1-4 無理だと思ったらすぐ言って
1-4 無理だと思ったらすぐ言って
翌日、高橋から言われたとおりの時間に出社したよつ葉は、営業所の開かない扉の前に立っていた。
はっとしてインターホンのほうへ向かったとき、横から声がした。
「開けるよ」
認証デバイスに指を当て扉を開いたのは班長の徳用優輔だ。
「菅原さんやろ?おれ徳用。よろしくね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
よつ葉は笑顔でお辞儀した。
「困ったことがあったら言ってね。先生に言いづらかったら」
「あ、はい」
徳用の言葉にとくに何か疑問に思う様子もなく、よつ葉は返事をした。
「菅原さん」
徳用と一緒に営業所に入ったよつ葉に、新庄永都が声をかけた。
「横宮さん、制服合わせてもらっていいですか」
横宮はモニターから顔を上げ、よつ葉のほうを見てニコッと笑った。
「あ、それと菅原さんのバイタルチェックってもうできるんでしたっけ」
「もうデータは入っているはずなので、先にやってから合わせましょうか。後ろで制服の用意をしてますので」
立ち上がって奥の部屋へ向かう横宮に、どうも、と声をかけた新庄はよつ葉を手招きした。
「菅原さん、この板の前に立ってもらえますか」
よつ葉が言われたとおりの位置に立つと、すぐにピピッと電子音が鳴った。
「チェック完了です。出退勤と出発、到着の点呼のときに毎回必要なので、よろしくお願いしますね。そうしたら、あっちの部屋へお願いします」
しばらく物珍しそうに機械を見ていたよつ葉は新庄の視線に気づき、恥ずかしそうに笑ったあと奥の部屋へ入っていった。
「かわいい」
同時に呟いた新庄と徳用は、お互いきまりが悪そうに笑ったあと、徳用が小声で聞いた。
「矢作さんにちらっと聞いたけど、大丈夫なのかね」
新庄は首を傾げながら、納得のいかない表情の徳用に船の起動キーを渡した。
「なんかあったら、今回は俺は星野を許せないかもしれないわ」
本気とも冗談ともつかない口調でそう言うと、徳用は足早に営業所を後にした。
しばらくすると奥の部屋から横宮に連れられ、よつ葉が出てきた。
「やっぱりXSサイズを発注しておいて正解でした」
よつ葉の制服姿を見てボーっと立ち尽くしていた新庄は、後ろから肩を叩かれ「うえっ」と思わず変な声を出した。
「なにしてんのお前?」
倉庫から戻ってきた高橋は新庄を小突いたあと、よつ葉を見てニコッと笑った。「さっそく倉庫へ向かいましょうか」
「はい!」
笑顔で答えるよつ葉を見て、新庄は表情を曇らした。
その笑顔が消える瞬間を、僕は見たくない――。
そう言わんばかりの表情の新庄に見送られ、高橋と一緒に倉庫へ向かったよつ葉から、新庄の懸念どおり笑顔が消えたのはそれから5分もかからなかった。
「今日は見学だからね。菅原さんは星野くんのこと、よく見てたと思うけど。お店の前だけでは見られないことのほうが多いからね」
憧れの星野の仕事をずっと見ていられることを想像するだけで、よつ葉はもう気絶してしまいそうだった。このあと別の意味で気絶しそうになることも知らずに。
「星野ー」
しばらくしてよつ葉の視界に現れた星野は、二人に軽く会釈をした。
「それじゃあ菅原さん、あとは星野先生に任せますからね」
高橋はそれから星野にも、頼むぞ、と言って営業所のほうへ戻って行った。
「よろしくお願いします!」
緊張した面持ちで改めて挨拶するよつ葉を横目で見て、星野はフッと息を吐いた。
「今日は見学なんだけど、最初に1つ言っておくね」
よつ葉は不思議な表情を浮かべた。「あ、はい」
「無理だと思ったらすぐ言って。時間の無駄だから」
ムリダトオモッタラスグイッテ。ジカンノムダダカラ。
それはよつ葉の幻想を叩き壊す、はじまりの一言に過ぎなかった。