2-10 やりかたが汚いよ
2-10 やりかたが汚いよ
2人を乗せた船がセンターに戻ったとき、ほかに灯りの点いている船の姿はなく、倉庫は静まり返っていた。
回収したコンテナを降ろすため、奥側のバースに星野の船が向かう音だけが響いていて、船内も重苦しい雰囲気に包まれていた。
「さすがにまだ誰も帰ってきてないか」
よつ葉は星野の呟きを聞いても、まったく動かない。
星野はぐるっと周囲を見渡した視線を、よつ葉に向けて止めた。
「腹でも痛いの?」
星野の視線に気づき、よつ葉は目を合わせずに大げさに首を振った。
「いえ、いえいえ、何でもないんです」
「ふーん……。回収分降ろすの俺ひとりでやるから、おまえ降りなくていいよ」
少し訝しそうな顔をしたものの、星野は何もなかったかのように、回収したコンテナを降ろして回収ラインのコンベアに乗せるとすぐに戻ってきて、船はまた営業所の方向へ進み出す。
「ん? あれは誰かな……」
センターへ入ってきた船を確認した星野は、前方の光に目を凝らした。
「誰か分かるんですか?」
さすがに驚き、よつ葉は口を開いた。
「いや、どっちかだったら何となくわかる……、あ、間違いねえわ」
「どっちか?」
「矢作さんか、徳用さんかどっちかならな。あれ、矢作さんだわ」
含み笑いを見せた星野は、船を停止させるとその場で降り、向かってきた船に手を振る。果たして星野のいうとおり矢作の船が星野の横で止まると、星野は矢作としばらく話をして、小走りで船に戻ってきた。
「何で分かったんですか」
「ん? まあ、2人とも操縦のクセが強いからな」
「そういうものですか」
感心するよつ葉をちらっと見た星野は、表情を少し引き締めた。
「休憩室のヤツが誰かも分かったしな」
それを聞いたよつ葉は、はっとした。
なぜ星野が矢作を止めて話をしていたのか、ターミナルでのやり取りのせいで、完全に頭から飛んでしまっていた。
そもそもはよつ葉が言い出したことが発端だった。
メモ帳に図形を描き続けることに夢中になったかと思えば、静かな空気に耐え切れなくなり、そしてまた沈黙。はたから見れば少し様子がおかしく見えるだろう。
停船エリアに船を停め、営業所へ向かって歩き出したとき、星野はあっ、と声を上げた。
「倉庫からそこまでの間くらい、動かさせてやればよかったな」
よつ葉がそんな状況であっても、星野も所詮この程度で、よつ葉のことをそこまで気にしていないことが、よつ葉の忙しい感情の起伏を目立たなくしているのかもしれない。
ただ、その原因となっているのもまた星野なのである。
「あ、待て!」
星野の叫び声に不意を突かれ、飛び上がったよつ葉の目の前には、高橋の姿があった。
高橋のほうへ星野が走っていくと、高橋は渋い顔をして首の後ろを掻き始めた。
「なんだよ。わざわざ聞こえないように無線使わずに話して」
わざとらしく強い口調で言う高橋に、星野は苦笑いした。
「何か隠しごとしてるんじゃないんですか?」
「矢作くんから聞いたの?」
口を尖らせる高橋に、星野は頷いた。よつ葉は横できょとんとしている。
「新入社員が自立する前に失職してしまいますよ」
続けた星野の言葉を聞き、よつ葉はぎょっとした顔をした。
「わかったよ。だけど言えることまでしか言わないからな。それでいいね?」
首を傾げる高橋に、2人は静かに頷いた。
帰ってきた船から見えないよう、営業所の入り口の脇のほうへ2人を手招きしたあと、高橋は事実をただ淡々と話し始めた。
そのショッキングな内容に全然似つかわしくない口調で、いかにも「さっさと帰りたい」と言わんばかりの態度に、星野は何かを察して途中から無表情になる。
「そんなの……」
下を向き、体を震わすよつ葉に気づき、高橋と星野は息を呑んだ。
「上の人たちだけで勝手に決めて。そんなの、やりかたが汚いよ!」
間もなく目に涙を浮かべて叫ぶよつ葉に、星野は頭を抱えた。
高橋はただ呆けたまま、よつ葉を見つめていた。




