会合②
バックスはギルドを出た後、その足でシーザーに報告をしに向かった。
「失礼します。」
「やぁ、バックス。ご苦労様。首尾はどうだい?」
執務室には机に座るシーザーとその横にサバスがいるだけだった。
「はっ!問題を起こしていた者と接触出来ました。その男はソーマと名乗っており、仲間と思わしきエルフと一緒にギルドに居ましたのでシーザー様のご命令通り明日出頭するようにと申し付けました。」
「ありがとう。よくやってくれた。そのソーマと言う男の目的は分かったかい?」
シーザーは手元の書類に目を通しながらバックスに問う。
「いえ、男の目的は定かではありませんがどうやら村にて我が兵と戦闘したのはこの男とエルフの娘で間違いないようです。」
「そうかい。おっと、サバス。この書類は数字が少しおかしく思うがどうだい?」
シーザーはそう言うと手元の書類をサバスに見せ問題を指摘します。
「・・・確かに。失礼しました。すぐに確認を取ります。」
「いや、急がなくてもいい。」
シーザーはそう言うとまた手元の書類に目を戻した。
「それで、明日だが・・・」
(おい、いつまでこの茶番を続けるつもりだ。)
(勇者の件が片付くまでです。)
「明日の予定ですが、朝から先ほどのソーマと言う男の審議、それに」
(マジかよ!俺もう疲れたぜ!)
「昼はジャーミン商会の会頭と会食、昼からは領民の陳謝の聞き取りとなっております。」
(ってか、バックス。お前あのキャラはなんだよ!あんな事出来るのか?)
(仕方ないだろ。俺だってムズ痒いんだ!きっとアレクも笑ってるだろうな。)
(あぁ、さっきからあいつの爆笑がずっと聞こえてるぞ。)
「そうか、わかった。あと窃盗の件だが、バックス?」
(いやー、B君は役者ですね!思わず関心してしまいましたよ。)
「はっ!心得ております。」
(おかげで勇者を欺けそうですよ。)
(そういえばあいつはバックスに何をしたんだ?)
「ならいい。他言無用で頼むよ。」
(B君には風の精霊が取ついています。このせいでこの部屋の会話は全て勇者に丸聞こえですね。あ!坊ちゃまに移りましたね。)
(なんだと!)
(助かった!)
「サバス、この後の予定は?」
(しかし、流石勇者とその仲間ですね。見事に精霊が隠遁されています。あらかじめ知らなかったら気付なかったでしょうね。)
「この後の予定は特にありません。その書類を確認していただいたら本日の業務は終了となります。」
(クソ!せっかく仕事が終わったって言うのに!)
「わかった。バックスもご苦労だったね。シーザーはこのあと少し残ってくれ。」
「はっ!では失礼します。」
(んじゃ、俺は門番にもどりますかね。)
(私たちはこの場で少し勇者を誘導しておきます。)
バックスはシーザーの執務室を後にした。
(これから勇者に嘘の情報を流します。)
(お、おう?)
(適当に合わせて下さい。)
「シーザー様、ライズとニーナの件で報告がございます。」
「なんだい?」
「ライズが本日死亡しました。予定通り微量の毒を盛りましたので絶対にバレません。ニーナの死体は凍結させ館の冷凍庫に麻袋をかぶせじゃがいもに紛れさせていますが、明日の審議終了後にダンジョンに遺棄しますのでモンスターたちの餌となるでしょう。」
「そうか、抜かりないだろうね?」
「問題ありません。この事実を知るのは私とシーザー様のみです。」
「そううだね。あと、まぎれさせているじゃがいもは食卓に出さないでくれよ?」
「もちろんですとも。こちちらは冒険者ギルドにでも寄付しておきます。」
「ハハッ!奴らも気の毒だなぁ!」
「快く協力しなかったので当然かと。」
「それで、明日の審議はどうするんだい?」
「どうするも何も何も起きません。そうでしょう?」
「あぁ、ただ奴らは我々の邪魔をしたんだ。適当にでっちあげて奴隷送りにでもしようか。」
「ご名案ですね。後は音玉の消去ですがこちらは3日後に来る魔導士に依頼しましょう。」
「そうだね。それまでは絶対に出してはいけないよ?」
「心得ております。」
「それで、ソレは今何処にあるんだい?」
「審議の間の右から4番目の柱の中にございます。」
「あぁ、あの隠し戸か。」
「えぇ、何かと便利よく使っております。」
「しかし、何者かが間違って開けたりしないかい?」
「装飾の花を二回左右の順に回すので大丈夫かと。知らなければ開けられません。」
「ならば問題ないね。わかった。もういいよ。業務に戻ってくれ。私は少し休む。」
「わかりました。それでは私は隣の私室に居ますのでなにかあればお呼び下さい。では失礼します。」
サバスはそう言うと優雅な所作で部屋を出て行った。
「さて、僕も少し休むか。」
シーザーはそういうとソファにもたれかかるのだった。
「なんて奴等だ。本当に外道だな。」
ソーマはシェリーと宿でシーザー達の様子を伺っていた。
「許せません!それにもうニーナさんは・・・」
シェリーはニーナの死を知りショックを受けていた。当の本人は子爵に売り飛ばされて死んでいた方が良かったかもしれない扱いを受けているのでいっそ死んでいた方が楽だっただろう。
「いや、まだ助かるかも知れない。」
「ですが、もう死んでいると・・・」
シェリーのは下を向き目を伏せた。
「俺達がダンジョンで見つけたお宝を忘れたのか?」
「あ!エリクサー!」
シェリーが思い出して叫ぶとソーマは懐から深紅の液体の入った小瓶を3本とりだした。
「エリクサーは身体に損傷が少なければ蘇生出来る。あいつらは冷凍したと言っていただろう?ならば可能性は十分にある。それに婆さんに絶対連れて帰るって約束したしな。」
「そうですね!三本ありますし、私たちの緊急用とニーナさん用で丁度です!それにしても綺麗な深紅ですね。吸い込まれそうです。」
「流石は伝説の霊薬と言った所だな。・・・明日は一応、用意しておけよ?」
「はい!」
「いや、やっぱり直前まで俺が持っておこう。」
「何故でしょうか?」
「明日は言わば敵の本陣だ。おそらく身体検査をされるだろう。それならば検査が終わるまで俺がアイテムボックスに入れて行けば取られる心配が無い。」
「なるほど!流石ソーマ様です!」
「いざとなったら瓶ごと投げつけろ。これならかけるだけで効果がでるからな。」
ソーマはそういうと小瓶をランプの光に当てながら眺める。
「そうだ、あと魔法が使えない可能性が高い。シェリーはそういう魔道具って知っているか?」
「魔封じの腕輪は確かに存在しますね。貴重ですから一般には出回りませんが、取り調べになると恐らくは。」
「やっぱりあるのか。まぁ、剣と魔法の世界だしな。よし、コレを使おう。」
ソーマは懐から小さな六角水晶を取り出した。
「これはいったい?水晶ですか?」
「これを握って魔法を唱えてみろ。そうだな、『ライト』でいいか。あ!詠唱はしろよ?」
シェリーは渡された水晶を握りながら言われた通り魔法を唱えた。
「『世界の光よ万物を照らせ、ライト!』」
短文詠唱を唱え『ライト』の呪文を唱えると「キン!」という音がなり魔法が発動しなかった。
「え?どうして?もしかしてこれって魔封じ?」
シェリ―が同様しているとソーマは手の方へ指をさした。
「中の水晶を見てみろ。」
シェリーは言われた通りに手の中の水晶を見る。すると透明だった水晶が白く濁っていた。
「わぁ!水晶が濁ってます!どうなっているんですか!?」
シェリーは驚きながらソーマに手の中の水晶を見せた。
「これはな。俺がシェリーと会う前に潜ったダンジョンで見つけたんだ。そこは魔法が使えないダンジョンなんだが天井にこいつが沢山あったんだ。」
「それってもしかして前に話してくれた・・・」
「そうだ、未発見だったダンジョンだ。そこから出た先の森だったな半べそのシェリーと会ったのは。」
「そこは禁忌の森ですからね!あの時は私だって仕方なく入ったんです!まぁ、ソーマ様と出会えたのは嬉しかったですけど・・・」
シェリーは出会いを思いだし耳をピコピコさせながら顔を赤くした。
「まぁ、そんなダンジョンで拾ったのがこれだ。どうやら魔法を吸収する効果があるらしい。少量なら身体に触れなければ効果はないがな。」
「という事はさっきの魔法はこれに?」
「そうだ、それだけならただの魔封じだが俺のユニークスキル『万物錬金』で改良した。『オープン』と唱えてみろ。魔法が発動するぞ。」
シェリーはまじまじと水晶を眺めてから唱えた。
「オープン」
すると水晶が砕けライトの魔法が放たれた。
「本当に出た!これは凄いですよ!これなら誰でも魔法が使えます!革命です!」
シェリーは大はしゃぎでソーマに迫る。
「ま、まてまて!これは俺にしか作れないんだ!それに一回こっきりなんだ!」
「それでもすごいですよ!けど、ソーマ様ならそのうち無制限で使える気がします!」
「いや、試したぞ?俺のスキルは何でも錬成出来るんだが、やはりルールはあるんだよ。石炭を金剛石には出来るが金には出来ない。」
「それって金にする意味無くないですか?金剛石の方が価値がありますよ?」
シェリーはキョトンとしながらソーマを見る。
「価値じゃないんだ。物質なら成分なんだが科学を説明するのが面倒だな。」
ソーマは頭をわしゃわしゃとかきながら言った。
「カガク?」
シェリーもさっぱりのようだ。
「要は小麦ならパンは錬成出来るが、小麦から肉は錬成出来ないって事だ。」
「なるほど!植物と動物ですもんね!」
「んんんんん!まぁもうそれでいいや。」
ソーマが諦めた様に呟いた。
「でもソーマ様は自分をいじっているじゃないですか?それは何故出来るんですか?」
シェリーがとんでも発言をした。
「言い方な!調整と言え!俺は自分の才能を錬成したんだよ。言い換えれば皆が才能も適正もあるんだ。」
「けど私は使えない魔法がありますよ?」
「それは個人の感覚の問題だ。ぶっちゃけ感覚さえ覚えれば誰でもどんな魔法でも使える。詠唱もいらないしな。」
「私もいじって下さい!」
シェリーがずいっとソーマに顔を近づけながら言った。
「無理だ。自分の事はよく分かるが人の事は良くわからないんだ。それに俺の国では人体錬成をすると鎧とかになっちまう怖い事が起きる。」
「何それ怖い!」
「まぁそこは気にするな。話がズレたがそういう訳でこの水晶に魔法を込めればいざという時にすぐに使えるわけだが、水晶の性能上開放には一回しか耐えられない。まぁ重ねて魔法は詰めれるが3つ以上は詰めるなよ?」
「詰めるとどうなるのですか?」
「火の初級魔法を4回詰めたらヒビが入った。それでビビって湖に投げたら干上がった。」
「魔法の乱用、ダメ!絶対!!」
「まぁ、用法容量を守ってくれれば便利なアイテムだ。」
「なるほど!でも使い捨てですよね?そんな大事な物使ってもいいんですか?」
ソーマはニヤリと笑うとアイテムボックスから100はある大量の水晶を取り出した。
「この中にはまだまだある。ざっとコレの20倍は作ったからな!一個めは大変だったが、残りは一発で出来たぞ。ついでに前の町で回復魔法を込めた水晶を指輪に加工してもらったんだ。これは常に持っておけよ。」
「!!はい!一生大事にします!」
シェリーは顔を真っ赤にして指輪を受け取った。
「ん?まぁ、大事にしてくれるのは嬉しいが有事の際にはちゃんと使うんだぞ?」
「そんな事したら砕けます!」
「使う為に作ったんだよ!」
「ワカリマシタ。」
「なんか腑に落ちないがまぁいい。さぁ、それじゃあ明日に備えて魔法を込めるぞ!」
「はい!」
2人はそうやって夜が更けるまで水晶に魔法を込め続けるのだった。
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