講義
薄暗い地下室の中で蝋燭の火が揺らめき二人の人影を映し出していた。一人はこの国の伯爵シーザー。もう一人はふくよかな体型をした口髭が特徴的な商人だ。
「それではこれで、あなた方はこの領内で好きに商売してもらって結構ですよ。」
「ありがとうございます。新天地にて不安がありましたが、シーザー様の様な頼もしい領主様がいて下さり我々も安心して商売をすることが出来ます。」
「やはりお互い助け合わなければいけませんし、持ちつ持たれつですよ。但し、私は信用を裏切られるのを何より嫌いますので万が一の時は覚悟してくださいよ。」
「そ、そんな!滅相もない!私、自身の分はわきまえておりますので!」
(こういう奴が一番危ないんだよな。こいつは俺より強い奴がいるとそっちに行きそうだな。)
「それでは用も済みましたし私はこれで。」
「えぇ。これからも長い付き合いであることを願っていますよ。」
(こいつは監視対象だな。今のところ使い捨てかな?)
「そういえば。」
「どうかしましたか?」
「いえ、あくまで噂ですがライス神聖国が近頃勇者を召喚したらしいんですよ。私ども商人の間ではもっぱらの噂でして。」
(あのクソ野郎共、また厄介なことを。)
「・・・そうですか。マルタ魔国との戦争が激化しそうですね。貴重な情報ありがとうございます。」
「いえいえ、これからも末永くよろしくお願いしますよ。」
商人が出て行った後シーザーは一人地下室で考えにふけっていた。
(勇者か。各国に点在しているが、召喚となると異世界か?過去に何例あったみたいだが公式に発表しているのは確か15年前に3人。内存命が2人。確か前の戦争の後そのまま旅に出て定住していないみたいだが・・・あいつに聞いてみるか。)
「ハイ、それでは特別講義を始めます!」
会議室の大きな黒板の前でいつもの執事服にモノクルをかけたサバスが講師の様な佇まいでそこに立っていた。
「サバス、俺は異世界の勇者について教えてくれと言ったんだがな?」
シーザーは若干呆れた様な表情を浮かべていた。
「そうですとも。ですからこうやって特別講義を開いているのです。異世界の勇者は大概アホですが、稀に洒落にならない様な奴が混じってます。それにほとんどは非常に強力な技を持っているのです。ですからこうやって顔合わせも含めお集まりいただきました。」
「それでは出席を取りますので呼ばれた方は自己紹介を兼ねて返事を願います。まず初めに今回講師を務めさせて頂く私、サバスと申します。種族はバンパイアですね。坊ちゃまもといシーザー様の執事兼教育係を拝命しております。あ、ちなみにこの場では役職の上下の壁は無くしますのでそのつもりでお願いします。では坊ちゃんからどうぞ。」
「坊ちゃんはやめろ!俺はもう27だぞ!」
その瞬間あたりがざわついた。
「なんだって?」「・・・27だと?」「16くらいかと思ってた。」「詐欺だろ。」
「ったく、まぁいい。知らない奴はいないと思うが俺はシーザー・モスこの国の伯爵だ。ここに集まったと言う事は皆俺の顏を知っているやつばかりだ。という事は俺が信頼している者ばかりという事になる。サバスの言ったとおり表はともかくこの場では上下は無いと思ってくれ。まぁ皆が集うのもこれが初めてだから面通しもしといてくれ。以上だ。」
「ありがとうございます。次はハッカ君。」
「ハッカだ。近衛兵長をしているシーザーとは幼馴染だ。」
「ハッカ君はこう見えて実は頭脳派なんですよね♪ハイ、次はシャトレ君。」
クックコートを着た深緑の髪のかわいらしさと気品を携えた深窓のお嬢様の様な女性が立ち上がった。
「はい。この館とギルドや役場などの公の場で料理長をしていますシャトレですぅ。普段は朝は館、昼は役場、夜はギルドと言ったローテーションで働いておりますぅ。どんな料理もご要望にお応えしますのでよろしくお願いしますねぇ。」
「ありがとう。シャトレ君はなんでも料理してくれますよ♪文字通りなんでもね。では次はビーツ君!」
同じくクックコートに身を包んだ赤髪の男が立ちあがる目元は見えないがコートの上からでも分かる肉体はハッカと遜色ない様に見られた。
「・・・副料理長をしているビーツだ。ローテーションは妹と逆回りだ。妹に手を出した奴は料理してやる。」
「ハイどうも!ビーツ君はシスコンですね!ですが彼の料理は絶品ですよ!みなさん料理されないように気を付けて下さいね!次はキュア君!」
キュアと呼ばれた小さいメイド服を着た子供が立ち上がった。
「はーいですよ。館でメイド見習いをしていますキュアですよ。13歳ですよ。よろしくお願いしますですよ。」
「何で子供が?」「見習い?」
またもやあたりがざわつく。
「ハイハイ、まぁ子供で見習いなので言いたいことは分かりますが、キュア君。こういう事を含めての自己紹介なのですよ?」
やれやれと言った風にサバスがキュアに促す。するとキュアは顔を紅潮させながら答えた。
「ご、ごめんなさいですよ!最近この館でお世話になっていますが、元暗殺者ですよ。ビーと呼ばれていましたですよ。」
「あの見た目で暗殺者かよ。」「ビー?聞かないな?」
「キュア君の暗殺者の名前を知っている者はほとんどいないでしょうね。普通は知ったら死にますから。キュア君は主に武器に毒を塗って使いますから当たれば確実に殺れますよ。これ以上は企業秘密なので私も知りませんが、成功率は100%と優秀ですよ。さて次はウィード君。」
おそらく見た目だけなら一番の年長者が立ち上がった。好々爺と周囲に与える小さな老人だ。
「儂はウィード、ここで庭師をやっとる。先代から仕えさせてもらっての歳は62だ。キュアの祖父で同じく元暗殺者をしておった。ゼットと呼ばれておったよ。まぁ引っ張り込んだのはサバスだがの。」
「おじいちゃんなのか。」「ゼット!?実在したのか!」
「はい、このおじいちゃんの二つ名は流石に知っていますね。文字通り狙われたら終わりと言う意味です。成功率99.99%の伝説の暗殺者ですよ?」
「よく言うわい。唯一暗殺出来なんだのはサバス。お前さんだけだ。ここに斡旋したのもな。」
「さて、各々の経緯はまたの機会にしてもうまとめていっちゃいましょう。先ほどからツッコミを入れてくれている門番のA君B君です。」
「雑だな!」「他の奴との差はいったい・・・」
「ジョークですよ。ジョーク。」
「本当かよ?まぁいいや。ここで門番をしている兄のアレクと」「弟のバックスだ。」「「俺達は双子の門番だ。」」
「ちなみにツッコミ担当ですよ。」
「「誰がだよ!」」
「流石双子ですよ。息ぴったりですよ!」
「・・・アレクとバックス。だからABか。」
「「違わないけど違うから!」」
「さぁ、一通り自己紹介も終わりましたし講義を始めましょう!A君もB君も座ってください。」
「「・・・もういいや」」
アレク・バッカス兄弟が項垂れて座った。サバスはずれたモノクルを指でかけ直し講義を始めるのだった。
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