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審議

 あいにくの天気だった。清々しい朝の空気とは正反対のじめじめした雨独特の空気と匂いが立ち込めていた。いつもは賑やかな朝市もこの天気のせいでまばらに人を見かける程度だった。そんな市場を黒いポンチョの様な雨具を来た二人が歩く。


「嫌な天気ですね。」


 2人の内一人が呟く。


「全くだ、悪い気分がもっと悪くなる。」


 もう片方の人も幾分機嫌が悪そうに答えた。


「早く終わらせてお風呂に入りたい気分ですね。ソーマ様。」


 シェリーは雨具の縁から顔を覗かせソーマを見る。


「そうだな、早い事終わらせて風呂のある宿でも探そう。ついでに最近の面倒も流せたらなぁ。」


 ソーマもシェリーを一瞥してから面倒臭い様子で言った。二人は先日領主シーザーとのいざこざの決着をつけるべく早朝に領主館へと向かっていた。


「呼び出すなら馬車でも出せよな。」

「一応、出頭ですからね。もてなすつもりはさらさらないのでしょう。」

「ったく、こっちは昨日遅くまで作業していたから眠いってのに。まぁ、元の原因は領主の奴だがな。・・・アレか?」


 2人が愚痴を言いながら歩いていると商業区を抜けた先の小高い丘の上に館の様な物が見えた。近づくにつれて館の詳細が見て取れた。


()()()()してんな。」

「館と言うか、拠点ですね。」


 館の周りを物々しい壁が覆っていた。高さは3メートルを超えるだろうか。2メートルくらいの腰壁に外側へ折られた鉄柵が生えていた。


「まるで刑務所だな。」

「刑務所ですか?」

「あぁ、俺の世界には犯罪者を収容する施設があってな。丁度こんな感じだ。」

「なるほど、あ!アレが入口ですかね。」


 シェリーが指を指すと石造りの門があった。その前には槍を持った兵士が2人、恐らく門番と思われる二人が雨の中佇んでいた。そうして二人は門の方へと向かうのだった。


「何用だ?」



 門番の一人がソーマに問う。


「そっちから来いって言ったんだろうが。」


 ソーマが不躾(ぶしつけ)に返す。


「なんだと?」


 門番が槍を構え警戒態勢を取ろうとした時、もう一人の門番がそれを止めた。


「やめろ、アレク。こいつ等は今から行われる審議の容疑者だ。」

「あぁ、言われた通りに来てやったぞ。バックス。」


 ソーマは止めた兵士の顔を見るなり先日であった騎士だと解り名を呼んだ。


「よく逃げずに来たな。」

「逃げるほどの事でもない。」

「アレク、こいつ等を裁きの間まで連れて行く。ここを頼んだ。」

「承知した。」

「付いてこい。」


 バックスはアレクに後を任せソーマたちを連れて行った。


「なぁ、あんたは何で領主に仕えているんだ。」


 バックスに連れられているソーマは不意にバックスに問う。しかし、バックスからの返事は無い。


「だんまりか。何かマズい事でも聞いたか?」


 するとバックスが言った。


「お前達は容疑者だ。必要な事以外は喋るなと命令されている。」

「そうか、しかしお前ほどの奴ならばもっと良い雇い主がいるだろうに。」

(ソーマ様?)

(バックスの態度にはどうも違和感を感じる。恐らくこいつは領主にあまり忠誠が無いと思う。だから揺さぶりをかける。)

(この人が寝返るかもですか?)

(もしかしたらな。)


 ソーマがバックスに話しかけている内に目的地に着いたようだ。


「着いたぞ。案内はここまでだ。後は中の者の指示に従え。」

「あぁ、またなバックス。」

「・・・」

「固い奴め。」


 ソーマはそう言って扉をくぐった。バタンと扉を閉めた後にバックスは呟いた。


「無事に済めばいいが。」


 ソーマが扉をくぐるとそこは周りを石で囲われた部屋だった。中には簡単な間仕切りと机があるだけの簡素な部屋だ。そして正面の扉の前に一人の女性兵士が立っていた。


「こちらへ。」


 女性が部屋の中央へ案内する。


「ここでは審議を始める前の身体検査を行います。これより先は一切の武器、魔法具の持ち込みを禁止します。それではそこの机に全て出して下さい。一時的に預かります。」

(やはりな。とりあえず、昨日用意したダミーを出してくれ。俺はちょっとしたい事がある。)

(分かりました。)


 するとソーマたちは武器や道具の類を机に出していく。


「その首のペンダントも改めさせてもらいます。」


 女兵士がソーマの首にかかっているペンダントにふれた。


「これはうちの家宝のペンダントだ。これだけは渡せない。」

「規則ですので。」


 ソーマがそういうと女兵士は淡々と告げた。


「いいか?仮にこれを渡したとしてもし何かあったらどうしてくれる?これは金銭に変えられない物だ。」

「もし破損があった場合は領主シーザーより金銭による保証が受けれます。その他の保証については直接交渉してください。」

「聞いてないのか?これは保証出来る物では無いと言ったんだ。」


 食ってかかるソーマにやはり女兵士は淡々と答える。


「規則ですので。規則上の許可出来る物でしたら所持を認めます。あと、私にはこの規則を改変する権限は与えられていないので何を言われても出来ません。」

(役所仕事しやがって。)

(役所?)

(いや、いい。とりあえず予定通りで行くぞ。)


 ソーマは女兵士にペンダントを渡した。


「・・・」

「もういいだろう。」

「規則に(のっとり)りますので所持を許可します。そちらの方も同様にお願いします。」


 女兵士はペンダントをソーマに返しシェリーにも同様の事を求めた。


「それでは身体を改めさせていただきます。」


 女兵士はそう言うとソーマ、シェリーの身体を改めた。


「所持品の検査を終わります。それでは最後にこのアンクルを装着して下さい。」

「これは?」

「これは魔法を封じるアンクルになります。」

「規則で・・・」

「わかった。規則なんだろう?

 ソーマは女兵士が言い切る前に言葉をかぶせる。


(シェリー、これがそうか?)

(恐らくは。)


 ソーマが確認するとシェリーは頷いた。


「それでは準備が整いましたのでこれより入廷します。」

「ちょっと待ってくれ。」


 女兵士が裁きの間へ案内しようとするとソーマが引き止めた。


「どうしましたか?」

「審議の前に(トイレ)を済ませたい。」

「わかりました。こちらです。」


 女兵士はソーマを便所へ案内した。


(シェリー、ここに本物を置いておく。お前も後で来い。ダミーは指輪の収納へ隠せ。)

(わかりました。)

「あのう、私もいいですか?」

「許可します。」


 ソーマたちは(装備の入れ替え)を済ませ、女兵士に連れられ部屋を後にした。



「容疑者ソーマ、並びにシェリーを連れてまいりました。」


 女兵士がそういうと頑丈なつくりの扉の前にいた兵士たちは扉を開けた。


「入廷を許可する。」


 大扉をくぐるとそこはパーティーホールの様な大きさの部屋で正面に1段高い教壇の様な物が置いてあった。


「まるで裁判所だな。まぁ、審議の間って言うからにはその通りか。」


 ソーマが辺りを見渡していると奥の扉より数人の男女が入って来た。すると最後に入って来た執事服の男が告げた。


「これより領主シーザーが入廷します。」


 男が宣言すると同じく奥の扉よりシーザーが現れ正面の高台へ立った。


「やぁ、君が容疑者のソーマ君だね。」


 シーザーがソーマへ笑みを浮かばせ言った。すると。


「よう、お前が碌でも無い領主だな。」


 ソーマも口角を釣り上げシーザーへ言うのだった。


今回も読んで下さりありがとうございます。

そして!またもブックマークありがとうございます!次回からいよいよ直接対決が始まります!

が、ストックが切れたので少し間が空きますもう少しお待ちください(-_-;)

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