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星乃配送員  作者: 鞍月環状
2 ベルガモット
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2-9 SRLサービス

2-9 SRLサービス



 カボスメインターミナルは、99コースと100コースの2つの便によって納品されている。

 99コースのよつ葉と星野が向かうのは、メイン店舗を除く店舗の納品を行うコースで、アルティメットターミナル内の店舗や、改札ゲート内の小型店舗なども含まれる。

 なお100コースで担当するメイン店舗は「七ツ星ストアでも5本の指に入ると言われるお化け店」であり、日によってはその1店舗だけで船の制限重量を超え、増便が出る。



 「今日はそんなに少ないんですか」

 ちょうど欠伸をしていた星野は、口を押さえながら横を向いた。

 「欠伸が出るほどな。100のほうは4トン超えてるらしいけど」

 「100って、すごいですね」

 よつ葉が妙に嬉しそうな顔をするので、星野は顔をしかめた。


 「100のほうが99より難易度は低いから、先に回ってくると思うけどさ、しばらくっていうか、断ってもいいんじゃないかな。さすがに」

 「どうしてですか」

 よつ葉の反応に、星野はまた噴き出しそうになった。


 「いや、身体壊すからさ。自分から志願しなくていいから」

 星野のよつ葉に対する態度は合宿前とは全く違っていて、言いかた1つとってもそれは明らかなのだが、「やらなくていい」と言われると、よつ葉はどうしてもその理由を額面通りに受け取ることができなかった。

 他意はないのだろうが――。


 星野といると慣れてしまったが、よつ葉は本来は誰かと一緒にいるとき、静かな状態が続くことが苦手だった。1便はメモ帳に夢中で気づかなかったのだ。



 「あっ」


 そんなことを考えていたよつ葉は、日中のことを思い出した。

 「なんだよ、いきなり」

 星野は少し眉間にしわを寄せて横を向いた。


 「そういえば、今日休憩室から出るときにすれ違った人が話してたことがあって」

 「なんて?」

 「たぶん間違いないんですけど、『ベルガモットには住めないわ』って言ってたんですよね」

 「ベルガモット?」

 よつ葉は頷いた。

 「なんでいきなり」



 星野が言うとおり、なんでいきなりそんな話をしたのかといえば、無意識的に静かな空間を避けたということだろう。

 ただその言葉はつい最近よつ葉自身も思ったことで、それで印象に残ったこともあった。


 「いや、その人最近ベルガモットに行ったのかなと思って」

 すでに興味を失った顔をしていたのに、星野はしばらくすると急によつ葉のほうを向いた。

 「休憩室の中、ほかに誰かいた?」

 「あ、矢作さんと徳用さんとその前まで話をしてました」

 星野は数回頷いた。

 「もうすぐ着くし、その話はわかった」

 「なにかあるんですか?」

 星野が含ませた言いかたをするので、よつ葉は思わず食いついた。

 「気になることはあるけど……」


 首を傾げて止まっているよつ葉を見て、星野は苦笑いする。

 「所長に確認したいこともあるし、速攻で終わらすから、しっかり働けよ」

 「わかりました。ちゃんと教えてくださいよ」

 よつ葉は口を尖らせながら、姿勢を戻した。 



 間もなく船はターミナル内の荷捌きスペースに到着。

 アルティメットターミナルには足を踏み入れることすらなく、すべて倉庫に入れて終了。

 そのほかの店舗も店のバックルームへ持っていくところ、倉庫に入れるところとバラバラで、よつ葉は一通り終わっても何をしていたのか理解できなかった。


 

 「あれ? 星野くん」

 その声の先には、スーツ姿の男が3人立っていた。

 「こんばんは、珍しいですね。お揃いで」

 配送量が少なかったとはいえ、文字通り速攻で終わらせ戻ろうとしていたタイミングだったにも関わらず、星野は爽やかに返事する。

 よつ葉はこの星野の外面の良さに、毎度驚かされている。


 「スダチのアルティメット化はもう少しなんだけど、ユズのほうも決まってしまったからさ」

 「ああ、そうでしたね。ご準備ですか?」

 「ここも増築してるから、またどこかの区画に出すかもしれないし」

 3人と星野が談笑していると、最初に声をかけた男がよつ葉に気づいた。


 「あれ? 星乃運輸さんに女の子なんていたっけ?」

 「ああ、新入社員なんですよ。菅原ー」

 星野に呼ばれたよつ葉は星野の横に立ち、頭を下げた。


 「菅原です。1か月ほど前に入社しました。よろしくお願いします」

 「えっと、私はSRLサービスの佐々木です。こっちが長田で、こっちが大島」

 挨拶を済ますと、佐々木は星野に笑いながら言った。


 「星野くんが新人連れてるのなんて、何年振りだろうね」

 「佐々木さん」


 ――ドクン。


 よつ葉が心臓の音を感じる前に、長田が佐々木を横からつついた。

 「5年ぶりですかね」



 星野が笑いながら返事し、何事もなく3人と別れてその場は過ぎさったものの、よつ葉は久しぶりに心に冷たいものを感じたのだった。

 よつ葉は2便の帰り道、星野に何も話しかけることができなかった。

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