勇者の反撃
ざわざわとする空間の中心にソーマとシーザーがいた。これまではシーザー側の優勢であったが、勇者の一言で会場がざわめく。
「さぁ、話してくれ。」
シーザーは勇者を促す。
「そうだな。まず結果から言うとライズとニーナは犯人ではない。」
ソーマの一言にさらに会場がざわめく。
「まるで君は犯人を知っている様な口ぶりだね。」
「あぁ、知っているさ。犯人は領主シーザー。お前だ!」
ソーマはシーザーに指を突き付けた。ざわめきが消え辺りが静まりかえる。
「・・・そこまで言うからには証拠でもあるんだろうね。それとも先ほどの説明では理解出来ずにまた侮辱罪を犯すのかい?」
シーザーが冷たい目で勇者を見下ろす。会場の空気が下がったかの様に感じられた。
「お前が金貨を手に入れる為にライズを犯人としてでっちあげた。そしてニーナもな。」
「そ、そうです!あなたが私利私欲の為にこの事件を丁稚あげたのです!」
シェリーもソーマに追随する。
「事件のあらましは聞いた。そこから推測するとお前は税金の集荷日に合わせてライズに野菜の運搬を依頼した。そしてライズが馴染みの兵士と雑談している間に調理場で物音を起こし、ライズ達を向かわせた後に金貨を盗んだ。調理場に居たのは料理長と聞いているがそいつも仲間なんだろ?それで料理長に盗ませて隠した。調理場の保存庫なら食材が沢山ある。そこに隠す事ぐらい何とでもなるさ。いくら兵士達が探しても調理場を管理している者なら誤魔化す事くらい容易いだろう。」
ソーマは得意げに己が推理を饒舌に話す。
「なるほど、即席にしては良く出来ている。それなら一応は可能だね。」
シーザーは余裕を崩さない。
「確かに料理長は現場にいた。ただ君の言っていることは全て憶測に過ぎないよ。まず、私が料理長とグルと言う事、まぁこれはいい。だが肝心の金貨の袋は何処だい?それが無くては憶測の域は出ないね。」
(余裕かましやがって、まぁそうしていられるのも今の内だ。)
「確かに金貨の場所は分かっていない。料理長との関係も証明出来ない。」
「なら・・・」
「だが!それに代わる証拠がある!」
「拝聴しようか。」
「お前、ライズの取り調べの時に何をした?」
「取り調べ?あぁ、審議かい?それなら容疑者がライズ君のみだったので法に則り尋問をしたよ。尋問したハッカ隊長が証明してくれるよ。そうだね?」
「はッ!確かに私はシーザー様のご命令でライズを尋問致しました!その際の自供を音玉に記録しました!」
「それだ!」
「ソレとは?」
ソーマの指摘にシーザーは動じないがハッカは多少の動揺が見て取れた。
「音玉だ!音玉に細工をしただろう。」
「何の根拠を持って言っているんだい?そもそも音玉は細工が出来る代物じゃない。記録を開始するのと停止するしか出来ないのだよ。」
シーザーが説明するとソーマは音玉を要求した。
「ならそれをここで聞かせてくれよ。」
「・・・いいだろう。」
シーザーは思う所があるのか少し迷った後に許可を出し、兵士に音玉を持って来させた。
「これが当時の自供を記録した音玉だ。」
シーザーは音玉に魔力を流すと水が滴る音がしてから声が流れた。
『ライズ君、君の証言をこの音玉に覚えさせよう。間違えがあっては困るからね。』
『はぁ、まぁそうおっしゃるのなら。』
『よし、では始めようか。』
『まず5日前に役場の帳簿係が今季の税収を集計した後に金庫へそれを入れた。そして翌日に金庫室の裏手から王城へ運ぶ馬車へ乗せる途中で君が輸送していた兵士へ声を掛けた。』
『確かに私は裏手で当日に収穫した野菜を厨房へ搬入するために裏口へいました。』
『何故声を掛けたんだい?』
『何度も顔を合わせていましたし、ご苦労様ですと声を掛けに行ったんです。そしたら厨房ですごい音がしたので兵士様と一緒に見に行きました。すると厨房で大きな鍋が散乱していました。私が置いた野菜が崩れて鍋をひっくり返したのだと思い慌てて直そうとしたんです。そしたら鍋の中に包丁がまぎれていまして手を切ってしまったんです。』
『それから?』
『それを見た兵士様が「なおしておくから手当てして来い」と言ってくれたので井戸で傷を洗い戻って来ました。すると片付けも終わり兵士様にお礼を言って帰ろうとしたのですが。』
『兵士が金貨袋が二つ足りないと言った。』
『そうなんです。それで一緒に探したのですが見つからず、兵士様も「疑うわけではないが緊急事態だからすまない」といって私の持ち物と身体を調べました。』
『それは報告で聞いている。それで結局見つからずに兵士は報告へ行き君は帰ったと。』
『そうです!だから私ではありません。』
『しかしその後に君はもう一度厨房を訪れたと聞いたが?』
『そ、それは・・・』
『それはどうしたんだい?』
『厨房へ落とし物をしたと思ったのでそれを取りに。』
『何を取りに行ったんだい?』
『・・は・・・・の・・がみ・・を・・』
『もう一度言ってくれ。』
『ふくろを取りに・・・』
『ふくろ?なぜだね?』
『・・・実はニーナとは付き合っておりまして、その晩にプレゼントしようと思っていまして・・・』
『ふむ、しかし君は酒場に居たと言ってなかったかい?』
『で、ですからニーナと探しにに戻ったんです!』
『で、あったのかい?』
『えぇ、そして私は酒場に戻り朝まで酒を飲んでおりました!だからニーナが証明してくれます!』
『なるほど、君が金貨袋を盗んでいたと。その後は酒場でニーナ嬢と一緒だったと言うわけだね。』
『はい、そうです。』
『間違いないかい?』
『間違いないです。』
『よく話してくれたね。』
音玉から音が途切れた後少しの静寂が部屋を包んだ。そしてソーマが口を開いた。
「やはりおかしい。」
「何がだね?聞いてのとおりだと思うが?」
「色々と不自然なんだよ。何故ライズは急に自白した?仮に犯人だとしてもあっけないとは思わないか?」
「それは、彼が諦めて自供する事で罪を軽くしようと思ったのだろう。彼の供述通りにニーナ嬢が見つかれば減刑も考慮するからね。」
シーザーは淡々と答える。
「なら声の不自然さはどう説明する?」
「声?」
「あぁ、この録音された声には不自然さがある。ダビングして編集したかの様な感じだ。」
「ダビング?編集?どういう意味だい?」
勇者の言葉にシーザーは疑問を浮かべる。ただ、サバスだけは意味を理解しているのか視線を手元の資料からソーマに向ける。
「お前らはこの音玉をを二重起動させ言葉を繋いだな。言葉と言葉のつなぎに違和感があるんだよ!」
ソーマの発言に周囲がまたもやざわつく。
「その発想は無かったね。君は何者だい?」
「俺はただの冒険者だ。」
「そうかい?まるでどこか私たちの知らない遠い国の文化を感じるね。まぁ、その使い方が出来るか検証するとして、仮にそうだとしたらその偽装の元となった音玉は何処にあるのかな?」
シーザーは再び笑みを浮かべソーマに問う。
「そんなに知りたきゃ教えてやるよ。」
ソーマはそう言うと口角を釣り上げた
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ニヤニヤが止まりませんw
頑張ります!