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冒険者ギルド

 冒険者達の朝は早い。毎朝決まった時間に依頼がボードに張り出される為、条件の良い依頼を我先にと冒険者達が詰めかける。そしてその依頼の受注処理の為冒険者ギルドの朝はとても忙しい。


「ふぅ。」


 ようやく落ち着いたのか受付カウンターで業務に就いていた女性が一息ついた。


「お疲れさま、リュー。今日も激しかったわね。」


 リューの後ろから別の女性がカウンターの女性に労いの言葉を掛ける。


「本当にね!何でこんなに忙しいのかしら!チリン、あなたも受付に戻りなさいよ!」


 チリンと呼ばれた女性は苦笑いを浮かべながら首を振る。


「遠慮しとくわ。私は貴方の様に貴族様の相手なんか出来ないもの。」


「私も出来ないわよ!この前はたまたま私の所に来たから対応したけれどもうあんなのごめんだわ!」


 リューは以前業務中に貴族の使いと一悶着あった。それはこの領地の領主、シーザー・モス伯爵の近衛兵だ。件の勇者とのやり取りの為にバックスが訪れ、受付嬢のリューに出会っていたのだ。その誰もがやりたくない対応を半ば無理やり行わなければならずそのやり取りを見ていた他の職員から一目置かれる事となっていた。


「あーあ、私もチリンと同じ買い取り業務がいいなぁ。移動願い出そうかな。」


 リューは椅子にもたれ頭の後ろで手を組み愚痴る。


「そんな事言わないでよ。私が代わりに移動になったらどうするのよ。いいじゃない!ギルドの花形よ?冒険者の憧れの受付嬢様なのよ?男なんて選びたい放題じゃないの!」


「ならチリンがやってよ!私はもういいわ。それに冒険者なんて碌でも無い男ばっかりじゃないの!まぁ、()()()()()()()()()はいいなぁって思ったりもしたけどあれ以来顏出さないし。他の街に行っちゃたのかなぁ。」


 勇者の末路を知らないリューは机に顎をのせてぼやいた。領地の一部の上層部は()()()()()()()()と報告を受けているが本当は今だシーザーの館に監禁されている。その事実はシーザー一味しか知らないのでギルド長は元より末端のリュー達にはその真実を知る事は無かった。


「そう言えばあの人、最近見ないわね。あの実力なら死んじゃったって事は無いとは思うけど、どちらにしろ領主様に目をつけられたのならもうこの街には居ないかもね。」

「やっぱそうかなぁ。」

「もう、元気出してよリュー。あ!そうだ!この前広場の大通りにオシャレなカフェが出来たの知ってる?良かったらお昼に行かない?」

「え?あの工事してた所カフェになったの?」


 うなだれていたリューは机から顔を上げてチリンを見る。


「そうなのよ!その店の出す新しいお菓子がとっても美味しいらしいのよ!なんていったかな?なんとかくりーむ?って言うらしいんだけどね、すぐ売り切れちゃうの。だからお昼になったらすぐに行こうよ!」


 リューの顏にみるみる元気が満ちてくる。


「そうね!うだうだ言っても変わらないものは仕方ないよね!よし!それじゃあそのなんとかくりーむ?の為にさっさと仕事を片付けますか!」


 バンッ!と勢いよく机を叩きリューが立ち上がった。先ほどとは全く違うやる気に満ち溢れた顔をしていた。するとバタンとギルドの扉が開かれた。


「失礼する。」


 聞いた事ある声にリューは油の切れた機械の様な音を出しながら声のする方を見た。


「私はシーザー・モス伯爵の命により参上した。誰かギルド長へ取り次ぎを頼む。おや?お前は・・・」


 バックスがギルドの扉を開けやって来た。すると以前会ったリューを見つけると迷いのない歩でリューの前に来て要件を伝えた。


「ふむ、また会ったな。ちょうどいい、ギルド長に取り次ぎを頼む。」


 するとリューは感情の無い表情で答えた。


「・・・ギルド長は只今会合に出席しておりまして不在です。ご用件がありましたらお伝え致しますがいかがいたしましょうか?」

「いや、領主様からの要件だ。確実を期す為に直に伝えたい。ギルド長はいつ頃戻られる?」

「昼頃にはお戻りになると思います。」

「そうか、間が悪かったか。出直すとしよう。それではまた昼に伺うとする。その際は取り次ぎ(案内)を頼む。では失礼する。」

「分かりました。お待ちしております。」


 バックスはそういうとギルドを後にした。残されたリューは虚ろな目をしたまま扉の方をじっと見ていた。


「チリン。ゴメンネ、ワタシ、オシゴトガアルカラ、オヒル、イッショニイケナイヤ。」


 リューはまるで機械の様に抑揚(よくよう)のない声でチリンに話した。


「う、うん。仕方がないよ。お仕事だもんね!わ、私の事は全然気にしないでいいからね!あ!そうだ!私、買い取りのリストを更新をしないといけないんだった!じ、じゃあまたね!」


 チリンはまるで逃げるようにその場を後にした。その後しばらく誰も彼女に声を掛けれずにギルド長が帰って話しかけるまで彼女は虚空を眺めていたのだった。



 シーザーは部屋で紅茶を啜っていた。手元にはウィードがしたためた勇者の報告書があった。すると扉からノックと共に声がした。


「シーザー様、バックスです。」

「どうぞ。」


 シーザーが声を掛けると扉を開けバックスが入って来た。


「早かったな。ギルド長へ要件は伝えたか?」


 シーザーの口調の変化にバックスは辺りを見回した。


「サバスと、キュアか。」


 バックスも理解したのか口調を改めた。


「いいや、いなかったわ。昼に戻るらしいから出直す事にした。」

「そうか、それはご苦労な事だな。お前も茶を飲むか?キュア。」

「はいですよ!」


 キュアはシーザーに言われお茶の用意をする。


「お!いいね。ありがたく頂くとするか。」


 バックスはそう言うとシーザーの向かいに座った。


「お待たせしましたですよ。」


 キュアはそう言うとバックスに紅茶を出す。するとバックスは出された紅茶を啜った。


「んー!うまい!キュア、腕を上げたな!」

「そうですよ!キュアもバッチリ成長してるのですよ!」


 キュアはエッヘンと胸を張り威張る。


「何とか及第点ですよ、キュア。バックスさんはともかくお客様に出すのであればもう少し上達してくださいね。」


 サバスがキュアの入れた紅茶を吟味(ぎんみ)する。


「俺はともかくってどういう事だよ!」

「サバス様は辛口ですよ!」


 ケチを付けられたキュアが頬を膨らませて講義する。バックスはもう一度紅茶を口に含みシーザーに問いかけた。


「んで?今度はなんでギルドなんだ?」


 手にしたティーカップを机に置きシーザーは口を開いた。


「アイツ等は、()()()()()()()()中立を主張するからだ。バックスは勇者の件で知っているだろう?ギルド長の態度はどうだった?」

「それは、サバスが言ったみたいに勇者にやり込められていたぞ?」

「まぁ、ギルド長も人だ。好き嫌いくらいはあるだろうが、やはり勇者の肩をもっているのは否定出来ないだろう。あいつらは何も知らないが、勇者の処遇をギルドは何も発表していない。これがどういう事か分かるか?」

「・・・それはギルドが勇者を当てにしているからじゃないのか?」


 バックスはしばらく考えた後に答えた。


「そうだ!利用するにしても入り過ぎている。あいつらは勇者と俺達を天秤(損得)にかけたんだ。そして・・・」

「勇者に傾いた、か。」

「あぁ、アレから何の音沙汰も無いのがその証拠だ。・・・舐められたままでいいと思うか?」


 シーザーが目を細めてバックスに問う。


「ふざけんな!ですよ!」


 横からキュアが叫んだ。


(ギルド)(領主)を舐めてるんですよ!」

「その通りですね。少し躾が必要かと思います。」

「当たり前だ!」


 三人の答えにシーザーが口角を釣り上げる。


「そうだろう?(ギルド)(俺達)どうした(舐めたらどうなる)かをわからせる必要があるだろう。いいか?これは俺達とギルドとの戦争だ!やるからには徹底的にやるぞ!二度と歯向かえなくしてやれ!あいつらは()()()()()()()を保っていればいいんだ。」


 シーザー達は興奮冷めやらぬまま今後の打ち合わせに熱を入れるのだった。


PV5,000人突破しました!(^^)!

いつも読んで頂きありがとうございます!

ブックマークしてくれた方もありがとうございます!

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