2-11 ハビタブル運輸
2-11 ハビタブル運輸
高橋の話は、次のような内容であった。
現在カボス星系では、カボスメインターミナルのみがアルティメットターミナルとして、ベルガモット星との間に航路を結んでいる。
この星間航路は過去において不安定であったが、近年の航路強靭化対策により、不通になるような事象はここ最近はほとんど起こっていない。
そのため、スダチ星とユズ星のメインターミナルについてもアルティメット化し、ベルガモットと直接往来できるよう、既に工事が開始されている。
ここまでは良いのだ。問題はここから。
そもそも星間航路が不安定であったため、カボス星系は行政区として独立してきた経緯があり、この事象が解決されてしまえば、最小規模であるカボス星系は独立の裏付けが弱くなる。
この時点でも、よつ葉はまだ意味の分からない顔をして聞いていた。
「まあ、ベルガモット星系に吸収されるということは、まだ決まっていないんだけど、ここのセンターはベルガモットセンターに吸収されるかもしれないんだよね」
よつ葉はようやく意味が分かり始める。
「それで辞めるやつが増えてるってことですか?」
星野の質問に高橋は淡々と返した。
「ベルガモットからスダチとユズにも直接行けるようになると、そっちのほうが効率がいいからね。あっちの配送会社はそれを見越して動いてるみたいだしさ」
「ベルガモットって、どこの配送会社でしたっけ?」
よつ葉は徐々に顔色がおかしくなってきて、星野の質問に対する高橋の態度を注視していた。
しかし高橋は相変わらずしれっと、他人事のように話し続ける。
「ハビタブル運輸。ベルガモットに住む条件で、うちの社員に声かけしてるみたいだけど。何やら七ツ星の上とパイプが強いらしくてさ」
――ハビタブル運輸!
――ベルガモットには住めない。
「仮にうちが商圏を失うことになってもさ、君たちの仕事がなくならないように準備はしてるから――」
よつ葉はこのあと爆発した。
高橋は実際用事があったようで、それだけを話すと帰ってしまった。
ただ、よつ葉の言った
「上の人たちだけで勝手に決めて。そんなの、やりかたが汚いよ!」
この台詞に対し、頭を抱えた星野と、ただ呆けていた高橋の反応は対照的だった。
「落ち着けって」
怒りが収まらないよつ葉は、諫める星野を睨みつける。
「何で平気なんですか!」
「もうすでに解決してんだよ、たぶん」
「は?」
よつ葉は表情を崩さすにいる。
「ならどうしてそう言ってくれないんですか?」
星野は涙目のよつ葉から視線をずらして、フフッと笑った。
「何か言えないことがあるんだろ」
「え?」
「所長はあんな感じだけど、やるときはやる。とくに従業員を守るときは」
よつ葉の目から涙が一筋こぼれた。
「たぶんな」
下を向き、涙を拭ったよつ葉は、口元を歪ませた。
「信じていいんですか」
星野はその表情を見ると、首を振って溜息をついた。
「お前さ、俺だって下手したら、辞めるのやめたのに、また辞めることになるじゃん」
よつ葉は口元を尖らせ、うつむいた。
これ以上何を聞けばいいのか、わからなかった。
結局、ほかの配送員が帰ってくる前に早く帰るよう星野に促され、よつ葉はセンターを後にした。
七ツ星の配送員になりたかったのではなくて、星乃運輸所属の七ツ星の配送員になりたくてここまできた。
ここまで色々あったけど、まさかまた壁が立ちはだかるとは思ってもいなかった。
よつ葉はいつものようにニャオンに寄ると、普段あまり飲むことのないチューハイの缶を何本か買い、家に戻った。
そういえばベルガモットセンター長の村井はすべて知っていたのではないか。
であれば中成センター長も知っていたはずなのに。
帰っても眠ることができず、気づくと空は白み始めていた。
つけっ放しのテレビを、膝を抱えて座りながら生気のない顔で向かい合っていると、不意にテレビからチャイムが鳴った。
そのニュース速報の字幕に、よつ葉は虚ろな顔のまま首を傾げた。




