表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/93

79 魔法少女、スキルの謎に迫る




「レイドルクの魔力が、アリエスさんの魔力と同じ? それって一体……」


 フレイムランスは確かにレイドルクの右手から放たれた。

 一見すると、アレはレイドルクの使用した魔法。

 だが、アリエスには一つの確信があった。


「さっきのはアイツの魔法じゃない。間違いなく、あの日私がヤツに放ったフレイムランス」


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。何を言っているのか、さっぱり分かりませんわ。あのフレイムランスは、確かにレイドルクの手から……」


「うん、だから確証は持てないけど、もしかしたら」


 もしかしたら、レイドルクのスキルは——。

 その仮説を証明するため、アリエスは死闘を繰り広げるリノを見守りながら、じっと目を凝らし続ける。



 燃え盛る炎の刃が、敵の仕込杖を溶解しにかかる。

 当然敵は、鍔迫り合いに応じない。

 横薙ぎ、逆袈裟、打ち下ろしと、リノが次々繰り出す攻撃を、ひらりひらりと躍るようなステップでかわしていく。


「ほらほら、どうしたのですか? その程度の攻撃で私を殺せるとでも?」


「抜かせッ!」


 炎の武器破壊に見切りを付け、氷の魔力に変更。

 渦巻く冷気を刀身に纏って回転、リノの周囲数メートルに猛吹雪が吹き荒れる。

 だが、敵は咄嗟の垂直跳躍で上空高く範囲外へと逃れた。


 リノは怯まず風の魔力を発動。

 剣を振るって上昇気流を発生させ、敵を追って天高く飛び上がる。

 レイドルクの頭上を取った瞬間、くるりと一回転しながら、地面に曲刀を向けて土の魔法剣を発動。

 魔力で生み出した土塊に瓦礫を上乗せし、空中で身動きの取れない敵を目がけ、重量に任せて振り下ろす。


 ドガアアアァァァァッ!!


 脳天に超重量の一撃を叩き込まれ、レイドルクは真っ逆さまに墜落。

 土魔法を解除しつつ着地し、もうもうと立ち込める土煙を睨むリノ。

 敵の気配と殺気は、いささかも衰えを見せていない。


「ふっ、ふふっ、今のは効きました。ちょっとだけ痛かったですよ」


 土煙の中から姿を見せたレイドルク。

 外見から判断した彼のダメージは、少々のかすり傷が付いた程度。

 予想通りの結果に、ライナが軽く舌打ちをした。


「相変わらずだねぇ、そのしぶとさ。ゴキブリ並だよ、ホント」


「お褒めにあずかり光栄です」



 圧倒的な二人の戦い。

 レイドルクのスキルを確かめようにも、アリエスの実力では細かい動きにまで目が追い付かない。


「このまま見てるだけなんて……。ミカ、何か良いアイデアない?」


「アイデアですか。正直なところ見当も……、ん……?」


 考えを巡らせながら周囲を観察する中で、ミカは奇妙なものを目にした。


「どうした、何か閃いたの? 聞いてあげるから言ってみて」


「閃いたわけじゃないのですけれど……、あれ、ご覧になってくださいまし」


 彼女が指さした先にあるのは、首から上を失ったフィアーの胴体。

 首からは絶え間なく血が流れ、凄惨な有様となっている。


「……フィアーの死体があるけど。あれがどうかした?」


「死体がある、それ自体がおかしいんですの。龍人が死ねばすぐに腐敗が始まって、あっという間に風化するはず」


「そっか。つまり……、アンフィスバエナの再生能力が、核を潰さない限り死なない特性が、人間形態でもわずかに機能している?」


「とにかく、彼女はきっと生きてますの。回復させれば、レイドルクのスキルについても聞き出せるかもしれませんわ」


 回復魔法を使えるガブリエラは、ランの警護のために遠く離れている。

 まずはミカが、自分にブーストとクイックを発動。

 筋力と素早さを上げ、フィアーの体へと駆け出した。


「レイドルクは……、リノさんが押さえてくれてますわね」


 ミカの目からは、何かが高速で動いている様子が何とか判別できる程度。

 敵がこちらの動きを察知しているか定かではないが、妨害の恐れはなさそうだ。

 フィアーの胴体を担ぎあげると、やはり鼓動と温もりを感じた。


「……奇妙な感じですが、やっぱり生きてますわね」


 予想は的中。

 強化された力と素早さで、すぐさまガブリエラの元へと走り抜ける。


「お姉さま、回復魔法をお願いしますわ!」


「ひゃっ! な、なんで死体なんて担いで……」


「いいから、この方に早く回復を!」



 風を巻き起こすと同時、魔法剣を炎に変更。

 炎が風に乗り、火炎旋風となってレイドルクを襲う。


「やれやれ、無駄だと言っているのに——」


 敵の姿がぶれ、次の瞬間にはリノの背後に。

 首筋を狙って振るわれる仕込杖の刃。

 すぐさま反転し、火炎の刀身で攻撃を受ける。

 仕込杖の薄い刃は溶解、敵は武器を失ったかに思えたが。


「まだ分からないのですかねぇ」


 溶けたはずの刃が元通りに。

 先ほどから、ずっとこの繰り返し。

 いくら武器を破壊しても、どういう訳かすぐに修復されてしまう。


「ライナ、コイツのスキルって一体なに!?」


『分かんないんだよ、それが。コイツとはずっと戦ってたけど、巧妙に隠してやがる』


「くくっ、ではそろそろ攻勢に転じますか。あっさりとやられないでくださいね」



 ガブリエラの回復魔法によって、フィアーの頭部は見る見る再生していく。

 完全に復元すると、彼女は意識を取り戻し、緑色の瞳をゆっくりと開いた。


「うっ……、私は……、生きているのか……?」


「良かった、意識を取り戻しましたのね」


「……そう、か。どうやら死に損なったみたいだな……」


 倒れた自分を見下ろすクルセイドの三人とアリエス、そしてラン。

 百メートルほど先には、神速の打ち合いを続ける主とリノの姿。

 状況を把握した彼女は、自嘲交じりのため息をついた。


「浸ってないで教えて。レイドルクのスキル、アレは一体なに」


「アリエスさん、容赦ありませんのね……」


「……言えん。知っているが、教える訳にはいかない。たとえ殺されかけたとしても、あの方への恩義は——」


「その恩義、真っ赤なニセモノです」


 彼女の言葉をランが遮る。

 あの時彼女は頭部を破壊されて、あの男が言い放った真実を聞いていない。

 伝えるのは自分の役目だ。

 それが一歩を踏み出すきっかけをくれた、彼女に対する恩義。


「あなたを襲った山賊は、レイドルクが仕向けたもの。あなたを龍人にするための、あの人の謀略だったんです」


「な、んだと……? そんな話、信じられる訳がないだろう!」


 当然、フィアーは反発する。

 そんなものはデタラメだ、口から出任せに決まっている、と。

 だが、ランの表情は嘘を言っているように思えない。

 周囲の人々も、みな。


「……嘘、ではないのだな」


「はい。あなたを殺したあと、はっきりとそう言いました。とんだ失敗作だって」


「いくら性根が腐っていても、あの時の恩義だけは本物。そう信じて従ってきたのだが、そうか。全部……、全部嘘だったんだな」


 彼女は全てを悟る。

 長い長い時間をレイドルクの側に仕えてきたゆえに、あの主は平然とそれをやる、そう確信してしまう。


「……分かった、教えよう。我が主、レイドルクのユニークスキル。それは——【収納】だ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ