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88 仲良し姉妹のこれから




 王都北区画、騎士団駐屯地の側に位置する、重犯罪者収監施設。

 石壁が剥き出しとなった薄暗い通路を、看守に先導されて、二人の少女が進む。

 鉄格子の扉をくぐり、石造りの螺旋階段を何度も下って、リノたちはようやく彼女の収監された独房に辿り着いた。


 牢の中に座ったフィアーは、二人の訪問者をチラリと見て、小さく笑う。


「何の用だ、龍殺し。気が変わって殺しにでも来たか?」


「そんなワケないでしょ。あんたの助命、けっこう大変だったんだから」


 王女誘拐、脱獄、騎士団との交戦。

 彼女の犯した罪は重く、本来ならば処刑となるところだったが、リノとランがレイドルク討伐の一端を担った功績を主張して助命を嘆願。

 結果、五十年の禁固に減刑された。


「礼は言わん。お前らが勝手にやったことだからな」


「わー可愛くない」


「その通り、ちょっとはリノにお礼を言うべき」


 脹れっ面を見せるアリエスを興味無さげに一瞥すると、彼女は床に敷かれた寝床に転がる。


「冷やかしに来ただけなら帰れ。敗残の私にお前たちと交わす言葉は何もない」


「そっ。まあいいよ、お城行くついでに顔見に来ただけだし。いこ、アリエスちゃん」


「う、うん……。本当にいいの? 一発くらい殴っといてもバチは当たらないと思う」


「いいのいいの。アレがフィアーなんだよ、きっと」


 突き放すような態度をとりつつ、彼女の見せた表情からは感謝の気持ちが読み取れた。

 色々と言葉にするよりも、心の中に恩義を抱き、決して忘れない。

 きっとそれが、彼女の生き方なのだろう。



 ▽▽



 収監施設を後にした二人は、その足で王城へ。

 リノとアリエスの訪問を知るや否や、番兵は快く城内へ引き入れてくれる。

 そのまま応接室に通され、待つこと十数分。

 メイドが扉を開き、入ってきたのは純白のドレスに身を包んだ小さな姫君。


「ランちゃんっ!」


「リノさん、アリエスさん。会いたかったです!」


 長いドレスのスカートをつまみ上げながら、リノに駆け寄るラン。

 リノも椅子から立ち上がり、両手を広げて彼女を抱きとめた。

 勢い良くリノの胸に飛び込んだランは、そのまま顔を埋めてすんすんと匂いを堪能する。


「えへへ、リノさんいい匂い……」


「ちょ、ちょっとランちゃん、もうっ」


 苦笑いしつつ、甘えてくる幼い恋人の頭を撫でる。

 こうなってしまっては王女の威厳も何もない、年相応の恋する少女だ。


「……むぅ、ランってば」


「あっ、アリエスちゃん……」


 不満げな声に目を向ければ、リノに甘えるランを見つめて頬を膨らませるアリエスの姿。

 やきもちを焼かせてしまったのか、と思いきや、


「なんでリノばっかり。もしかして姉離れしちゃった? お姉ちゃんは悲しい」


 リノにだけ懐くランの態度を嘆いていたらしい。


「もちろんお姉ちゃんも大好きですっ。ぎゅーっ」


「ぎゅー。愛しい我が妹、会いたかった」


 仲むつまじく、ひしと抱き合う二人にリノは一安心。

 アリエスとランが自分のせいで険悪になってしまったら、みんなを恋人にした自分の決断を間違いなく悔やんだところだ。


「えへへ、やっぱり二人、仲良いよね。本当の姉妹みたい」


「そう、私とランはソウルシスター。久々にお姉ちゃんが髪をかしてあげる」


「髪の手入れもいいですけど、まずは色々と話がしたいですっ」


「了解。なら——」


 応接用の大きなソファー。

 横幅は広く、五人までなら楽に座れるほど。

 その真ん中にリノが座らされ、左右にランとアリエスがもたれかかって密着した。


「……あのぉ」


「これで落ち着いて話が出来る。さすが私、ナイスアイデア」


「さすがです、アリエスさんっ。えへへ、リノさんあったかい」


『さすがだねぇ色女。美少女二人もはべらせちゃって、このこの』


「あんたは黙ってて。えっと……、まあいいか」


 両腕を抱きしめられ、柔らかい体が左右から押し付けられる。

 当然ながら悪い気はしないので、この体勢で良しとした。


「ところでランちゃん、来るの遅かったけど、やっぱり忙しかったのかな。ごめんね、突然来ちゃって」


「リノさんならいつ来ても歓迎します! 遅れたのは、ちょっと社交ダンスの練習をしてて……。講師のおばさ……じゃなかった、お姉さまがとっても厳しいんですよ」


「あはは……、大変そうだね……」


「大変です。でも、弱音ばっかり吐いていられません。立派な王女になるために、学ばなきゃいけないことは山積みですから」


 リノの腕をぎゅっと抱き寄せながら、健気に笑みを浮かべるラン。

 彼女の頭を撫でてやりたかったが、残念ながら両腕共に封じられている。


「そっか、頑張ってるんだね。無理だけはしないようにしてね」


「はいっ。だから挫けたりしないように、こうしてわたしに会いにきてくださいね?」


「その通り。ランのためにこまめに会いにいくべき。恋人なんだから」


「でも、アリエスちゃんはそれでいいの?」


「構わない。私はリノと同じ屋根の下に住んでいるから、いつでもリノと一緒。そしてランは私の可愛い妹分。だから私は全然平気」


 そう言いつつも、アリエスはリノの腕をぎゅっと抱きしめてくる。

 表情を読み取る限り今のセリフは全て本音のようだが、複雑な想いは抱えているようだ。


「ということで、今日は三人でイチャイチャする。あと今日は泊まってく。いいでしょ、ラン」


「き、急だね、アリエスちゃん。ランちゃん、こんな突然泊まっちゃっていいの?」


「平気ですよ? お部屋は使いきれないくらいいっぱいありますし、リノさんたちならお城のみんなも大歓迎です」


「そっか、なら遠慮なく泊まっちゃうね」


「はいっ、えへへ、今日は一緒に寝ましょうね、リノさんっ。ちゅっ」


 ランはいたずらっぽい笑みを浮かべ、大胆にもリノの頬に口づけをする。


「ひゃっ、ちょっとランちゃん!?」


「ランずるい。私もリノと一緒に寝る。そして私もちゅってする」


 妹に対抗心を燃やしたのか、アリエスもランとは反対側の頬にキス。


「じゃあわたしはもっともっとします。リノさんっ、ちゅっ、ちゅ……っ、んちゅ……」


「姉の意地。負けるわけにはいかない。リノっ、ちゅっ……ちゅ、ちゅ……っ」


「待って待って、二人とも待ってぇっ」


 両サイドから熱烈なキスの雨を降らされるリノ。

 二人の猛烈な愛情表現は、この日の夜、二人が寝付くまで続いたという。




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