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星乃配送員  作者: 鞍月環状
2 ベルガモット
15/23

2-3 ベルガモットには住めないや

2-3 ベルガモットには住めないや



 ファミレス寄りの合宿地に油断していたよつ葉は、土曜日の夕方、再び高級レストランへ戻ってきてしまった。

 ベルガモット中心地。目の前にはよつ葉が見たことのないようなレストランやカフェ。そろそろ営業を開始しようかというバーや、隣の通りにはお洒落なショップが軒を連ねている。


 さて、よつ葉は困ってしまった。


 その通りに目を向けると、たくさんのブランドショップやセレクトショップが並んでいる。飲食店など1軒もない。ただ、チェックインまではまだ時間がある。

 帽子の専門店に靴の専門店、バッグの店、雑貨は雑貨でも、アロマオイルの専門店――。


 「あーっ!」


 思わず出たその叫びの原因は、そのアロマオイルの専門店ともう一つ。アロマオイル専門店の横に違和感なくあった七ツ星ストアだった。

 その外観は一般的な店舗のデザインとは異なっていて、カラーリングも落ち着いた色彩に変更され、中のレイアウトも品揃えの割合も独特なものであった。そして周囲の風景から浮いてしまわないような工夫も所々にされていて、よつ葉はまたテンションが上がってきてしまった。


 さすがにここで、真っ先に七ツ星ストアに入ることに違和感を覚えたよつ葉は、まずはアロマオイル専門店に入ったのだが、ドラッグストアに売っているものとは価格が倍以上異なり、すぐに意気消沈することになる。

 とはいえ、よつ葉の好きな柑橘の香り――。ベルガモットを中心にした、いくつかの星系群の星々に名付けらえた、シトラスの香りを楽しむだけで幸せな気分になれたよつ葉は、結局その足で隣へ向かい、あまつさえ弁当を買うという暴挙に出たのである。



 お弁当をバッグに隠し、なんとかホテルへ到着したよつ葉は、そのホテルの外観にも驚き、自分の行動はきっと正しかったと思った。

 なぜなら、ベルガモットセンター長の村井の計らいによって用意された、七ツ星ホールディングスのグループ会社であるそのホテルは、いわゆるビジネスホテルではなく、よつ葉は中に入ることすら躊躇うほどだったからだ。


 よつ葉は意を決すると、緊張しておかしな歩き方になりながら、ホテルの中に足を踏み入れた。

 扉が開くと、よつ葉の周囲はベルガモットとダージリンの香りがいっせいに駆け抜けていって、フロントへと向かう通路の真ん中には、大きな鉢が置かれていた。

 その鉢に植えてある、よつ葉と同じくらいの背格好の木に近づき、しばらくまじまじと眺めていると、赤いコートを着たベルボーイがよつ葉へ近づいてきた。


 「ベルガモットの香りはお好きですか?」


 よつ葉はその木がベルガモットであることに気がつき、ベルボーイに会釈すると、ベルボーイはよつ葉の荷物に手を向け、笑顔で「お持ちいたしましょうか」と言った。


 「あ、ありがとうございます」


 そう言ってベルボーイにバッグを渡しておきながら、よつ葉はあることに気がつき、気が重たくなってきた。



 「部屋に電子レンジがなかったらどうしよう」



 ビジネスホテルであれば部屋になくても、借りること自体に抵抗はないのだが、ここで電子レンジを貸してくれと頼むのはどうなのだろう。

 百歩譲ってグループ中核会社の商品であったとしても。


 アールグレイの香りに包まれながらチェックインを行い、ベルボーイと会話をしながら部屋まで向かったよつ葉は、その会話の内容もまったく頭に入ってこなかった。

 さらに部屋に入るとそこはツインの部屋で、よつ葉はどっちのベッドを使えばいいのか分からずベルボーイに尋ねたのだが、彼はまた笑顔で「どちらでもどうぞ」と言い、部屋の案内をしてくれた後に、お辞儀して部屋を後にしていった。



 「あっ!」


 ベルボーイを見送ったあと、よつ葉は何かに気づき、声を上げる。

 それから部屋を出てそのベルボーイを呼び止めると、シルバーのコインを1枚渡そうとしたのだが、彼は一旦は受け取りを拒んだ。

 結局よつ葉の説得により、上司に報告することを条件に受け取ってもらったチップの理由は、あくまでも「素晴らしいサービスに対して」というもの。

 実際は、電子レンジの存在を案内してくれたことに加え、なぜ電子レンジが標準装備なのかを解説してくれたことであった。



 さすがに七ツ星のホテルだけあり、よつ葉の心配とは裏腹に、ホテル内にも七ツ星ストアは入っているらしい。

 そこでは一般店には置かれていない商品、とくにおつまみが充実しており、部屋で酒類とそれらの商品と一緒に楽しむことを想定して、レンジが置かれているとのことだった。



 「ベルガモットには住めないや……」



 窓の外に広がる絶景を眺めながら七ツ星ストアの弁当を食べていたよつ葉は、その格差が自分でもおかしくて仕方なかった。

 そして食べながら次に新たな問題が出てきて、しばらくまた考え込んだ。


 さすがに弁当のごみを捨てていいですかと聞いて、だめですと言われるはずがないのだが、それはやってもいいことなのだろうか。



 時間はまだ早かったのだが、いまさらもう外に出るのも億劫だったよつ葉は早々に寝る準備を済ませ、買ってこなくていいとは言われたものの、会社にお土産を買って帰るべきだろうかなどと考えているうちに、またいつの間にか眠ってしまっていた。

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