2-2 免許取れました
2-2 免許取れました
カボス星系からベルガモットへ向かうには、カボス星のメインターミナルを経由するしか方法がない。
さらに星系をまたぐ星間航路は特定のターミナルの間だけに通されていて、その建物はメインターミナルと隣接してはいるものの、入居するテナントのターゲット層も一段上がり、全体的に洗練された雰囲気になっている。
『アルティメットターミナル』
カボス星系の若者のうちべルガモットに憧れ、このアルティメットターミナルから夢を乗せて飛び立っていく者は多い。
一方よつ葉はというと、故郷からカボス星に出てきたときにメインターミナルを利用しているのだが、中を見て回るような余裕すらなく、そのまま真っすぐに何も届いていないアパートへ行ってしまったほど、人ごみに対する免疫が低かった。
当然今朝アルティメットターミナルに足を踏み入れたときも、真っすぐ高速船へ搭乗するゲートへ向かい、待合スペースで大人しくしていようと思ったのだが――。
「ここにもお店があるんだ――」
アルティメットターミナル内に七ツ星ストアを見つけたよつ葉は思わず中に入り、その店内で見慣れた折り畳みコンテナを見つけテンションが上がってしまった。
『2099-01』
コンテナの札によれは、99番コースの2便の1店舗目である。
ただそれだけのことだが、その数字の意味が何なのか分かっていると、なんだか「通」な客になったようで、よつ葉は店内で妙にぎこちない歩き方になっていた。
店の中に並ぶ飲料やお菓子、食料品や雑貨のほとんどは星乃運輸の誰かが運んできたものであって、いつかは自分もその一員になる。
1週間すらもどかしくなってきて、せっかく初めてベルガモットへ向かうにも関わらず、よつ葉は帰ってきたあとのことばかり考えていた。
そうこうしながら待合の椅子に座っていると、搭乗ゲートの扉が動き始める。
「ベルガモット行き 高速航路船 121便ご利用のお客様は――」
それを聞いてスマートフォンの画面を確認したよつ葉は、アナウンスに従って列に並び、前の乗客の動きをじーっ、と観察していた。
分からないくせに、なんとなく恥はかきたくない――。
冷や汗をかきながら、何とか高速船に乗り込んだよつ葉は、一路ベルガモットへ無事旅立つことができたのである。
初めて乗る高速船と、初めて通る高速航路。
七ツ星船は重力発生装置が搭載されていないため、星間航路では無重力になる。
それに慣れてしまうと、星間航路内で重力を感じることすら、よつ葉にとっては逆に新鮮な感じがした。
戻ってきた後は、外の光景を楽しむくらいの余裕は出てくるだろうか。
それより、星野は約束どおり、ちゃんといるのだろうか。
いろいろと考えていると、よつ葉はいつの間にか眠ってしまっていた。
この3週間、よつ葉は平日はほぼ毎日、カボスメインターミナル経由でスダチ星を往復していた。
営業所のあるセンターから、ターミナルへ向かう経路上に設置されているゲートを抜けると、そのまま複雑に絡み合った合流航路に乗り、さらに星間航路へと続くゲートの中へ進んでいく。
この星間航路のみを航行する船は、星から宇宙へ出るための推力を必要としない。さらに星間航路内は自動操縦となるため、運転士は離席こそ禁じられているものの、その間は何をしていてもいいのだ。
そのため運転士には宇宙船の操縦資格が求められないのであり、よつ葉が七ツ星船を操縦できないのは、単に船のサイズの問題であった。
「うぅうう……。怖い……」
標準航路では6時間かかるところ、1時間半でベルガモットへ到着したよつ葉は、船から降り、さらに到着ゲートから合宿場所へ向かう列車に乗らなければならない。
スマートフォンの画面を確認しながら進むのだが、方向が途中でよく分からなくなる。
「ここに地上駅の改札があって、23番出口は……」
スマートフォンを横にしてみたり、やっぱり縦にしてみたり、試行錯誤して何とか目的地にたどり着いたよつ葉は、ホームに止まっていたリニア線列車に飛び乗った。
さて、合宿地のことを高橋は、『ベルガモットの中では田舎』と言っていた。
ただそれは『高級レストランの中では安いメニュー』と言われているようなもので、果たしてよつ葉の手の届くファミレスのメニューに加えてよいものなのかといえば、話が変わってくる。
リニア線の車内でずっとそんなことを考えていたのだが、目的地に近づくにつれてよつ葉の目の前に広がる車窓からの景色は、どんどんファミレス寄りになっていった。
「星間航路で1時間半、リニアで40分、それだけかかるだけのことはある……」
さすが合宿地だけあって、周囲に何も楽しいところがない環境に1週間缶詰にされたよつ葉は、予定通り土曜日の昼には免許を取得し、帰路についたのだった。




