解できなかった。
「普通は話せないんだぜ」
「そうなんだ」
ジーダは驚いた。普通にできないことができる。自分は何か運命を背負って生まれてきたんじゃないのか?
「でも、ジーダがどうして話せたんだろうな?」
「わからない」
ジーダは深く考えた。僕は普通の黒いドラゴンだ。何が違うんだろう。
突然、大きな音が聞こえた。ペオンビレッジからだ。2人は驚いた。ペオンビレッジに何があったんだろう。
「な、何だ?」
「村に戻ろう!」
2人は大急ぎで洞窟を出ようとした。
「待ってください! すぐに戻れるように、魔法陣を作りましょう」
ジーダにのみ聞こえたその声とともに、部屋に魔法陣が現れた。
「これに乗れば入口に戻れる!」
「どうして?」
「女神竜様が言ってた」
テッドは疑い深いと思った。だが、女神竜サラが見えるジーダなので、信用したい。そう思い、ジーダの言葉を信用した。
「乗ろう!」
「うん!」
2人は魔法陣に乗った。2人はまぶしい光に包まれた。2人は不安になった。本当にこの魔法陣は入口に行けるんだろうか?
光が収まると、そこは洞窟の入口だ。2人はほっとした。
「よかった」
だが、まだ気が抜けない。村はどうなったんだろう。気がかりだ。
「あっちの方だ」
2人は村に続く道を走り出した。だが、敵が襲い掛かってきた。2匹の赤いドラゴンと3匹の角の生えたウサギだ。
「雪の力を!」
テッドは魔法で猛吹雪を起こした。5匹は氷漬けにならなかったものの、大きなダメージを受けた。
「グルルル・・・」
ジーダは氷を吐いた。1匹の赤いドラゴンと2匹の角の生えたウサギが氷漬けになった。
「ガオー!」
赤いドラゴンはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。
突然、角の生えたウサギは角でジーダを突いた。だが、ジーダはびくともしない。
「天の怒りを!」
テッドは魔法で雷を落とした。1匹の赤いドラゴンと1匹の角の生えたウサギは倒れた。
「ガオー!」
ジーダは残った赤いドラゴンに噛みついた。赤いドラゴンは倒れた。
突然、角の生えたウサギはテッドに噛みついた。それでもテッドはびくともしない。
「炎の力を!」
テッドは魔法で火柱を起こした。1匹の角の生えたウサギは倒れた。
「とどめだ!」
ジーダは残ったウサギに噛みついた。残った角の生えたウサギは倒れた。
「くそっ、ここでも敵が・・・」
「とにかく戦おう!」
2人は再び進み出した。だが、すぐに敵が襲い掛かってきた。2匹の1つ目の蛇と2匹の赤いドラゴンと1匹の角の生えたウサギだ。
「天の怒りを!」
テッドは魔法で雷を落とした。雷は赤いドラゴンと角の生えたウサギに当たった。2匹は体がしびれた。
「ガオー!」
ジーダは炎を吐いた。5匹はダメージを受け、角の生えたウサギは表情が苦しくなった。
「グルルル・・・」
赤いドラゴンは炎を吐いた。だが、テッドは素早くよけた。
突然、1つ目の蛇はジーダに噛みついた。ジーダは毒に侵されたんじゃないかと心配した。だが、幸いにも蛇は毒を持っていなかった。ジーダはほっとした。
「炎の力を!」
テッドは魔法で火柱を起こした。角の生えたウサギは倒れた。
「ガオー!」
ジーダは氷を吐いた。4匹は大きなダメージを受けた。1匹の赤いドラゴンは倒れ、1匹の1つ目の蛇と残った赤いドラゴンは氷漬けになった。
「ガオー!」
残った赤いドラゴンはテッドに噛みついた。テッドは少し表情が苦しくなった。
突然、1つ目の蛇はテッドに噛みついた。テッドは表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させた。
「グルルル・・・」
ジーダは炎を吐いた。3匹は大きなダメージを受けた。1匹の1つ目の蛇は倒れ、残りの2匹は表情が苦しくなった。
「ガオー!」
赤いドラゴンはジーダに噛みついた。ジーダは少し表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法でジーダを回復させた。
「とどめだ!」
ジーダは氷を吐いた。残りの2匹は倒れた。
「大変だね」
ジーダは辺りを見渡した。また襲い掛かってくるんじゃないかと思っていた。
「ここまで凶暴になるなんて」
「とにかく戦おう!」
2人は急いだ。しかし、あと少しで見える所で敵が襲い掛かってきた。3匹の1つ目の蛇と2匹の赤いドラゴンと角の生えたウサギだ。
「氷の力を!」
テッドは魔法で6匹を氷漬けにした。6匹はダメージを受け、1匹の1つ目の蛇と角の生えたウサギは氷漬けになった。
「ガオー!」
ジーダは炎を吐いた。6匹は大きなダメージを受け、2匹の1つ目の蛇と角の生えたウサギは表情が苦しくなった。
「グルルル・・・」
赤いドラゴンはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。
「ギャオー!」
もう1匹の赤いドラゴンは炎を吐いた。2人はダメージを受け、テッドは少し表情が苦しくなった。
突然、1つ目の蛇はテッドに噛みついた。テッドは表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させた。
「ギャオー!」
ジーダは炎を吐いた。6匹はダメージを受け、2匹の1つ目の蛇と角の生えたウサギは倒れた。
「ガオー!」
赤いドラゴンはジーダに噛みついた。ジーダは少し表情が苦しくなった。
「グルルル・・・」
もう1匹の赤いドラゴンは炎を吐いた。2人はダメージを受け、ジーダは表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法でジーダを回復させた。
「ガオー!」
ジーダは炎を吐いた。残った1つ目の蛇と2匹の赤いドラゴンは表情が苦しくなった。
「グルルル・・・」
赤いドラゴンはテッドに噛みついた。テッドは少し表情が苦しくなった。
「ガオー!」
もう1匹の赤いドラゴンは炎を吐いた。2人はダメージを受け、テッドは表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させた。
「ガオー!」
ジーダは炎を吐いた。2匹の赤いドラゴンは倒れた。残った1つ目の蛇はますます表情が苦しくなった。
「とどめだ! 天の裁きを!」
テッドは魔法で雷を落とした。残った1つ目の蛇は倒れた。
村が見える丘に着いた時、2人は肩を落とした。村が燃えている。何者かに焼き払われたと思われる。村には誰もいない。みんな死んだんだろうか?
「えっ!?」
ジーダは呆然とした。家族はみんな殺されちゃったのかな?
「村が・・・」
「燃やされてる!」
「チクショー!」
テッドは拳を握り締めた。誰がやったんだろうか? 絶対に許さない!
「おい、どうしたんだい、小僧」
突然、後ろからとある大人が声をかけた。その男は20代前半のようで、スポーツ刈りだ。
「貴様らが、貴様らがやったのか?」
ジーダは拳を握り締めた。どうしてこんなことをやったんだ!
「そうさ。だが、うちらのやってることは秘密なんでね。知ってしまったら殺さなきゃならないんだよ!」
やはり彼がやったようだ。とても許せない。絶対にぶっ飛ばしてやる。
「そんな・・・」
「村をめちゃくちゃにしやがって!」
テッドも許せなかった。絶対に俺がぶっ飛ばしてやる!
「許さない!」
突然、テッドはジーダの前に出た。
「ジーダ、お前は村のことを知らせろ!」
「えっ!?」
テッドは覚悟を決めていた。ジーダを命がけで守ろう。
「僕はこいつと1人で戦う!」
「い、いいけど」
ジーダは戸惑っていた。テッドだけで大丈夫だろうか? 自分も戦うべきじゃないか? だが、ここはテッドの指示に従おう。
「あの丘を抜けると、貨物ヤードがある。そこで待ち合わせしよう」
「うん」
テッドは小声で指示を出した。それと共に、ジーダは貨物ヤードに向かって走っていった。
それを見て、男は追いかけようとした。だが、テッドが立ちはだかった。
「おい! 俺が相手だ!」
テッドは強気な表情だ。1人で倒してやる!
「小生意気な。殺してやる!」
「おう。やってやろうじゃん!」
突然、男は赤いドラゴンに変身した。なんと、男はドラゴン族だ。男はドラゴンに変身して襲い掛かってきた。
「天の怒りを!」
テッドは魔法で雷を落とした。だが、彼には全く効いていないようだ。
「どうした? 痛くもかゆくもないぞ」
男は不敵な笑みを浮かべている。絶対に許さない。テッドは拳を握り締めた。
「炎の力を!」
テッドは魔法で火柱を起こした。だが、男の体に火が点かない。
「効いてない効いてない」
男の表情は変わらない。
「くそっ・・・、雪の力を!」
テッドは魔法で吹雪を起こした。男は氷漬けにならない。
「全然寒くないぞ」
男は不敵な笑みを浮かべている。
「氷の力を!」
テッドは魔法で男を氷漬けにした。だが、男は氷漬けにならない。
「全然効いてないぞ!」
男は腕を組んだ。全く効いていないようだ。
「そんな・・・、大地の力を!」
テッドは魔法で地響きを起こした。男はびくともしない。
「これでどうだ! 天の裁きを!」
男は魔法で強烈な雷を落とした。テッドは大きなダメージを受け、表情が苦しくなった。テッドは驚いた。こんなに強いなんて。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させた。
「しつこいな! これでも食らえ!」
男は灼熱の炎を吐いた。テッドはますます表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させた。
「炎の裁きを!」
男は魔法で巨大な火柱を起こした。テッドは更に表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
テッドは魔法で自分を回復させようとした。だが、魔力が切れて、回復できない。
「お遊びはこれまでだ! 天の裁きを!」
男は魔法で強烈な雷を落とした。テッドは倒れた。
テッドは目を閉じて、ジーダの事を思い浮かべた。短かったけど、いい思い出だった。だが、こんな事で別れるなんて。
「ふん、雑魚が!」
男は何事もなかったかのように去っていった。全ては10年後のために。自分たちの世界を手にするために。
その事を知らないジーダは必死に走った。ジーダはいつの間にか泣いていた。故郷が恋しい。あの頃に戻りたい。でも戻れない。村は焼き払われてしまった。
しばらく走ると、大きな貨物ヤードに着いた。そこはこの付近にある炭鉱の貨物基地になっていて、多くの石炭車が留置されている。その中には有蓋貨車もある。
「ここか」
あと少しだ。ジーダは急いで貨物ヤードに向かった。貨物ヤードには誰もいないようだ。
「ここに隠れよう」
ジーダは石炭車ばかりの編成の一番後ろの有蓋貨車に隠れた。中は何も入っていない。
貨車の中で、ジーダはうずくまりながら、わずかな隙間から外を見ていた。
「なかなか来ないな」
「殺されたのかな?」
だが、テッドが来ないまま、貨物列車は走り出した。ジーダは隙間から山を見ていた。こんなに若くして、故郷を離れるなんて予想してなかった。どうしてこんな目にあわなければならないんだろう。焼き払ったあいつが憎い。いつか、仇を討つ。
「すまん、テッド。守れなかった」
ジーダはいつの間にか涙を流していた。僕は故郷もテッドも捨ててしまった。申し訳ない。だが、僕は彼らの分も生きなければならない。
「どこに行くんだろう」
泣きながらジーダは流れる車窓をじっと見ていた。どうしてこんな目にあわなければならないんだ。全部、あいつのせいだ。いつか、あいつに復讐してやる! 村も、友達も失った。これほど苦しい事はない。
ジーダは貨車の中を見た。中には藁がいっぱい入っている。これをベッドの代わりにして寝よう。そして、駅に着いた所で村の事を話そう。
ジーダは目を閉じた。今日起きた悲劇が目に浮かぶ。どうしてこんなことになったんだ。わずか6歳でどうしてこんな目にあわなければならないんだ。
ジーダはほとんど眠れなかった。悲しすぎて眠ることができない。ジーダは再び車窓を見た。もうあの山は見えない。これから先、自分はどうなってしまうんだろう。
ジーダはうずくまった。父に会いたい。母に会いたい。姉に会いたい。妹に会いたい。テッドに会いたい。でも、もう叶わない。故郷はもう戻らない。
どこまで進んだんだろう。北に進んでいることは確かだ。徐々に貨車の中が寒くなってきた。ジーダは藁にくるまり、寒さに耐えていた。
いつの間にか、ジーダは眠りについた。ジーダは夢の中で、父や母に抱かれる夢を見た。だが、もう夢の中でしか会えない。みんな殺された。全部あいつのせいだ。
翌日、ジーダは目が覚めた。ここはどこだろう。少し肌寒い。ジーダは藁から出ることができない。どれだけ北に向かったんだろう。
ジーダは落ち込んでいた。6歳で故郷を追われるなんて。これからどうなるんだろう。このまま飢え死にしてしまうんだろうか? この先の事を考えると不安になる。
お腹が空いた。だが、昨日から何も食べていない。いつになったら食べ物にありつけるんだろう。
ジーダは窓から車窓を見た。春なのに雪が降っている。どうやら雪国のようだ。かなり北に行ったのはわかる。どれだけ村から離れたんだろう。村の前にそびえる山はもう見えない。そう思うと、ジーダは泣けてきた。
突然、扉が開いた。藁を取りに来た男のようだ。
「ここはどこかな?」
ジーダは藁の中から顔をのぞかせた。雪の降る大きな駅のようだ。
「だ、誰だ?」
男は驚いた。どうしてこんな所に男の子がいるんだろう。ひょっとして、住んでいた村に何かがあって逃げてきたのでは?
「僕、名前は?」
「ジーダ。ジーダ・デルガド」
ジーダは元気がない。昨日の朝から何も食べていない。故郷を失ったショックから声が出づらかった。
「どこから来たの?」
男は心配そうな表情だ。大変なことになったんじゃないかと思っていた。
「村が、村が襲われた」
ジーダは涙を流した。何者かに村を焼き払われ、家族も友達もみんな失った。
「どこの村が?」
「ペオンビレッジ」
男はペオンビレッジの方向を見た。あの村がまたも焼き払われるとは。
「そうか。大丈夫か?」
男は持っていたマントを着せた。ここは寒い。
「うん。僕は大丈夫」
ジーダは大丈夫と言っている。だが、本当は全然大丈夫じゃない。お腹がすいてるし、故郷を失ったショックから立ち直れない。
「襲われたって、何があったんだ?」
「よく見ていないけど、悪い人が村を焼き払ったんだ」
ジーダはまた泣き出した。そのことを話すと、涙が出てしまう。
「そうなんだ。まぁ、調べておくから。って、君、お父さんやお母さんは?」
「みんな死んじゃった。僕だけ生きてるんだ」
ジーダは優しかった両親や姉、弟の事を思い出した。もう会えない。どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「そうか。大丈夫か? この近くだったら、サイカシティに教会があるはずだ。そこに連れて行ってやろう」
「教会?」
ジーダは教会の事を知らなかった。まだ小学校に入る前で、どういう施設なのかを習ったことがなかった。
「教会では君みたいに何らかの理由で家族がいない子供たちを保護しているんだよ」
「ふーん」
ジーダは男と一緒に教会に向かった。そこはサイカシティ。世界で一番寒い街だ。今日からここでの新しい生活が始まる。だが、ジーダは落ち込んでいた。やっぱりペオンビレッジがいい。家族に囲まれて生活するのがいいに決まってる。だが、もうそれは叶わない。どうしてこんなことになってしまったんだろう。
目の前には鉛色の空が広がっている。雪は降り続いている。それはまるで晴れないジーダの心のようだ。
ジーダは深夜に目が覚めてしまった。ジーダは汗をかいていた。今でも時々思い出し、その度に大汗をかいてしまう。それぐらい苦しい過去だ。
ジーダは時計を見た。午前1時だ。こんな時間に起きてしまうなんて。なんて自分は悲しい人生を送ってきたんだろう。家族どころか、友達も故郷も失った。
ジーダは流れる車窓を見ていた。だいぶ北に進んだ。だが、外にはいまだに原野が広がっている。サイカ駅まであと10時間はある。サイカシティまではまだ遠い。外は暗闇で何も見えない。
ジーダはペットボトルのお茶を飲んだ。気持ちを落ち着かせたい。もうこんな悪夢を忘れたい。でも忘れることができない。焼き払った男は今、どうしているんだろう。今でも許せない。絶対に警察送りにしてやる!
少し肌寒くなってきた。ジーダは少し体が震えた。ジーダは持ってきた長袖を着た。サイカシティは常に真冬の天気だ。
ジーダは外を見て、遥か向こうにある故郷の日々を思い出していた。もうあの頃には戻れない。村は焼き払われ、なくなった。テッドはいつ死んだんだろう。村を焼き払った奴らは、テッドを殺した奴はどこに行ったんだろう。いつか、彼らに復讐したい。そして何より、女神竜サラは今もここにいるんだろうか? もしいるとしたら、また会いたいな。
しばらく走ると、夜行急行は駅に停まった。駅は静まり返っている。乗り降りする人は誰もいない。
「この駅で50分ほど停まります」
それを聞いて、ジーダは列車を出て、ホームに降り立った。ペットボトルのお茶がなくなったので、ここで買おうと思った。
運転手や車掌はあわただしく動いていた。この駅で列車はスイッチバックする。また、ここからは急坂に備えて補助機関車を前後に連結する。ここから次の駅まではアプト式で、補助機関車には車輪の中央に歯車が付いていた。
ジーダの他に、乗客がホームに出て外の空気を吸っていた。ジーダの他にも自動販売機で飲み物を買っている人もいる。
しばらくして、アプト式の機関車がやって来た。機関車は機回し線で反対側に向かう。どうやら後ろに連結する機関車のようだ。眠たそうな鉄道ファンはその様子を撮っている。
その後、前にもアプト式の機関車が連結された。ジーダは再び車内に戻った。元の位置に戻ると、前に機関車が連結されている。
50分後、夜行急行は大きな汽笛を上げて発車した。ジーダは体育座りをして機関車をじっと見ていた。
機関車は大きな音を立てて走っていた。だが、スピードは落ちた。アプト式はあまりスピードを出せない。
しばらくすると、アプト区間に入った。歯車とかみ合う音が聞こえる。夜行急行は急坂をゆっくりと登っていた。
車内は静かだ。もうみんな眠ったんだろうか? 客室は減灯している。辺りにはモーター音しか聞こえない。
ジーダは側面から外を見た。夜行急行は多くのトンネルをくぐり、その合間にレンガ造りの橋を渡っている。相変わらずスピードは遅い。
しばらく走ると、大きな駅に着いた。そこはリゾート地のようだ。夜も遅いためか、駅は静まり返っている。夜行急行がよく停車しても誰も降りない。
この駅でアプト式の機関車は切り離し、ここから再び非電化区間だ。駅の先にはディーゼル機関車が待機していて、アプト式機関車が切り離されると、ディーゼル機関車がやってきて、夜行急行の先頭に連結された。
ジーダは再び最後尾から車窓を見た。外はほとんど真っ暗で、ホームの明かりしか見えない。お昼にはどれぐらいの人々が乗り降りするんだろう。
ジーダは再び眠ってしまった。今度こそはいい夢が見られるんだろうか? ジーダは不安になった。だが、眠らなければならない。
翌日、目覚めるとそこは雪景色だ。夜行急行の機関車は再びディーゼル機関車だ。あの後、もう一度スイッチバックをしていて、ジーダのいる車両は再び最後尾になった。
思えば10年前に無蓋貨車の中から見たのもこの景色だ。ジーダは10年前に逃げ出した時の事を思い出した。お腹を空かせて焼き払われた村から逃げた。あの時の事は忘れない。悔しくて、悔しくてたまらない。いつか、あいつに復讐したい。
しばらく走ると、夜行急行は駅にやって来た。まだ早朝だ。駅は静まり返っている。ジーダは立ち上がった。ここでサンドイッチを買おう。
夜行急行が停まると、何人かの乗客が売店に向かった。ジーダも売店に向かった。売店ではサンドイッチやパンが売られている。
その間、夜行急行は機関車の付け替えをしていた。ここから先は電化区間で、ディーゼル機関車から電気機関車に付け替える。
車内に戻ったジーダはサンドイッチを食べ始めた。夜行急行はなかなか発車しない。付け替えや時間調整だろうか? ジーダはまだ暗い静かな総長の駅を見つめつつ、サンドイッチをほおばっている。
食べ終えた頃、夜行急行は大きな汽笛を上げて、駅を出発した。駅員がカンテラを持って夜行急行を見送っている。ホームには駅員と売店の従業員以外、誰もいない。
あまり眠れなかったジーダは再び眠ってしまった。終点のサイカまではあと6時間余り。
ジーダは目を覚ました。ジーダは腕時計を見た。あと1時間ぐらいでサイカ駅だ。サイカシティが近づいてきたようだ。ジーダは持っていたコートを着て、マフラーを巻き、ニット帽をかぶった。
サイカシティは世界で最も北にある街だ。かつてここは貧しい村だった。だが、魔獣の英雄の1人と言われているバズ・ライ・クライドがこの村を発展させ、聖クライド魔法学校を設立した。これらの事から、サイカシティは『北の聖都』と言われている。
終点のサイカ駅が近くなって、乗客はみんな慌しくなり始めた。寝台車の人々は大急ぎで寝台を収納していた。
サイカシティが近づくと、列車は住宅街の中を走り始めた。雪は深く積もっていて、家の前には大きな雪の壁がある。その向こうでは、子供達が雪遊びをしている。
ジーダはそんな子供達をうらやましそうに見ていた。6歳で友達を失った。教会や学校でたくさんの友達ができたけど、やっぱりペオンビレッジで過ごした時の友達がいいに決まってる。
「長らくのご乗車、お疲れさまでした。まもなくサイカ、サイカ、終点です。お出口は左側です。列車がよく停まってからお降りください」
前の駅を過ぎると、ジーダは立ち上がり、扉の前に立った。サイカ駅まであと少しだ。あと少しで牧師さんに会える。
正午ぐらい、夜行急行はサイカシティの中心駅、サイカ駅に着いた。列車がよく停まると、扉から多くの乗客が降りてきた。いつもより多い。今日は何かがあるようだ。
ジーダは白い吐息を吐いた。今日も寒い。
ジーダは駅から出た。今日はいつもより多くの人が行き交っている。
「ジーダ、久しぶりじゃないか?」
突然、後ろから男が声をかけた。ジーダを育てた牧師、聖クラウドだ。
「クラウドさん、お久しぶりです」
ジーダはお辞儀をした。自分を父のように育ててくれた牧師だ。感謝せねば。
「元気にしてたか?」
「はい」
「それはよかった」
ジーダの元気な姿を見れて、クラウドは嬉しかった。ここに来てから一度もサイカシティを離れた事がない。リプコットシティで何かがないか心配にしていた。
「新しい生活はすっかり慣れたか?」
「うん」
ジーダは笑顔で答えた。毎日が本当に楽しい。自由に遊んで、勉強して。教会にいた頃とはまた違う世界が見えた。
「高校生活、どうだ?」
「楽しいよ」
ジーダは高校での生活を楽しんでいた。友達がいっぱいできて、楽しい日々を送っていた。
「あっ、そうそう。今日、任命式があるんだけど、見るかい?」
「うん」
このサイカシティにある聖クライド魔法学校では、聖魔導に任命された3人の子供が校長から聖衣と聖帽を授かり、聖魔導としての誓いを立てる神聖な儀式だ。毎年多くの人が聖魔導の誕生を見に来る。ジーダはその儀式を見たことがなかった。
ジーダとクラウドはクラウドの運転する車に乗って聖クライド魔法学校に向かった。聖クライド魔法学校はここから更に北に向かったノーザと呼ばれているところにある。そこには最北の集落があった所で、この近くには時の最高神、アグレイドがいると言われている。
10分走って、車は聖クライド魔法学校に着いた。今日はいつもより多くの人が来ている。年に一度の大祭で、世界平和を守る使者、聖魔導の誕生という事で、一段と盛り上がっている。今日のサイカ駅がいつもより賑わっているのはこの大祭のためだ。
2人は聖クライド記念講堂にやって来た。サイカシティで一番大きい講堂で、世界屈指の客席数で知られる。入口の前には銅像がある。この聖クライド魔法学校を創立した聖バゾス卿ことバズ・ライ・クライドだ。聖衣と聖帽を身にまとい、杖を天高く掲げている。
「多くの人が来てるね」
ジーダは驚いた。こんなにも多くの人がこの町に来るんだな。とても普段のサイカシティとは思えない。
「そりゃあ、世界の平和を守る使者の誕生だからね」
クラウドは笑顔を見せた。今年はどんな聖魔導が誕生するんだろうか? 楽しみだ。
「牧師さんも聖魔導なんでしょ?」
「うん、そうだけど」
ジーダの育ての父のクラウドは40年ぐらい前に聖魔導に任命された。神から教わった思いを受け継ぎ、教会で牧師をしている。
「相当優等生じゃないと慣れないんだよね?」
「うん、学年末テストで成績の良かった3人しかなれないんだよ」
クラウドは学年末テストで1位となり、聖魔導に任命された。
「ふーん」
ジーダは驚いた。まさか、クラウドが聖魔導だったとは。
「それに、将来悪に手を染めないかを判断されるんだ」
「へぇ」
2人は講堂に入った。中には多くの人がいた。
しばらくすると、3人の少年がやって来た。今年、聖魔導に任命される子供達だ。少年たちは真剣な表情だ。これから自分は神の洗礼を受け、世界の平和を守る聖魔導の力を与えられる。
「あっ、来たぞ」
「この子達か?」
「うん」
2人はその姿をじっと見ていた。彼らは間もなく神の洗礼を受け、世界に平和をもたらす聖魔導としての力を受け取る。
3人の少年は校長から聖衣と聖帽を着せられた。彼らはとても嬉しそうだ。とても名誉のある魔導士に任命される。ここまで育ててくれた家族に感謝していた。
3人はステージの中央に立つと、持っていた杖を高々と掲げた。まるで聖バゾス卿の銅像のように。すると、杖は天から降り注ぐ光に包まれた。その時杖は、聖魔導の力を与えられている。
「我ら、今日、神の祝福を受け、聖魔導に任命されたり。我ら、いつの日か邪悪なる神蘇りし時、その力を解き放ち、世界を救いたり」
「新しい聖魔導の誕生だね」
「うん」
2人は嬉しそうな表情を見せた。今年もまた世界の平和を守る聖魔導の誕生だ。彼らがいる限り、世界の平和は守られる。そう思うと、2人は嬉しくなった。
夕方、2人は教会に帰ってきた。その教会はサイカシティと少し離れた所にある。屋根の上には十字架が飾られている。大きな建物で、この周りの民家と比べるとよく目立つ。
2人は裏口の扉を開け、中に入った。関係者や孤児はここから教会に入る。
「ただいまー」
すると、1人の少年が声をかけた。この教会で住んでいる孤児の1人、ドリーだ。5歳でここに来て、まだ2年目だ。ジーダとはとても仲がいい。
「ジーダお兄ちゃん、久しぶりー」
ドリーは笑顔を見せた。久々に会えて嬉しそうだ。
「ああ。ドリー、元気にしてたかい?」
「うん」
ドリーは今年から小学校だ。初めての学校。ドリーはとても楽しみにしていた。たくさん友達を作りたい。いろんな事を学びたい。
「そうか、小学校、楽しくやってるか?」
「うん!」
ドリーは小学校でたくさんの友達ができた。とても充実した1年だ。親に捨てられて、孤独だった今までとは違い、とても楽しい日々だ。
「それはよかった」
「あのね、友達いっぱいできたんだよ」
ドリーは嬉しそうだ。小学校に行くのが楽しい。
「それはそれは。楽しいだろうな」
そこに、ベニーもやって来た。ベニーは10年前にここに捨てられていたのをクラウドを見つけ、以後、教会で育てた。ベニーは優等生で、世界一の魔法学校と言われる聖クライド魔法学校に通っていた。そして今年、卒業式を迎え、地元の私立中学校に進学する予定だ。
「ジーダお兄ちゃん!」
ベニーも嬉しそうな表情だ。数か月ぶりにジーダに会える。優しくて、面倒見のいいジーダは、どの年下の子からも好かれていた。
「ベニーじゃないか!」
「ふふっ、素敵だろ?」
ベニーは嬉しそうに持っていた聖衣を見せた。実は、あの任命式で、ベニーはステージにいた。ベニーは今年、新しい聖魔導に任命された。
「ま、まさか、聖魔導に任命されたのか?」
「うん!」
ベニーは聖衣と聖帽を着た。ベニーは1回回って、3人にその姿を見せた。3人はみんな嬉しそうだ。
「まさか、今さっきの任命式にベニーがいたとは」
「ベニーは頑張り屋で、優等生だったので、聖魔導に任命されたんだよ」
クラウドは自信気だ。聖魔導の自分が聖魔導を育てた。その力を後世に引き継ぐことができた。
「まさか、教会に住む子供から聖魔導が誕生するとは」
「僕もびっくりしてるよ」
2人は教会の中に入り、2階に向かった。今日からしばらくここで泊まる予定だ。ここに引き取られてからたびたびここで過ごしたが、リプコットシティの高校に入学してからはこの時期しかこの部屋に入らない。
ジーダはかつての自分の部屋に入った。部屋はそのまま残っている。いつかジーダが戻ってくる時までそのままにしていた。
ジーダは持ってきた荷物を部屋に置いた。ジーダは窓からその景色を見た。子供の頃から見慣れてきた景色だが、高校に入ってから見ることは少なくなった。ジーダは懐かしそうに窓からの景色を見ていた。
「この景色、懐かしいな」
「そうだろ?」
しばらく外の景色を見ると、ジーダは下の聖堂にやって来た。ジーダは空いている席に座り、女神竜サラの銅像を見ていた。
「どうした?」
「リプコットシティで巨大な女神竜の像を見たんでね」
ジーダはリプコットシティに来て間もなく、休日に女神竜の巨像を見た。女神竜の銅像は教会で度々見ていたが、これほど大きな像は生で見たことがなかった。リプコットシティの観光案内には必ず書いてある名所で、毎年多くの観光客が訪れる街のシンボルだ。
「素晴らしいでしょ」
「うん」
ジーダは女神竜サラの姿に感動し、10年前に祠で見た女神竜サラの事を思い出した。確かにこんな姿だった。本当に会えるなんて思いもしなかった。でも、どうして見ることができたんだろう。
「今からちょうど200年前、この世界が巨大な悪に包まれた時に、4人の仲間とともに世界を救ったサラを記念した銅像だよ」
「ふーん」
クラウドは女神竜サラとその仲間がこの世界を救った時の事や、この巨像ができるきっかけを知っていた。クラウドはその話を子どもの頃から度々聞いていて、語れるぐらいだ。
「信じがたいんだけどな」
だがクラウドは信じがたかった。とても作り話のようだ。
「でも、聖魔導はそれに関連してるんでしょ?」
「うん。でも、聖クライド魔法学校の創立者で、サイカシティを発展させたバズ・ライ・クライドは魔獣の英雄の1人だったと言われているんだ」
だが、本当にあった話じゃないかと思える事実があった。その話を学校の授業で習った。そう思うと、赤竜伝説は本当にあったんじゃないかと思うぐらいだ。
「そうなんだ」
「だとすると、本当にあった話だと思うだろ?」
「うん」
ジーダは考えた。赤竜伝説は本当にあったんだろうか? バズ・ライ・クライドが魔獣の英雄の1人だったとすると、赤竜伝説は本当の話じゃないかな? あの壁画も、女神竜サラの話も、全部本当にあった事じゃないかな? だとすると、今年が王神龍の復活する年。なのに封印しなければならないのに誰も動こうとしないんだろう。
その夜、ジーダは夢を見た。そこは6歳の時に訪れた祠だ。ジーダは懐かしそうに辺りを見渡していた。今はどうなっているんだろう。女神竜の部屋は荒らされていないだろうか? ジーダは心配になった。
「ジーダ、ジーダ。今すぐペオンビレッジに来てください。私はあなたを待ってます」
誰かの声が聞こえる。ジーダは辺りを見渡した。だが、誰もいない。ジーダは首をかしげた。
「だ、誰?」
「女神竜サラです」
突然、目の前が明るく光った。目の前には、女神竜サラがいる。その姿はあの時と変わっていない。
「どうして?」
「祠に来たら話します。来てください」
女神竜サラは消えていった。ジーダは呆然とした。どうして行かなければならないんだろう。ジーダはその場に立ちすくんでいた。
ジーダは目が覚めた。寝室だ。今夜もサイカシティはしんしんと雪が降っている。最近こんな夢を見てばかりだ。一体何だろう。
ジーダは外に出て、ペオンビレッジの方向を見た。あの祠に行くべきだろうか? きっと封印が解かれる王神龍に関する重要なことだろうか? だとすると、世界の命運にかかわる重要な話をされるんじゃないか?
朝になり、ジーダは目を覚ました。ジーダは久しぶりに教会で1夜を明かした。進学する前は毎日のようにここに寝泊まりした。
今朝のサイカシティは雪が降っていない。晴れ空が雪原を美しく照らす。子供たちは雪合戦をし、大人は雪かきをしている。
ジーダは教会の入口から出た。まだ人はまばらだ。聖堂には誰もいない。辺りは静かだ。
ジーダは気晴らしに空を飛ぼうと思った。ジーダは黒いドラゴンに変身した。10年の歳月の中で、ジーダは大きく成長した。体も羽も大きくなり、人間や魔族を乗せて空を飛ぶことができるようになった。
ジーダは空を飛び、空からサイカシティを見た。空高く飛べるようになってから、晴れた日は毎日のようにサイカシティを飛んでいた。リプコットシティに住み始めてからは、リプコットシティを毎朝飛ぶようになった。サイカシティを飛ぶのは久々だ。リプコットシティとは違い、美しい雪原が素晴らしい。ジーダは嬉しそうに見ていた。
数分飛んで、ジーダは地上に戻ってきた。教会の入口には、クラウドがいる。
「おはよう」
クラウドは笑顔を見せた。クラウドはジーダが雄たけびを上げながら空を飛ぶのを見て、目覚めたようだ。
「おはようございます」
ジーダはお辞儀をした。クラウドにおはようと言われるのは久しぶりだ。懐かしい。
「よく眠れた?」
「うん」
2人は教会に戻った。これから朝食だ。ここでの朝食も久々だ。
2人は他の孤児と共に朝食を食べていた。ジーダは懐かしい気持ちになった。ここに住んでいた頃は毎日のように食べていた。だが、リプコットシティで住み始めてから、パンだけだ。
「ここでの朝食も懐かしいな」
「そうだろ」
ジーダはここ最近見ている女神竜サラの夢を話すことにした。それをたびたび見て、自分はペオンビレッジに行くべきじゃないかと思い始めた。嫌な思い出があるけど、行くべきだろうか?
「クラウドさん」
「どうした?」
クラウドはジーダを見た。食事中に何だろう。食事中はあんまり話さないのに。
「女神竜サラって、ご存じですか?」
「ああ、知ってるさ。あの銅像のドラゴン。世界を救った英雄のリーダーだったドラゴンだよ」
クラウドは聖堂の方を見た。お祈りしているし、昔話を知っている。
「夢の中で、僕に語りかけてきたんです」
「ふーん」
クラウドは、夢の事が気になった。どうして女神竜サラが話しかけているんだろう。何か重要な事があるんじゃないのか?
「ペオンビレッジに来てくださいって」
「そっか」
ジーダはサラに出会った日の事を思い出した。今も覚えている。あの後起こった悲劇も含めて。
「村が焼き払われた日、僕は女神竜サラを見たんだ」
「本当か!」
クラウドは驚いた。神の姿が見えるなんて。聖魔導しか見えないはずなのに。聖魔導じゃないジーダが見えるなんて、普通ではありえない。
「うん。って、どうして驚いてるの?」
「普通の人では見えないはずだ。どうしてだろう」
クラウドは首をかしげた。ジーダは一体何者だろう。聖魔導じゃないのに見えるなんて。
「それ、幼馴染のテッドも言ってたんだ」
テッドの名前を言うと、ジーダは泣きそうになった。あの日、男と戦って、帰ってこなかった。おそらく死んだだろう。
「ど、どうした?」
「テッドの事を思い出して」
クラウドは泣きそうなジーダの肩を叩いた。
「そっか。でも、どうしてジーダには見えるんだろう」
「僕もわからない」
あの時、女神竜サラがどうして見えたのか。テッドには見えなかった。女神竜サラが見えるテッドはどうして驚いていたんだろう。
「きっと何か秘密があるはずだ」
クラウドは何か予感がした。ジーダは何かを持っている。いつか、その理由がわかるはずだ。
「僕もそう思う」
「女神竜に会ったのはペオンビレッジから遠く離れた所にある祠なんだ。そこには、赤竜伝説の壁画があるんだ」
ジーダはその祠の事を詳しく話した。こんな所にどうして女神竜サラに会える祠があるんだろう。
「赤竜伝説か・・・、本当にあったとは」
「僕も信じられません」
2人とも信じられなかった。だが、バズが英雄の1人だったと聞くと、本当じゃないかと思ってしまう。
「赤いドラゴンの名前は、サラ・ロッシ、4人の英雄の名前は、マルコス・レオンパルド、サムソン・マクワルド・アダムス、レミー・霞・玉藻、そしてバズ・ライ・クライドだ」
「そっか」
ジーダは赤竜伝説は本当か、それとも作り話か知りたくなった。もしそうだとすると、今年が王神龍の蘇る時。何としても封印しなければ。
「とりあえず、ペオンビレッジに行ってみなさい」
「わかりました」
ジーダは10年ぶりにペオンビレッジに行くことにした。もう迷いはない。10年ぶりに故郷に戻る。ペオンビレッジはどうなっているんだろう。新しい人が来て、村を再建させたんだろうか? それとも、誰も人が来ずに、ただの荒野になっているんだろうか?
食べ終わったジーダは外に出た。ジーダは空を見上げた。あの空の先に、失われた故郷がある。一体、どうなっているんだろう。祠は無事だろうか? 女神竜サラはまだいるんだろうか? とても気になる。
「行くのか?」
「うん」
ジーダは後ろを振り向いた。クラウドがいる。行こうとしているのが、クラウドには見えた。
「気を付けてな」
「ああ」
ジーダはドラゴンに変身し、ペオンビレッジに飛んで行った。その時ジーダは知らなかった。ペオンビレッジに向かう事が世界を救う英雄となる道に続いているとは。