(掌編)いちねん花
君が涙をこぼす。
「遅かったのよ」
君が心を閉ざす。
「なにもかもが」
ちょっとした偶然、お互いのパートナーとはぐれた観光地。
とても混雑していた、はじき出されたように二人は群衆から出て
そして顔を合わせた。
距離が近く、ちょっと照れた僕に、はにかむ君。
ぎこちない挨拶から始まり、意外なほど話をした。
春の始まり。
時々、連絡をとりあった。お互いパートナーの事は触れずに。
そしてお互い、気持ちが分かってきた時に決まった。
君の結婚。
もう一年経ったんだね。時間が分からなかった。
でも、パートナーには気持ちの変化はよく分かったみたい。
相手に罪はない。結婚を断る理由も。止める理由も。
君が涙をこぼす。
二人が出会った同じ場所。最後の日は明るい春の日。うららかな。
周りには色とりどりに咲く、たくさんの花たち。
二人の心の底を知っているようにあでやかに。
君の心が見える。
「遅かったの。あなたにもっと早く逢えていればよかったの」
僕は覚えているだろう。沢山の花の中で咲き誇る君を。
遅くはなかった。ただ、少しだけ勇気がなかっただけさ。