日常②
ハッカは懐から音玉を2つ出し片方に魔力を込めた。水が滴るような音がしたかと思うと人の声が流れ出した。
『ライズ君、君の証言をこの音玉に覚えさせよう。間違えがあっては困るからね。』
『はぁ、まぁそうおっしゃるのなら。』
『よし、では始めようか。』
『まず5日前に役場の帳簿係が今季の税収を集計した後に金庫へそれを入れた。そして翌日に金庫室の裏手から王城へ運ぶ馬車へ乗せる途中で君が輸送していた兵士へ声を掛けた。』
『確かに私は裏手で当日に収穫した野菜を厨房へ搬入するために裏口へいました。』
『何故声を掛けたんだい?』
『何度も顔を合わせていましたし、ご苦労様ですと声を掛けに行ったんです。そしたら厨房ですごい音がしたので兵士様と一緒に見に行きました。すると厨房で大きな鍋が散乱していました。私が置いた野菜が崩れて鍋をひっくり返したのだと思い慌てて直そうとしたんです。そしたら鍋の中に包丁がまぎれていまして手を切ってしまったんです。』
『それから?』
『それを見た兵士様が「なおしておくから手当てして来い」と言ってくれたので井戸で傷を洗い手当てをしてから戻りました。すると片付けも終わり兵士様にお礼を言って帰ろうとしたのですが。』
『兵士が金貨袋が二つ足りないと言った。』
『そうなんです。それで一緒に探したのですが見つからず、兵士様も「疑うわけではないが緊急事態だからすまない」といって私の持ち物と身体を調べました。』
『それは報告で聞いている。それで結局見つからずに兵士は報告へ行き君は帰ったと。』
『そうです!だから私ではありません。』
『しかしその後に君はもう一度厨房を訪れたと聞いたが?』
『そ、それは・・・』
『それはどうしたんだい?』
『厨房へ落とし物をしたと思ったのでそれを取りに。』
『何を取りに行ったんだい?』
『・・く・・・・の・・がみ・・を・・』
『よく聞こえないな。もう一度言ってくれ。』
『おふくろの形見の鏡を取りに・・・』
『おふくろさんの?なぜそんな物を持ち歩いているんだね?』
『・・・実はニーナとは付き合っておりまして、その鏡をその晩にプレゼントしようと思っていまして・・・』
『ふむ、しかし君は酒場に居たと言ってなかったかい?』
『で、ですからニーナに贈ろうとした鏡が無い事に気づき慌てて探しに戻ったんです!そこに料理長もいたので知っているはずです!』
『で、鏡はあったのかい?』
『えぇ、そして私は酒場に戻り朝まで酒を飲んでおりました!だからニーナが私の無実を証明してくれます!』
『なるほどね。君が無罪の理由を纏めるとだ、金貨袋が盗まれた時には現場にいたがそれは兵士が盗んでいないと証明し、戻った事は認めるがニーナ嬢への贈り物を探しに戻っただけだと。その後は酒場でニーナ嬢と一緒だったと言うわけだね。』
『はい、そうです。』
『間違いないかい?。』
『間違いないです。』
『よく話してくれたね。』
ここで音玉の記録は終わっていた。
「確かにこんなんだったかな。」
シーザーは先ほどの自分の記憶をたどっていた。
「しかし、長いな。報告にはもっと簡潔な方がいいな。」
するとハッカはもう一つの音玉へ魔力を流した。すると先ほどの様な水滴が落ちる様な音がした後にまた声が流れ出した。
『ライズ君、君の証言をこの音玉に覚えさせよう。間違えがあっては困るからね。』
『はぁ、まぁそうおっしゃるのなら。』
『よし、では始めようか。』
『まず5日前に役場の帳簿係が今季の税収を集計した後に金庫へそれを入れた。そして翌日に金庫室の裏手から王城へ運ぶ馬車へ乗せる途中で君が輸送していた兵士へ声を掛けた。』
『確かに私は裏手で当日に収穫した野菜を厨房へ搬入するために裏口へいました。』
『何故声を掛けたんだい?』
『何度も顔を合わせていましたし、ご苦労様ですと声を掛けに行ったんです。そしたら厨房ですごい音がしたので兵士様と一緒に見に行きました。すると厨房で大きな鍋が散乱していました。私が置いた野菜が崩れて鍋をひっくり返したのだと思い慌てて直そうとしたんです。そしたら鍋の中に包丁がまぎれていまして手を切ってしまったんです。』
『それから?』
『それを見た兵士様が「なおしておくから手当てして来い」と言ってくれたので井戸で傷を洗い戻って来ました。すると片付けも終わり兵士様にお礼を言って帰ろうとしたのですが。』
『兵士が金貨袋が二つ足りないと言った。』
『そうなんです。それで一緒に探したのですが見つからず、兵士様も「疑うわけではないが緊急事態だからすまない」といって私の持ち物と身体を調べました。』
『それは報告で聞いている。それで結局見つからずに兵士は報告へ行き君は帰ったと。』
『そうです!だから私ではありません。』
『しかしその後に君はもう一度厨房を訪れたと聞いたが?』
『そ、それは・・・』
『それはどうしたんだい?』
『厨房へ落とし物をしたと思ったのでそれを取りに。』
『何を取りに行ったんだい?』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『よく聞こえないな。・・・・・・・・・・』
『・ふくろ・・・・・を取りに・・・』
『・ふくろ・・・?なぜ・・・・・・・・・・・・・だね?』
『・・・実はニーナとは付き合っておりまして、・・・・その晩にプレゼントしようと思っていまして・・・』
『ふむ、しかし君は酒場に居たと言ってなかったかい?』
『で、ですからニーナ・・・・と・・・・・・・・・・・・・・探しに戻ったんです!・・・・・・・・・・・・・・』
『で、・・あったのかい?』
『えぇ、そして私は酒場に戻り朝まで酒を飲んでおりました!だからニーナが・・・・・証明してくれます!』
『なるほど、君が・・・・・・・・・・金貨袋・・・・・・・・・・・・・・・・を・・・盗んでい・・・・・・・・・・・・た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と。その後は酒場でニーナ嬢と一緒だったと言うわけだね。』
『はい、そうです。』
『間違いないかい?』
『間違いないです。』
『よく話してくれたね。』
先ほどよりも若干短くなった内容を聞きシーザー頷く。
「よく出来た報告だな。流石ハッカ。音玉を二重起動させて必要な所を抜粋するなんてやっぱお前は見た目に似合わず頭脳派だよ。」
細工された音玉の内容は巧妙に細工されており、違和感を感じない様に編集されていた。
「よく言うぜ。お前はそんな見た目でで喧嘩したら俺より強いだろうが。」
「組技だけはね。」
「どうだか。」
二人は互いに笑った後に気がすんだのか、シーザーが訪ねた。
「そう言えば金貨は何処にいったんだ?」
「あぁ、アレは料理長に頼んであいつらが中に入った後で正面口から回らせて井戸に投げ込ませたんだ。ただライズが井戸を使ったと聞いて肝を冷やしたがな。」
「なら早い事取りにいかないとな。」
「そうだな。それと他の者達はどうする?」
「他の者?あぁ、無理の無いように頼んだ。」
「わかった。適当にやっておく。」
「んじゃ、俺は国王に報告書でも書くわ。」
「わかった。じゃあ俺も後はやっておく。後で報告を上げておく。」
そういってハッカは執務室を後にした。ハッカは自室に戻りながら後の対応を考えていた。
(しかし、シーザーは本当によくやる。というかアイツは俺の方が頭が良いと言うが、あの悪魔的発想を思いつくのはあいつだからな。それに思いついても実行できる奴はそうはいない。それに・・・)
「あ、ハッカ様!」
ハッカが思考にふけっていると呼び止められた。
「ん?あぁ、どうした?」
声の方を見るとそこにはお茶の準備をしていたメイドがいた。
「もう執務室に行ってもよろしいでしょうか?お片づけをしたいのですが?」
「良いぞ。領主様との話は済んだからな。それは?」
ハッカはメイドの手にある包みを差し尋ねた。するとメイドは若干顔を紅潮させもじもじとした仕草を見せた。
「こ、これは私の故郷の果物でして!母が沢山送ってくれたのです。それでシーザー様のお口に合えばと思いまして。」
「それなら領主様も喜ぶだろう。今頃書類を作成しているだろうから持って行ってあげるといい。」
「はい!それでは失礼します!ありがとうございました。」
メイドは深くお辞儀をするといそいそと執務室へ向かっていった。
(シーザーの奴め、あの悪魔的思想のくせに周りの評価はすこぶる良いんだよな。普通悪い領主っていったらハゲ、デブ、不細工と三拍子そろっているだろうが!)
ものすごい偏った考えのシーザーはそのまま自室に戻っていった。
メイドが置いていった果物に舌鼓を打ちながらシーザーは国王への報告書をしたためていた。
『
親愛なる我が国王ファルト・メープル陛下へ
このたびは我が領内にて起きた公益窃盗事件におきましては誠に申し訳ございませんでした。陛下から領地をお任せいただいている身としましては、汗顔の至りにございます。これも私の不徳の致す所と思いこれより一層の精進に励む所存にございます。
それに伴いまして罪人の処遇についてここに記します。
主犯ライズ
この者を公益窃盗の罪で5年の奴隷落ち及び財産の半分を没収。並びに領内の一族の人頭税を追徴課税として3年間1割増と処す。但し盗難物が戻らない場合はその補てんとして奴隷期間の延長とする。
共犯ニーナ
この者を公益窃盗ほう助並びに逃走の罪で3年の奴隷落ち及び財産の半分を没収。並びに領内の一族の人頭税を追徴課税として3年間1割増と処す。但し盗難物が戻らない場合はその補てんとして奴隷期間の延長とする。
尚、共犯者ニーナにおいては盗難物を所持して逃走しておりますので指名手配とします。
ニーナを捕縛出来ない場合は主犯ライズに補填させるので奴隷期間はおおよそ30年となります。長期の刑期が予想されますので年齢を考慮しても満期刑が難しいと思われますのでその場合は残りの財産を一旦凍結し、彼の農地を接収して補填に当てる所存にございます。
以上をもちまして此度の窃盗事件を一区切りとさせていただきます。私が至らぬばかりにこの様な事をおこしてしまいまして誠に申し訳ございません。陛下におきましては不要なご心配をおかけ致しました事を心よりお詫び申し上げます。此度の事件を教訓に私をはじめ以下一同、肝に銘じて陛下の為により一層尽くす所存でございます。ジュダイ公国に永遠の繁栄を。
陛下の忠臣 シーザー・モス
』
(こんなものかな?)
シーザーが国王宛ての報告書をしたため、封蝋をしていると扉がノックされた。
「誰かな?」
「サバスです。シーザー様。」
「どうぞ。」
「失礼します。」
サバスと名乗った男はどこから見ても執事と言った男だ。但し、違和感がある。
「執事長が来たって事は・・・」
「来客でございます。」
彫の深い顔に銀色の髪がなびきその銀色の隙間からは赤い瞳が覗いていた。これだけならばただのちょっと特徴的な執事だろう。
「今日は来客の予定が無かったと思うけれど?」
「えぇ、御座いません。今日この街に来た商人だそうです。」
「そう言う事か。」
「ええ。」
サバスはそう言うと爽やかな笑みを浮かべた。その口元から似合わない犬歯が覗いていた。
(コイツの笑顔はゾッとするんだよな)
「仕方ないか、お前が通すって事はそうだものな。下だな?」
「えぇ、既に案内しております。」
「なら行くか、領主も楽じゃないよな。」
シーザーは愚痴を零しながら背伸びをして商人への対応へ向かって行った。
読みずらいかもしれませんが勘弁して下さい。このあともう少しコミカルになる予定です。
読んでいただいてありがとうございます。