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星乃配送員  作者: 鞍月環状
1 新卒さん
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1-2 菅原よつ葉

1-2 菅原よつ葉



 菅原すがわらよつ22歳。

 カボス星系の最小惑星であるユズ星の出身である。

 8年前にユズ星で発生した局地地震で孤立した街の住民であり、その際に星乃運輸の七ツ星船に救助された過去を持つ。

 近隣で配送業務を行っていた船を一斉に救助へ向かわせた機転のきいた決断と、個々の配送員たちの勇気ある行動は、当時マスコミにも大きく取り上げられた。

 「星乃配送員」として賞賛されたメンバーの中には、入社して2年目の星野遥ほしの はるかも含まれていた。


 それからずっと思いを貫き通したよつ葉は、大卒で星乃運輸に入社し、七ツ星ストア配送員になるべく今日から研修を受ける。

 しかしその稀有なプロフィールは高橋の判断により、3人の管理課員と4人の班長、指導員を務める星野だけに共有されることになったのであった。



 「コンコン!」

 営業所の扉を入って右手にある、小さな応接スペースを囲うパーテンションを叩くふりをして、高橋は中を覗き込んだ。

 はっとして立ち上がるよつ葉を手で制し、「椅子もう1つ持ってきて」と言った高橋に返事する声を聞いたよつ葉は、思わず口元を押さえた。

 高橋と矢作綾瀬やはぎ あやせが順番に入り最後に椅子を持って現れた星野は、床を指さす仕草をしながら高橋を見た。

 「そのへんでいいよ」

 軽く会釈して椅子を置いて座る星野を見て、口を堅く結んだまま、よつ葉は動けなくなってしまった。


 「菅原さん、大丈夫?」

 高橋の声に、はっとしてよつ葉は顔を上げた。「すみません。つい緊張してしまって」

 「菅原さんが緊張するような相手はいませんよ」

 「そんなことありません」

 含みのある台詞を笑いながら話す高橋に、顔の前で手を振りながら声を絞り出すよつ葉を見て、矢作が高橋の足を軽く小突いた。

 「……えーっと、自己紹介していきますね。えー、電話でも一回お話しました所長の高橋です。で、彼が班長の矢作くんで、菅原さんは矢作班になる予定です」

 「矢作です。よろしく」

 「は、はい、よろしくお願いします」

 よつ葉はぺこりと頭を下げた。

 「で、彼が菅原さんの担当指導員をする星野くんです」

 「星野です」

 軽く会釈する星野に合わせ頭を下げたよつ葉は、そのままの姿勢で固まってしまった。

 「よ、よろしく、お願いします」

 その様子を見た高橋と矢作は、揃って怪訝な顔をして星野を見つめた。星野はただ、きょとんとしている。


 「あー、とりあえず今日は現場ではなく、ここで仕事の内容を僕が説明しますので」

 高橋がそう言うと、矢作は星野に向けて指で合図を送り、それを見た星野は椅子を持って立ち上がった。

 「そしたら、明日からよろしくお願いね」

 矢作に合わせて星野も軽く会釈したとき、よつ葉は顔を上げた。

 「あの、す、すみませんでした。明日からよろしくお願いします」

 


 矢作と星野が営業所から出て行ったあと、高橋は少し待って、とよつ葉に伝え、資料を取りに机へ向かった。

 野代と三納直久さんの なおひさが視線を送ると、高橋は難しい顔で首を傾げる仕草をし、また小部屋に戻っていった。

 「三納くん、今日増便って無し?」

 「今日は一番多いところでも3トン超えてませんね」

 そう答えながら三納は野代のほうを見つめた。

 「いきなりなんですか。そんなこと聞かなくてもすぐ――」

 野代は手で制しながら言った。「いや、静かだと気まずいかな、と思ってさ」

 「そろそろ出発点呼が次々来ますよ」

 「うん、そうなんだけど」

 そう言いながら天井を見上げた野代は、大きく息を吐き出した。


 彼女はどうやら星野を知っていて、しかも誤った認識を持っているであろうことは容易に推測された。良い予感などするはずもなく、野代は溜息をつくほかなかった。

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