反省会
「ではこれらを説明していただけますか?」
サバスが机の上の物の説明をウィードへ促した。
「そうじゃな、まずこの赤い液体の小瓶じゃが恐らくエリクサーじゃな。」
「なんだと!」「マジもんか!」
ABコンビが食いつく。
「エリクサーですよ?」
キュアはエリクサーを知らない様だ。するとサバスが説明する。
「エリクサーとはどんな病気も怪我も直す霊薬です。一説によると死人でも蘇生出来るらしいですよ。」
「なんと!・・・そこまでの物か!」
寡黙なビーツが目を見開き驚く。
「あくまでも一説ですよ?確認してないので分かりませんが。」
「・・・何故確認しない?手に入れた物の効能は理解しておかなければならないだろう?」
「誰か鑑定のスキルを持っていますか?」
「「「・・・・」」」
「なら鑑定士に頼めばいいですよ!」
キュアが提案する。
「どこの鑑定士にです?」
「え?道具屋さんに頼むとか、シーザー様ならコネあるですよ?」
「コネはあるにはあるが・・・信用出来んだろう。」
「あ、そうでしたですよ。」
鑑定出来なければ鑑定士に依頼すればいい。しかし、その鑑定をした人物が隠してしまえば誰にも分らない。国王付の鑑定士なら正直に答えてくれるだろうが、鑑定した事実と鑑定内容が全て露見してしまうのだ。流石にシーザーでも国王付の鑑定士は買収出来ないだろう。
「流石にエリクサーの出所と入手経緯を聞かれれば隠しきれないだろうしな。」
シーザーは腕を組み椅子にもたれ答えた。
「と言う訳で、これを調べる事が出来ないので勇者の証言と伝承のみとなりますが、流石にそれを鵜呑みに出来ませんしね。」
「ならこれはしばらく死蔵だな。さぁ、次を頼む。」
シーザーは話題を切り替えウィードへ続きを促す。
「次は、このクリスタルじゃがこれはもう知っているのう。」
ウィードは机に様々な色のクリスタルを並べ言った。
「これは知ってるですよ!使う所を見てたですよ!」
「私は使う所を見ていませんが確か魔法が封印されているのでしたわね。確か『オー・・」
シャトレがそれを口にしようとした瞬間ABコンビが飛びかかりシャトレの口を押えた。
「むぐぅ!ぐぐうぅぅ!」
「っぶねぇ!」「館が吹っ飛ぶ所だった!」
ABコンビが冷や汗をかきながらシャトレを抑え込む。
「今のは流石の私もヒヤッとしましたよ。」
サバスがハンカチを取り出し額の汗を拭った。
「すいません。」
シャトレがしょぼんと謝った。
「ま、まぁこいつは強力で便利じゃがこんな風に取り扱いに困るんじゃよ。」
「そうだな、あいつのアイテムボックスがあってこそか。とりあえずこいつも死蔵だな。」
「それで次なんじゃが、この財布と石じゃな。」
ウィードが二つを机に出す。
「いくら入っているんだ?」
「金貨三枚と銀貨四枚に小銅貨が八枚じゃな。後は小ぶりの宝石が数個じゃ。」
「・・・意外だな。もう少し持っていると思ったが。」
「おそらく見せ金でしょう。後はアイテムボックスですね。それよりこの石は・・・」
サバスは石を手に取り眺める。
「本人曰く、アダマンタイトの原石だそうじゃ。色々試したがほとんど傷がつかんわい。」
「・・・サバスの言った通りか。」
シーザーはため息をついた。
「まぁ、結果的にはそうなりますが。ここまでとなると私も騙されている気分ですよ。」
サバスは苦笑していた。
「アイツはどうやって加工するつもりだったんだ?」
シーザーがウィードへ聞いた。
「奴のスキルに『万物錬成』というモノがあってのう。掌に触れた物なら何でも錬成出来るらしい。ほれ、そこのフライパンと包丁があるじゃろ。」
「ま、まさか!」
シーザーが立ち上がりワナワナとそれを指差し叫んだ。
「アダマンタイト製らしいわい。」
そして力なく椅子へ崩れ落ち呟いた。
「勇者はやっぱりバカなんだな。」
「そうですよ?だからこんなモノ作るんです。」
「あのぉ、これも死蔵でしょうか?」
シャトレがシーザーに問いかける。
「誰も加工出来ないんだ、そうするしかないだろうな。」
「でしたら、フライパンと包丁は使わせて貰えませんか?どんなものかすごい興味があるんです!」
シャトレが必死でお願いしているがウィードが止めた。
「無駄じゃよ。」
「何故ですか!こんなモノ他にはありませんよ!料理人として是非使わせて下さい!」
「・・・俺も興味がある。」
シャトレとビーツが抗議する。
「儂が試さないと思うか?この包丁は食材どころかまな板と台まで切り裂くし、フライパンはどんな熱も通さないんじゃ。これを使って何を作るつもりじゃ?」
「何でも切ってしまう包丁に熱を通さないフライパンですか・・・お手上げですね。」
「・・・作ったヤツはバカだな。」
「バカだな」「アホだな。」
「きっと本人も使えなかったでしょうね。」
改めて勇者のバカさ加減を認識した一同はため息をついた。
「結局全て死蔵か。」
ハッカがポツリと言った。
「全て普通に使えるモノじゃないですからね。」
「まぁ、勇者を再認識した所でそろそろ本題を始めたいんだが?」
シーザーが流れを切って次の話を切り出す。
「おっと、ついつい話が逸れてしまいました。それでは決算報告はこの辺にして本題に移りたいと思います。」
サバスが襟元を正し、シーザーに視線をやる。するとシーザーは机の上に両手を組み話し出した。
「では各々自覚があるかどうなのかが聞きたい。反省点がある者は言ってくれ。」
シーザーがそう言うとハッカが口を開いた。
「私から述べよう、私は最後の瞬間に気を抜いた。たまたまシーザーに向かい組み伏せられたから良いようなものだが、あれが私なら恐らくは無事ではなかっただろう。それに主に襲い掛かった時に本来は私がシーザーを守るべき所だ。あそこでシーザーがやられては目も当てられん。」
ハッカはバツが悪そうに顛末を話した。
「そうだな。他にはあるか?」
皆が周囲を見渡すがそれ以上口を開く者はいなかった。
「ふむ、なら今度は俺から指摘しよう。」
するとシーザーも一同を見回し口を開いた。
「まずはハッカ、お前の今回の最大の反省点はそこだ。いかに瀕死に見えようと油断だけは今後絶対にするな。それともう一つある。」
シーザーの言葉にハッカは眉間に皺を寄せた。
「勇者に一撃を入れただろう?出来ればあそこで仕留めろ。」
ハッカは目を閉じ思案する。
「お前の演技は完璧だった。長い間勇者に馬鹿だと思わせた所は評価する。だから完璧な一撃を入れる事が出来たんだ。次からはそこに必殺の一撃を叩き込め!足りなければ追撃だ!どうだ?」
ハッカはゆっくりと目を開け答えた。
「確かに、あの時は私が完全に支配していた。今思えばボディではなく急所を狙う所だったのだろう。それに私は一撃で満足してしまったのも確かだった。」
ハッカが当時を思い出し反芻する。
「そうだ、だがさっきも言ったが一撃を入れる所までは文句の付けようもない所作だった。こちらが優勢になった時ほど気を張る様に。次にバックス。」
視線を向けられたバックスはビクっとした。
「お、俺ですか?」
「あぁ、お前は勇者の声が聞こえてたはずだな?だったら途中で割り込みこちらを裏切る素振りを見せ勇者を油断させてから安全に殺れ。」
「厳しい事言ってくれるぜ。」
アレクが他人事の様に横やりを入れる。
「ついでに言うとアレク、お前もだ。」
「俺もですかい?俺は門前の役割でしたぜ?」
「あぁ、お前もだ。お前にもイヤーカフは渡したはずだぞ。バックスが気付けなかったならお前がフォローしてやれ。お前は門で勇者が暴れた時の保険だが、自分の役割を終えたなら他のサポートに回るんだ。」
「「・・・すいませんでした。」」
ABコンビは言われて思いついたのか素直に頭を下げる。
「だが、バックスは勇者に思わせぶりな態度を取れたしアレクは違和感を抱かせなかった。そこは見事だ、良くやった。」
2人はホッと息を吐きお互いを見る。
「次にサバス。」
「おや?私もですか?」
「お前は遊び過ぎだ。知っててやっているな?」
サバスがニヤリと笑う。
「バレてましたか。」
「お前にも考えはあるんだろうが背後から声を掛けるくらいならしっかり決めろ。あそこで勇者を仕留める事は出来ただろうが。」
シーザーがサバスを睨む。
「そこはあえて今後の為と言っておきましょうか。」
「・・・わかっている。俺達に経験を積ませたかったんだろう?だが、見くびるなと言ったのはお前だぞ?」
「次回はもう少し自然にやる事にしますよ。」
「まぁいい、お前の余裕はこっちの余裕にも繋がるしな。ただ勇者の言葉には気を付けろ。無意識に反応しているぞ?」
「・・・思い当たる節があります。以後気を付けます。」
サバスはシーザーの言葉に目を見開いたあと素直に謝罪した。
「そして最後は俺だ。」
シーザーは自分を親指で刺しながら言った。
「シーザー様がですかい?」
バックスは疑問を抱きながら問う。
「あぁそうだ。まず俺はこのイヤーカフを付けながらお前達に碌に指示を飛ばせなかった。余裕が無かったと言えばそれまでだが、俺からバックスに裏切りの指示を出せていたらもっと安全に事を進めていただろう。」
ABコンビが驚き顔を似合わせる。
「次にハッカが一撃入れた後は俺も追撃出来たはずだ。勇者の反撃には返せたが、俺も一瞬油断した事に変わりはない。要はお前たちの反省点は俺のせいだと言ってもいい。特にハッカとバックスには危険な目に合わせた。すまなかった。」
シーザーはそう言うと頭を下げた。
「やめてくれ、私たちが惨めになるだろうが。」
「そうだぜ。俺達はあんたの指示で動いたから勝てたんだ。頭を上げてくれ。」
ハッカとバックスは困った表情を浮かべている。あたりの空気が少しばかり重く感じられた。
「さぁ、もういいでしょう。反省会はこの辺にしませんか?私お茶を入れてきます。」
シャトレが重い空気を払拭しようと立ち上がった。
「・・・そうだな。ここまでにしよう。次は各々今回の教訓を生かす様に。それと微妙な空気になってしまったな。次は良い話をしよう。今回の功労賞だ。」
シーザーは懐から2つの革袋を取り出し机に置いた。革袋からは軽くない音がした。
「今回の功労賞はキュアとウィードだ。報奨金を出す。」
シーザーはそう言うと二人に袋を渡した。
「気前がいいのう。」
「き、キュア達がですよ!?」
「そうだ、お前達二人は今回の情報収集において素晴らしい功績を出した。特にあいつらの宿での会話は有益だった。こればかりはこのイヤーカフでも聞き取れない。念話のみだからな。勇者達が盗聴した時の反応やあの魔道具の起動呪文を聞き出せたのは助かった。実際に止めとなったわけだしな。だから遠慮せずに受け取ってくれ。」
キュアは戸惑いながらも受け取ると笑顔をうかべる。
「ありがとうございますですよ!」
「これからも頼んだぞ。」
「はいですよ!」
「いいなぁ、爺さん今晩一杯いこうぜ!」「カバン持つぜ!」
ABコンビはウィードにたかるようだ。
「さぁ、これで今回の反省会は終了だ。皆ご苦労だった。次に備えて英気を養ってくれ。」
「・・・次?」
ビーツがシーザーの不穏な言葉を拾う。
「あぁ、次は冒険者ギルドを攻める。」
衝撃の発言に一向は暫し固まったまま動けないでいたのだった。
本日もありがとうございました!
私事で恐縮ですが、体調を崩してしまいました(-_-;)
冷たい物を飲み過ぎた様ですw
ソーマ編?は今回で終了です。次はギルドとやり合いたいと思いますので暫しお待ちください。
今後ともよろしくお願い致します。