コントロール
冒険者達の朝は早い。毎朝決まった時間に依頼がボードに張り出される為、条件の良い依頼を我先にと冒険者達が詰めかける。そしてその依頼の受注処理の為冒険者ギルドの朝はとても忙しいのだが、この日は少しばかり違っていた。別に人が少ないであるとか、依頼が無いと言うわけでは無い。いつもの様に掲示板の前には人だかりが出来ており、ある者は自分のパーティーへの勧誘、今日の打ち合わせ、今後の予定等を話していた。そうやって依頼が張り出される前の時間を新人は胸を躍らせ、中堅は有意義に、ベテランは今後を見据えて見どころのある新人の青田買いに目を光らせていたのだ。ただ、いつもと違うのは張り出される時間の少し前にギルド長のベンが掲示板の前にやって来た事だった。
「おい、見てみろよ。あれギルド長だろ?」
「本当だな。依頼の張り出しには少し早いし何かあったのか?」
いつもと違う様子に冒険者たちは各々ざわつき始た。そしてギルド長のベンが掲示板の前に着くと必然と視線が集まる。そして一呼吸置いた後に良く通る声で話出した。
「諸君!いつも依頼に精を出してもらって感謝する!」
一同はベンの言葉に耳を傾ける。
「ギルドがこうやって運営出来るのも諸君ら冒険者の日々の努力の賜物であると言っても過言では無い。」
急な労いの言葉に大半の冒険者が混乱する。
「急になんだってんだ?」
「緊急依頼でもあるのか?」
「まさか!スタンピートか!!」
一人の冒険者の発言に一瞬辺りが緊張に包まれる。スタンピートとは偶発的か必然的か、モンスターの大量発生に伴う集団行動だ。普段は種族の違いなどで一緒に群れる事の少ないモンスターだが、強大な共通の脅威や飢饉などで餌を求めた多種多様なモンスターがとてつもない数で移動することだ。勿論、移動と言ってもただ通るだけではない。導線上にある者は確実に被害を受ける事となる。畑ならば踏み荒らされ、家畜小屋ならば食い荒らされる。これが村や町でもモンスター達からすれば家畜と何ら変わりない。スタンピートは規模にもよるが、過去には街が滅んだ事もある看過出来ない災害の一種だ。発生した時点で国から兵士が派遣されて冒険者達にも強制的に召集がかかる。そんな事からスタンピートと言う言葉に冒険者達が過剰に反応するのも仕方がない事だろう。
「落ち着いてくれ。スタンピートではない。」
ベンの言葉に一気に緊張感が緩む。すると一人の冒険者が口を開いた。
「なら一体何なんだ?ドラゴンでも出たのか?」
ドラゴンでもスタンピートには及ばないものの単体の脅威としては最高クラスのモンスターである。
「ドラゴンでも無い。」
ベンは首を横に振る。
「なら・・・何があったんだ?」
「人だ。」
ベンの言葉にざわついた周囲が静まり返った。そしてまた各々が騒ぎ出した。
「人?」
「どういう事だ?」
「もしかして戦争?」
「いや、それは無い。ギルドは中立だ。国の戦争に俺達を巻き込む事は無い。」
各人が様々な憶測を言う中、ベンは声高々に言った。
「それは領主だ!そうこの領地を治めるシーザー・モス伯爵が俺達冒険者を蔑ろにしようとしている!」
「何だって!領主様が?」
「どうなっていやがる?領主とギルドは持ちつ持たれつって誰か言って無かったか?」
冒険者達は互いの顔を見合わせ話し込む。
「聞いてくれ。事の始まりはソーマと言う冒険者とのいざこざが始まりだった。」
ベンはそう言うとシーザーとの事のあらましを冒険者たちに話始めたのだった。
「何て奴だ!って事は領主の野郎は俺達に都合の悪い事を押し付けているって事か!」
「責任逃れじゃねぇか!」
「そう言えば私もこの前・・・」
冒険者達はどんどんヒートアップしてゆき会場の熱が更に上がっていく。
「で、でもよぉ?相手は貴族様だろ?言っちゃ悪いが逆らうと碌な事にならないんじゃないのか?」
「そ、そうだ!不敬罪とかで捕まえられたらそれこそ終わりだぞ!」
冒険者は個人事業だ。ギルドを経由するにしても捕まってしまってはその後の生活が成り立たなくなる。
「そこだ!」
ベンが冒険者の言葉に反応した。
「確かに相手は強大だ。だが、皆で動けばどうだ?あいつらが俺達全員を捕まえるか?このギルドを潰すか?それこそ町に人がいなくなりこの街が衰退していくだろう。そうなると困るのは領主の方だ。」
「た、確かに!」
「それには一人でも多くの諸君らの協力が必要だ。数は力だ!それは諸君らが一番知っている事だろう?」
冒険者達が騒めき出した。冒険者とは勝機に聡い。ベンの提案に勝機を感じているのだろう。先ほどの一過性の熱とは違うジリジリとした確かな熱が灯りだしていた。
(あと一押しか。)
するとベンも流石は元冒険者の経験からか勝機を今と見定め一気に畳掛ける。
「冒険者諸君!今こそ我々の立場を誇示する時だ!どんな勢力にも靡かない確固たる冒険者としての地位を確立しようではないか!・・・それとあまり大きな声では言えないが、上手くいったあかつきには特別な依頼を提供しようと思う。」
「なんだと!」
「内容を教えろ!」
「採取か?討伐か?」
「落ち着け!上手くいったらと言っただろうが。しかし、内容が分からず受けるほどお前達は馬鹿ではないだろう。・・・3日だ!3日間に限りギルド未調査のダンジョンへの探索を許可しよう!」
「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
ベンの発言にギルド内が一気に色めき立つ。それも仕方無いだろう。未調査ダンジョンへの無許可での探索はギルドにおいて極めて厳しく規制されている。これを破れは如何に自由な冒険者ともいえどギルドより登録抹消と追放が言い渡される。そうなれば冒険者は事実上の廃業となってしまうだろう。唯一、入る事が出来る者はギルドより調査を依頼された冒険者か発見者のみである。発見者も膨大な報酬と引き換えに発見以降の探索は許可されない事がほとんどだ。それにほとんど調査されていないダンジョンは危険も未知数だが、その分見返りも大きい。ハイリスク超ハイリターンとなる事が多いのだ。
「ギルド長!良いんですか!?そんな事勝手に約束しても?」
横からチリンがベンに耳打ちする。
「かまわん。元々は危険すぎてウチでは持て余すダンジョンだ。だからこそソーマに依頼したが今は行方が知れん。それに上手くいけば調査も完了するだろう。」
「しかし、本部がなんと言うか・・・」
チリンが怖気づく。未調査のダンジョンは当然本部にも報告されているし、調査には本部の許可が必要だ。それは利益もだが冒険者そのものがギルドの資産でもあるからだ。なので安全の為にギルドはその危険度別にランクを設定している。それが推奨ランクだ。ギルドは冒険者に1~10級のランクを設定している。これは実力の伴わない冒険者が無駄に命を落とさない為の処置である。当然依頼にもランクが振り分けてあり、安全かつ成功率を高めているのだ。
「そんな事は書類上で何とでもなるだろう。それよりも・・・」
チリンと話していたベンは冒険者たちに視線を向けなおし言った。
「ただし!当然の事ながらランク未設定の為に危険が伴うのは理解してくれ!それと、あくまで今回の出来事次第だと心得て欲しい。」
「おうよ!こんなおいしい話を逃す訳ねぇじゃねぇか!」
「そうだ!報酬もだが、いけ好かない領主に一発かましてやろうぜ!」
「そうだ!俺達は自由な冒険者だ!貴族様達に俺達冒険者がどういう者か教えてやろうぜ!」
「そうね!毎回貴族達の私たちに対する視線が気に入らなかったのよ!」
冒険者が思い思いの事を吐露していく。いつの間にか領主に対する言動は貴族全般へと広がっていった。
(頃合いだな!)
「では諸君!これより我々は一心同体だ!共に戦おう!」
ベンがそう言うとまるで地鳴りのような咆哮がギルドに響き渡ったのだった。
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