就職先
私は舞踏会の会場を後にし、侯爵家の屋敷に戻ってそのまま父親であるシュバルツ侯爵の元へと向かった。今日参加していたのは基本的に未婚の男女ばかりで、親世代は出席していなかったのだ。
私はシュバルツ侯爵の書斎の前へ立つと、ドアをノックした。
コンコンッ!
「お父様、シェルシェーレですわ」
「入りなさい」
部屋に入ると、そこには何やら書類と睨めっこしている父の姿があった。
「どうしたのだ、シェルシェーレ。今は舞踏会の最中では無かったのか?」
書類からは目を話さないまま父が言う。
「それが、その…」
「…なにかあったか」
ようやく父が書類から目を離してこちらを向く。
「はい、えっと…オスカル殿下に舞踏会の場で、婚約を破棄して欲しいと言われてしまいましたわ」
「それは…一体どうして」
「私よりも、義妹のリナのことを愛しているからだそうですわ」
チラッと父の顔を見ると、いつも怒ったような顔だから分かりづらいけど、私に同情の目線を向けている。気がする。
「…そうか…リナが…それで、お前はこれからどうしたいのだ」
「リナがオスカル殿下と結婚することになれば、当初の政略結婚の予定はさほど狂わなくて済むと思いますわ。しかし私は…婚約破棄も舞踏会の会場全体に聞こえるように言われてしまいましたし、このままでは皇子に捨てられた余り物の令嬢として、社交界ではのけ者にされてしまいますわ。ですから、いっそのことどこかに就職して未婚でも生きていけるようにしたいと考えておりますわ」
「当てはあるのか」
「当てといいますか、行きたい場所なら」
「どこだ」
「アンベシル魔法研究所ですわ」
この世界には魔法というものが存在し、誰もが魔力を持っている。そして人が持つ魔力の他に、魔導具や魔石などの魔法が使える道具や鉱石が沢山ある。
アンベシル魔法研究所は、そんな魔法について、生活魔法から軍事魔法まで幅広く研究している帝国最大の魔法研究機関なのだ。
「ふむ…」
父はしばらく考え込んでいる。
「…魔法研究所か、理解した。ではお前がそこで働けるよう口利きしておこう」
「感謝致しますわ」
「それでは今はもう下がれ。進展があればまた話す。」
「はい、失礼致します」
父の書斎を後にし、私は自分の部屋に戻ってベッドにダイブした。
そこで私は感情を爆発させた。
………喜びの感情を。