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「さぁ、この『老化薬』を飲んでもらおうか」


隣に住む胡散臭い研究者、秋田川博士は怪しげなフラスコに入った紫色の液体をどん、とテーブルに置いた。

いつも彼のふざけた研究の実験台になってきたが、これは論外だ。


「ちょっと待て、どうして『若返りの薬』とかじゃなく『老化薬』を飲ませる?」


実際それが実現するならどちらもすごい事だが、どうせなら前者が飲みたい。

その問いかけに博士はふふん、と鼻で笑った。


「ワシが老人でお前が若いのが気に食わんから」

「思った以上にクソ野郎な回答だよ」


罵倒されたのに傷ついたのか、博士は少ししょげた様子で後ろから青い液体の入った瓶を取り出した。


「ちゃんと『若返り薬』もあるから、気が済んだら飲ませてやる。安心せい」


「ったく、しょうがないな……。飲むよ、飲めばいいんだろ」


しょげた老人に罪悪感を覚え、紫のフラスコを手に取り、一気にあおる。


「う……くっ……」


身体が熱くなる。手を見ると、皺がどんどん増えていく。筋力が衰えているのか、身体に徐々に力が入らなくなる。


がくっと膝から崩折れそうになったところを支えられた。


「あなた……」


私を支えたのは秋田川博士、夫であるその人だった。


「お前……戻ったか……」

「私……あなたの事、忘れてしまっていたのね」


秋田川は安心したのか、目に涙を滲ませた。


「ワシの実験に付き合って、『若返り薬』を飲んだお前は記憶まで若い頃の時の状態になってしまった。つまり、ワシと出会ってからのことをすっかり忘れてしまっていた。

ワシは隣に若返ったお前を住まわせながら、何とか元に戻す薬を研究していたんじゃ……。うまくいって良かった……。本当にすまなかった……」


私は彼の手に手を重ねる。


「あなた……元々作った薬も、私が不治の病気にかかったのを何とかできないか考えてくれたからでしょう。怒ったりしませんよ」


「すまない……若いままだったら、病気の事も考えなくてよかったのに、ワシはお前に忘れられているのが耐えられなかった……」


「いいんですよ。私もあなたと過ごした日々を忘れたくはありません。幸せな時間でした。どうもありがとう」


私の手は力を失い、彼の手から滑り落ちた。

彼の顔を見上げる。出会った頃よりだいぶ老けてしまったが、とてもいい男だった。

良い時間を過ごせた。この人に会えてよかった。


歳を取るのが楽しかった。ありがとう。


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