決着
ソーマはニヤリと笑うとシーザーの正面まで行き右を見た。
(確か右の4番目の柱だったか。)
ソーマは審議の間の柱の右。4番目の柱の前に来た。
「おい、何をするつもりだ?」
ハッカがソーマの行動を訝しむ。
「五月蠅い。黙って見て居ろ。シェリーお前も来い。」
(えーと、この花の飾りだな!左右に二回だったな。)
シェリーがソーマの元へ行きソーマは柱の花飾りに手を伸ばそうとするが。
「お前!それに触れるな!」
シーザーが突如として怒号を上げる。
「なんだ?何かマズい物でもあるのか?」
ソーマは薄ら笑いを浮かべ飾りに手を掛けた。
「ハッカ!」
「そいつを抑えろ!」
シーザーが叫びハッカが兵士数人と共にシーザーに駆け寄る。
「シェリー!俺が抑える!お前はここを頼む!」
「はい!」
ソーマは開錠をシェリーに託すと向かってくるハッカと兵士に対峙した。
「そこから離れろぉ!」
ハッカがソーマに飛びかかかる。
「遅い。」
ソーマは魔封じのアンクルのせいで魔法が使えない。しかし己を『万物錬金』のスキルで体術の才能を開花させたソーマは掴みに来るハッカの腕を取り一本背負いの様に投げ飛ばした。
「ぐぅ!」
ハッカを投げ飛ばした後は兵士達も同様に片づけて行く。
「お前ら!そこまでして知られたくない事があるのかよ!」
二人目の兵士を倒した所でソーマが凄む。
「何を言っている!いいからそれに触れるな!」
シーザーが叫ぶがソーマはまるで鬼の首を取ったかの様な態度だ。
「これがお前達の悪行の証拠だ!」
パンッ!
ソーマが叫んだ後、部屋に乾いた音が響いた。するとソーマの後の方からにビチャっと何か水気のあるモノが飛び散る音と同時にシェリーの絶叫が響いた。
「あああああぁあぁああぁあっぁぁぁあ!!!」
何事かと思いソーマが振り返るとそこには足首から赤い噴水を上げるシェリーの姿があった。
「シェリー!!」
シェリーはもんどりうって転がるが右足首から先が消失していた。
「おい!どうした!何が起こった!!」
ソーマは状況がわからずシェリーに駆け寄るがシェリーは顔から大量の油汗を流し蹲っている。
「遅かったか。」
シーザーはポツリと呟く。
「お前!シェリーに何をした!」
するとハッカは冷たく言い放った。
「私たちは何もしていない。お前達が自ら行ったのだ。」
「どういう事だ!」
「それは被告人が暴れたり、逃亡した時に行う最後の手段だ。お前たちの様に兵士で取り押さえれないほどの武力や休廷の間に逃走し捕まえるのが困難な時に相手を無力化する魔装置だ。」
「なんだと!」
「あの女が触れた飾りを二回左右の順に回すと2号のアンクルが爆ぜる。左右を逆にすると1号アンクルが爆ぜる仕組みだ。」
「なんだよそれ!そんな事言って無かっ」
ソーマの叫びをシーザーが遮る。
「何故初めて来た君たちがこの仕掛けの作動方法を知っている?」
「そ、それは!」
「まぁこの際もういいだろう。君はこの審議の場で暴れた。よって先の罪状の有無にかかわらず拘束する。捕らえよ!」
「「「はっ!」」」
兵士達がソーマとシェリーの元へ駆けて行く。
「クソ!」
「うううぅぅぅぅ!」
シェリーは両足首から血を流しながら這いつくばっており出血のせいかみるみる顔が青くなっていく。それを見たソーマは自分の首にあるペンダントに加工された小瓶を引きちぎった。
「シェリー!!」
ソーマは引きちぎったペンダントを思い切りシェリーに向かって投げつけた。するとペンダントはシェリーに一直線に向かって行き、シェリーの肩口に当たる直前に空中で停止した。
「なっ!」
ソーマは空中で止まったペンダントを凝視した。
「危ないですね。お仲間でしょう?そんな物投げつけて怪我でもしたらどうするのですか?」
「!!!」
ふと、ソーマの耳元で声がした。するとソーマは振り向き際に裏拳を声のする方へ叩き込む。
「おっと、危ない。」
すると危なげなく裏拳を躱した執事服の男がいた。
「こいつ!いつの間に!」
「あなたは人の問いに拳で答える様な戦闘馬鹿ですか?先ほども仲間に物を投げつけていましたし。」
するとサバスはペンダントを摘まんで見せた。
「返せ!」
「自分で投げておいて返せは無いでしょう?」
ソーマの攻撃をサバスは華麗に捌いていく。
パンッ!
ソーマの右足首が爆ぜた。
「があああぁっぁぁ!」
ソーマはそのまま前に倒れ込みもがく。
「本来はこういう時の為に使う物なんだよ。」
声のする方を見るとシーザーが柱の仕掛けを起動させていた。その横では気絶したシェリーが兵士によって運び出されている所だった。
(クソッ!クソッ!なんでこうも流れが悪いッ!)
「しかし、あの爆発でも足があるなんて驚異的な身体だね。」
ソーマの足首は表面こそ見るに堪えない様な有様だが骨や主要な筋肉はまだ原型をとどめていた。
(足は・・・まだ動く!こうなったら隙を見て一旦引くしかない!)
「ハッカ、連れていけ。」
「承知しました。」
ハッカはシーザーに言われてソーマの方を見るとソーマは何とか足を引き摺り立ち上がった。
「ハァ、ハァ、ふぅ。・・・おい、デカブツ!」
息も絶え絶えにソーマはハッカに向かって叫んだ。
「貴様、まだそんな口を利けるだけの元気があったのか。」
「これくらいの怪我がどうした。領主の腰巾着のお前くらいならこの怪我した足だけで十分だ。」
ソーマがそう言うとハッカはみるみる顔を真っ赤にして額に青筋を立てた。
「貴様は随分と痛めつけられたいみたいだな!」
「威勢がいいのは口だけだろ、金魚のフンが。」
「このクソ野郎がぁ!」
ハッカは解き放たれた獣の様にソーマへ向かって行く。
(いいぞ、このまま来い!このまま窓へ投げつけて退路を開く!)
ソーマは襲い来るハッカの右拳を取り窓へ投げつけようとしたが腕を取る寸前でハッカは腕を引き、引いた勢いで反対の拳でソーマのボディを打ち抜いた。
「ぐふぅ!」
ソーマは衝撃のあまり腹を抱えて吐瀉物をまき散らしながら転げまわった。
「ど、ど・・おじ・・で・・」
呼吸もままならぬまま涙で前が滲んだソーマが見た者は先ほどの怒髪天を突いた男の面影は欠片も無く、ただ道端の汚物を見るような眼をしたハッカがいた。
「フン、道化を演じるのも堪えるものだな。」
「ご苦労様。」
すると笑みを携えたシーザーがハッカに労いの言葉をかけ歩み寄る。
「いやぁ、助かったよ。一時はどうなるかと思ったね。」
「こいつが馬鹿でよかったな。」
「本当だね。あ!忘れる所だった。」
シーザーは懐から腕輪を取り出しソーマの左腕に装着した。
「君は無詠唱で魔法を使えるのだろう?危ないから魔封じの腕輪をつけさせてもらったよ。」
(何を今更・・・そうか!アンクルが無くなったのなら魔法が使えたのか!)
「しかし何故先ほどは魔法を使わなかったんだい?」
(クソ!それに気付けないほど俺は焦っていたのか!)
「君達が魔封じの腕輪をせずに入廷した時は正直焦ったよ。」
シーザーが衝撃的な発言をした。
「は?何を言って・・・」
「あのアンクルは無力化用だと言っただろう?兼用にすると爆ぜた瞬間に魔法が使えてしまうじゃぁないか。だから左手に魔封じの腕輪、右足に無力化のアンクルを付けるのが規則なんだ。」
(なんだと!それじゃあ俺たちは最初から魔法が使えたのか!)
「もう使えないけどね。」
「クソ!何て事だ!」
ソーマは拳を地面に叩きつける。
「何をどう思い込んでいたかは知らないけど、こっちは助かったよ。ハッカ、前室の子にしっかり手順を覚えさせないと危ないよ?」
「まぁ、経験が無いから仕方あるまい。シャトレにはよく言っておく。」
シーザー達が会話でソーマへの注意が薄れた所を見計らってソーマがシーザーへ飛びついた。
(今だ!)
ソーマがシーザーの手首を取り引き寄せその首を裸締めにしようとした所、何かシーザーがソーマの背に乗り、顔を地面に押し付け左腕を持ちあげ極めていた。
「!?!?!?!?」
ソーマは訳が分からなくなっていた。今回は微塵も油断せずに仕掛けた。自分の改変した才能を余す事無く使い、確実に領主の首を極め人質にしてこの窮地から脱出しようと試みた。ところが現実は何故か自分がシーザーの下敷きになり腕まで極められているのだ。
「おいおい、よりにもよってシーザー様に組技かよ。」
声の方を見るとバックスが丁度入口から入って来た所だった。
「バッグ・・ズ?」
ソーマは同一人物とは思えない口ぶりで登場したバックスを見た。彼の印象ではバックスはあまりシーザーを快く思って無いが忠義に厚く、仕方なく仕えていると言った印象だった。己の中の正義が勝ればこちらに寝返るかもしれないと思ったほどだったが今のバックスはそこら辺の酒場にでもいるような軽い男だった。
「これはこれはバックス君、君も中々の演技派だったね。」
「そこを褒められてもな。それにしてもお前は何でよりにもよってシーザー様に技を掛けるかね。ハッカ隊長あたりならきっと思い通りになっていただろうに。」
「う、む。少し油断していたのは確かだが。」
ハッカはバツの悪い顔に一筋の冷や汗を流していた。
「何故だ!何故ただの領主がここまで出来る!」
ソーマが何とか首を持ち上げ叫ぶ。
「何故、か。わからないのかい?」
「俺はスキルを改変して対人系のスキルは全て才能を開花させた!なのにっ!」
ソーマが叫ぶとシーザーが笑みを崩し真顔で答えた。
「お前は才能を開花させてからどうした?それを磨いたか?努力したのか?」
「・・・・」
ソーマは確信を付かれて言葉を発せない。
「どうした?どうせそれで満足して碌に腕を磨かなかったのだろう。どうしてこうなったか教えてやる。確かにお前の才能は天才的だ。だがな、俺もその才能は持っている。それを今まで磨き続けたんだ。今この差は努力したかしなかったかの差だ。俺はこの領収の地位を守る為なら努力は惜しまない。」
シーザーはソーマにきっぱりと言い放つ。
「もういい。お前はもう大人しくしていろ。おい、連れていけ。」
「「「はっ!」」」
兵士はそういうとソーマの両脇に立腕を掴み連行した。
「終わったな。」
ハッカがため息をつく。するとサバスが言った。
「ハッカ隊長、そういう事は言わない方が良いと思いますよ?」
「何故だ?」
ハッカが疑問を浮かべる。
「彼らの世界ではそういう事を言うと・・・あ、ホラ。」
サバスがハッカに注意をしてソーマの方を注視した。
「離せぇ!もういい!こんな世界なんか滅茶苦茶にしてやる!」
「こうなるらしいですので。」
ソーマはそう叫ぶと兵士を振りほどきシーザーに向かう。すると懐のどこかから赤い水晶を取り出しシーザーに向かって振りかぶった。
「お前は絶対に許さない!ここで死ねぇぇ!」
ハッカとバックスは咄嗟にソーマとシーザーの射線に割り込んだ。ソーマが赤い水晶をソーマに投げつけるべく振りかぶり手から離れる瞬間にシーザーが背を向けたまま呟いた。
「『オープン』」
「ぎゃあぁああぁあああああ!!!」
シーザーが呟いた瞬間、水晶は砕け中から炎があふれソーマを包んだ。すぐさま兵士が火を消し止めたが既にソーマは全身大火傷を負い瀕死だった。薄れゆく意識の中でソーマは思った。
(しかし何故だ?どうして奴が俺のオリジナル魔法の発動条件を知っていたんだ?それに思い返せば俺たちの行動を先読みしている様な素振りが何度かあった気がする。あぁ、俺は死ぬのか?なんの為にこの世界に転生したんだよ。まだ何もしていないのに。死にたくない。死ぬのは嫌だ!)
ソーマの意識がいよいよ無くなると言う所で全身の痛みが少し引いたような気がした。
(ついに痛覚もおかしくなったか?いや、感覚が少し戻って来ている。心なしか意識もさっきよりも鮮明な気が・・・)
ソーマが不思議に思っていると微かに声が聞こえた。シーザーの声だ。
「おい、まだ死ぬなよ。お前には聞きたい事が山ほどあるんだ。ん?どうして魔法の発動呪文を知っていたんだって顔してるな?」
するとシーザーはソーマの耳元で呟いた。
「情報戦がお前たちの専売特許だと思うなよ、異世界人。」
(なんだと!お前今何て言った!?)
ソーマは声に出そうとするが喉が焼けて声が出ない。すると今度こそ意識が遠くなり目がかすんで来た。ソーマは何とか意識を保っていたがシーザーが老人と子供と何か話しているのを最後に見て意識を手放したのだった。
PV3,000人突破しました!皆さんありがとうございます!
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます\(^o^)/
感想を頂いたのでテンションが上がり気が付いたらとても長くなってしまいましたw
これからもよろしくお願いします!