2-6 定時出勤の男
2-6 定時出勤の男
カボス星系に七ツ星ストアは1,000店舗弱あって、当然新店ができたり、撤退したりで定期的に増減している。
ただ、カボス星系への初出店からもう15年経っており、出店ペース自体はかなり鈍化していて、毎週必ずどこかで数店舗オープンしているようなことはなくなってきている。
ここカボスドライセンターは、毎日その1,000店舗に出荷する荷物を自動ピッキングで各積込バースへ流し、それを配送員が手積みしていく。
コースは100あるのだが、積込バースは1階と2階に30ずつしかないので、半分以上のコースは時間差で同じバースを使う。
それでも30バースあれば端から端まではかなりの距離になるため、水平型エスカレーターが所々に設置されていた。
「ここが七ツ星ロジの事務所ですね」
同じ建物とはいえ、ロジの事務所と星乃運輸の営業所は1km程度離れていた。
新庄が扉をノックして中に入ろうとすると、ちょうど同じタイミングで戸が開いた。
「うえっ」
前に倒れそうになった新庄を、スーツを着た短髪の男が受け止め、横には白髪混じりの恰幅の良い男が、少し驚いた顔でその様子を見ていた。
「中成さん、すみません」
「いえ、大丈夫でしたか?」
中成はほっとした様子で新庄から手を離すと、ちらっと白髪交じりの男のほうを見て、新庄に男を紹介した。
「新庄さん、うちの村井は初めてでしたよね」
村井という名前はよく聞いていたものの、新庄は実物を見たことがなかった。
「はい、私がここへ来たときはもうセンター長は中成さんでしたので。はじめまして、新庄といいます」
新庄が頭を下げると、村井は笑顔を見せた。
「大変だったね。中成からも、高橋所長からもきみのことは聞いてたよ」
新庄は一瞬身体を揺らすと、口元を堅く結んでまた頭を下げた。
「ありがとうございます。あ、あと、こちら新入社員の菅原です。よろしくお願いします」
新庄がしどろもどろになって紹介したよつ葉を見て、村井は驚いた様子で口を大きく開いた。
「きみが菅原よつ葉さんですか。ベルガモットはどうでしたか」
「え、えーっと、すみません、あんな素敵なホテルをご用意いただいて……」
不意を突かれ、よつ葉は一瞬止まってしまったが、ほかにすぐ思い浮かぶことがなかった。
「それはよかった。七ツ星ロジの村井です。またよろしくお願いしますね」
村井は笑顔でそう言うと、中成と一緒に「じゃあ」と手を挙げ、倉庫の奥のほうへ歩いて行った。
「村井さんって、あまりいらっしゃることはないんですか」
ロジの事務所から営業所へ戻る道中に、よつ葉が尋ねた。
「たまに寄られることはあるらしいんですけど、うちの営業所に必ずいらっしゃるわけでもないらしくて」
歩きながら答えた新庄は、そのあと後ろを振り返り、少しはにかんだような顔をする。
「中成さんに代わったのが5年前で、僕がここに来たのはそれより後なんで、僕も初めて会ったんですよ」
新庄の話を聞いて相槌を打っていたよつ葉は、また踏み込んでいいのかどうなのかと考え、微妙な顔になる。その気配を察したのか、新庄はまた照れ臭そうな顔をして言った。
「仕事中にケガしちゃって。でもやめたくなかったんで管理にしてもらったんです」
ああ困った――。
よつ葉は思った。
新庄と長い時間2人になったのは初めてなのだが、明らかに「聞いてください」という空気になっていて、しかもその内容は、どちらかというと人に聞きづらいものだ。
「なんでケガしたんですか」なんて、数日しか会ったことのない相手に聞けることではない。その点星野は自分のことは何も言わないし、よつ葉のことも何も聞いてこなかったので、そういう気苦労はなかった。その代わり暴言は嫌というほど浴びたが。
「休憩室も寄っていきますか?」
「はい、お願いします!」
渋い顔をしていたよつ葉は、その新庄の質問には即答した。
休憩室の場所は知っていたのだが、星野はそこへ行くことがほとんどなく、よつ葉も何も会話するわけでもなかったのに、星野の横にいつも座っていた。
せめて星野が休憩室に連れて行ってくれたら、ほかの人と話ができたのに――。
よつ葉は常々そう思っていた。
休憩室の扉を新庄が開くと、中には10人ほどの配送員がいて、2人に気づいた矢作と徳用が手を挙げていて、声をかけてきた。
「あれ、今日星野って99じゃなかったっけ?」
矢作が不思議そうな顔をして言うと、徳用も首を傾げた。
「ターミナルに行くの?」
「はい。休みなのに間違えてきちゃって」
ばつが悪い表情をしたよつ葉を見て、矢作はにやついた。
「あいつ本当にぎりぎりにならないと来ないよ。一緒の時は結構早く来てたと思うけど」
「そうなんですか」
「まあ、指導員してて定時に来るとかあり得ないけどな」
驚いたよつ葉を見て、徳用も口元を緩ませた。
「今日の99の1便、意外と多かったから、割と本気が見られるかも」
腕時計をちらっと見た矢作は、よつ葉にいたずらっぽい笑顔を見せた。




