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星乃配送員  作者: 鞍月環状
1 新卒さん
3/23

1-3 俺たちでフォローしようか

1-3 俺たちでフォローしようか



 「お先に失礼します」

 「あ、横宮さん、お疲れ様です」

 三納に続き、野代もお疲れ様、と声をかけた。


 「もう17時か」

 柱の時計をちらっと見て高橋が呟いた。「菅原さん、座学はここまでにしますので、明日も今日と同じ時間に来てもらえますか」

 「あ、はい、明日は……?」

 「明日からは指導員と同行してもらいます。初日は見学になると思いますけどね」

 途中から緊張がほぐれたのか、やや口数が少ない印象はあるものの、若々しく明朗な受け答えをしていたよつ葉に、高橋は最後に質問をぶつけた。

 「うちの星野のこと、もしかしてご存知でした?」

 少し驚いた顔をしたよつ葉だったが、実は……、と笑みを浮かべながら高橋にいきさつを話し始めた。



 「お疲れさま、気を付けてね」

 「ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 高橋に頭を下げたよつ葉が営業所を後にし、扉が閉まったのを確認して野代が声をかけた。

 「星野の件、何て言ってました?」

 細長いテーブルを2つ並べただけの簡単なオフィスには、いつの間にか2便の積込を終えた矢作が座っていて、手を挙げている。

 「いや、そもそも星野を指導員にした理由から」

 「矢作さんにも説明してないんですか」

 呆れた顔で言い放つ三納に、まあまあ、と言いながら高橋は苦笑いし、自分の席に座った。


 「どこから話すかな」

 腕組みをしながら上に向けていた視線を正面に戻し、高橋はゆっくりと話し始めた。「1週間前に星野が退職届を持ってきたんだよね」

 矢作がうん、と頷く。

 「周囲との仕事に対する考え方の違いがどうこう言ってたけど、まあ半分はあいつに原因があるとして、そのことに気づいてもらいたくてね」

 「あいつよく受けたな」

 矢作が苦笑いしながらいった。「退職したかったら指導員して絶対に検定上げろって言ったんだよ。例のアレがどうやら、新人って女子やん、とか言い出したけどさ」


 例のアレ――。5年前に起こった不幸な事故。星野はそれ以来、かたくなに指導員になることを固辞し続けてきた。

 それなのに、という疑問の答えは簡単だった。要は退職と引き換えに無理やり押し付けただけということだ。


 「で、星野も8年前に現場に行ってるんだけど、どうやらそれで覚えてるわけじゃないらしくて、店でよく見てたんだってさ」

 「店で……?」

 矢作は思わず顔をあげた。「見に来てたってことですか」

 「家の近所の店がちょうど夕方納品だったらしくて、いつも見に行ってたらしくてさ」

 「筋金入りだな……」

 「そこで星野を見つけて、憧れてしまったってね」


 4人の間に微妙な空気が流れた。

 「たしかに外づらは滅法いいですからね。クレームを受けたこともないし、追尾で問題行動を発見されたこともない」

 三納のいうとおり、星野は営業所の中では1、2を争うほど優秀な配送員だ。誤配、破損や延着などするはずがなく、ひとつひとつの動きに無駄がない。そして何より荷姿が美しい。まるで相手の意を汲んでいるかのような納品によって、店側の負担を大きく軽減させるのである。


 「店のことには頭が回るのにな」

 矢作の一言がすべてを物語っていた。

 星野はたしかに優秀な配送員なのだが、求められている以上のこと、しかも他人がまねのできないことをやってしまう。そしてそれを、絶対に崩さない。それだけならまだしも、周囲を見下す傾向が「極めて」強かった。


 「やめるなんて話にはならないと思うけど、憧れる相手を間違えたな」

 矢作の言葉を神妙な顔で聞く高橋に対し、三納が強い口調で迫った。

 「そもそも決め方がいい加減すぎませんか。適任ってあるでしょう」

 「だって星野にやめてもらいたくなかったんだもん」

 口を尖らせて反論する高橋の姿に、3人はただ呆れるしかなかった。

 「俺たちでフォローしようか」

 しかたなく切り出した野代に高橋が反応する。「指導員の指導は我々の仕事だからね」

 悪気のない笑顔に、3人はそれぞれ乾いた声で笑うしかなかった。

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