仕事で無職している者なんだけど
「給料まだですか?」
「はい? 何のことです?」
眼鏡の男は疑問を返さずにはいられなかった。
「だからぁ、無職してた分の給料は何時貰えるのかって話」
「ええっと、無職なんですよね? でしたら、給料は出ないと思いますよ」
「つまり、ただ働きってこと?」
「ただ働きと言いますか……。そもそも働いていないですよね? 無職なのですから」
「いやいや、そんな筈ない。こっちは仕事で無職しているんだから。それを働いてないって言われちゃあ。ねえ?」
「ねえ、と言われましても。無職なんですよね?」
「無職しているよ? 仕事で」
「無職でしたら仕事をしているとは言えませんよ」
「そんな事誰が決めたんだ。現に、俺はこうして無職してるんだぞ。仕事で」
「それこそ誰が決めたんですか。貴方が勝手に無職なだけではないのですか?」
「もういい。アンタじゃ話にならない。給料について分かる奴呼んで来い」
「そんな人いないと思いますよ。無職に給料などある訳ないですし」
「ほほっ。呼んだかね?」と老人が二人に近づいて来た。
「どなたですか?」
「儂は、給料を与えている者じゃよ、仕事で」
「仕事で給料をっ!? はっ、すみません。大声を出してしまい」
「良いんじゃよ。それよりも」老人は無職の男へ向かって「仕事で無職しておるのじゃな?」
「ああ。今月分の給料を未だ貰えてないんだよ。……ちゃんと無職していたのに」
「ならば安心せい。無職していた分の給料は儂が与えてやるからのう。ほれっ」
老人は無職の男へ現金の入った封筒を手渡した。
男は中身を確認すると、
「確かに受け取ったぜ。じゃあな」
何処かへと立ち去った。
「では、儂も帰るとするかのう」
「ま、待て下さい」
眼鏡の男は、立ち去ろうとする老人を呼び止める。
「何故、給料を渡したのですか?」
「儂の仕事だからじゃ」
「仕事って……。無職に給料を与えるのが?」
「そうじゃ。彼は仕事で無職をしとる。ならば、給料を与えるのは当然じゃろ」
眼鏡の男は少しだけ考え、
「その給料は私も貰えるのでしょうか?」
と言った。
「なんじゃ、お主も無職しておるのかね?」
「お恥ずかしながら。先月リストラされまして。現在、失業中です」
「仕事で?」
「いえ。仕事を失くして」
「なら駄目じゃ。仕事で無職しておらん奴には給料は与えられん」
そう言って、老人は去った。
後に残った眼鏡の男はポツリと言った。
「仕事探そう」