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64 魔法少女は空を翔ける




 青色の首飾りの呪いをガブリエラに解析して貰うため、リノは城内を探し歩いていた。

 呪いの首飾りは手にぶら下げたまま。

 曰く、気味が悪いので収納したくないらしい。


「部屋にはいなかったね、ミカちゃんのお姉さん。どこにいるんだろ」


『さあねぇ。誰かに聞くっきゃないんじゃない? たとえば、そこを歩いてるあんたの嫁さんとか』


「嫁さんて。アリエスちゃんとはまだそんなんじゃ……」


『ふーん、まだ、ねぇ』


 前から歩いてきた、魔女帽に黒ローブ姿の色素の薄い少女。

 リノと目が合うと、その頬に赤みが差す。


「リノ。その首飾り、なに?」


「えっと……。王様に新装備貰ったんだけど、なんか呪いのアクセサリーが混ざっちゃっててさ。どんな呪いがかかってるのか気になるし、ガブリエラさんに調べて貰いたくて探してるの」


 ガブリエラは回復魔法と聖属性の魔法に長けたスキル【聖職者】の持ち主。

 彼女ならば呪いを解析、もしかしたら解除すら出来るかもしれない。


「そっか。なら私も一緒に探す」


「ありがと。助かるよ」


 ごく自然にアリエスの手を取り、握る。

 無自覚にやっているのか、意識されていないのか、様々なことがアリエスの頭を過ぎるが、やはり嬉しいものは嬉しい。

 リノの手を握り返し、二人並んで歩き始めた瞬間。


 バゴォォォッ……!


 城内に響き渡る、何かが破砕するような轟音。

 二人は顔を見合わせ、すぐに音の方へと駆けだした。



 ▽▽



 リムルが城内で暴れている間に、忍び込んだもう一人がフィアーを解放する。

 陽動作戦にまんまとハマった彼女たちを、リムルは嘲笑う。


「きゃはははっ、おっかしー。まんまと騙されてやんのー! かくれんぼはもうお終い。だってー! きゃははっ」


「ウリエ、お姉さま! 二人はすぐに地下牢へ!」


「それだとミカ姉が一人に……」


「わたくしは大丈夫! それよりも、敵を逃がしてはなりません! 早く!」


「お、おう! 姉貴も気をつけろよ!」


「無茶しないでねぇ」


 ミカの飛ばした指示で、二人はすぐさま地下牢へと向かう。

 龍人の少女は半笑いでその様子を見送った。


「ムダムダ、もう遅いって。さぁて、リムルちゃんも、そろそろさよならの時間だね。じゃあね、お姉ちゃんたち。楽しかったよー」


(おっと、リムルさん。大事なお仕事を忘れていますよ)


 その場から離脱しようとした時、脳内に直接聞こえてきた声は、レイドルクのテレパシーによる遠隔通信。

 レイドルクの血が入った龍人は、彼と距離を問わずに念波でのやりとりが可能だ。


(ランさんが龍人の力を完全に制御する兆しが出て来ました。これは由々しき事態。必ず彼女を攫ってくるのです)


(そ、そうだった! このままじゃ隠れ家の場所ばれちゃうね)


 龍人同士は見えない何かで繋がっており、互いの存在する場所が感覚的に理解できる。

 ランが龍人の力を完全にコントロール出来たなら、レイドルクたちの潜伏場所は筒抜けになってしまう。

 それこそが、昨夜フィアーがランをさらおうとした理由だった。


「よっし、よてーへんこー! それじゃあお姫様、一緒に来てもらおうかなー」


 リムルの体が変貌を開始する。

 漆黒の鱗がその身を包み、服の背中を突き破って二つの翼が出現。

 幼さの残る顔も鱗に覆われ、口には牙が生えそろった。


「リムルちゃんと一緒に、お空のお散歩楽しもう? キャハハッ」


「みすみすやらせるとでも……!」


 敵の狙いはラン。

 ミカはすかさず彼女を背後に庇い、敵に立ちはだかるが。


「邪魔。もうお姉ちゃんに用は無いから」


「なっ……、あぅっ!」


 龍人となったリムルの速度とパワーは、ミカを大きく上回っていた。

 裏拳の一撃で吹き飛ばされ、先ほどのお返しとばかりに壁へと叩きつけられる。


「あ、いっけなーい。もう一匹いたっけ」


「ひっ、ひぃっ!」


 この場に脱獄の報を伝えに来た伝令兵に、リムルはゆっくりと向き直った。

 恐怖を煽るためか、彼女はわざとゆっくり近付いていく。


「可愛い可愛いリムルちゃんの血肉になれるなんて、お兄さん幸せ者だゾ☆」


「たっ、助けっ……」


「やめてっ! その人まで殺さないで!」


「キャハっ、優しいお姫様っ。でも、だーめ♪」


「……このぉぉっ!!」


 龍の力が宿った右腕で、ランは殴りかかった。

 かつてラーガの巨体を殴り飛ばした拳は、しかしあっさりと受け止められ、あまりの力にピクリとも動かせなくなる。


「こんなへなへなパンチ、効くわけないじゃん。ウケるーっ。それでは、いっただきまーす」


「ひ、ひぃぃぃぃっ!」


 バクンっ、ゴキゴキ、ゴリッ、クッチャクッチャ……。


 口を極限まで開いて頭からかぶり付き、噛み砕き飲み込んでいく。

 足の先まで全てを喰らい、口元を滴る血を満足気に拭う。


「あー、美味しかった。さっ、行きましょ?」


「た、助けっ、リノさっ——」


 叫びも虚しく、ランは鳩尾に一撃を受けて意識を刈り取られた。



 ▽▽



「リノさっ——」


「ランちゃんッ!」


 ランの叫びを遠く耳にしたリノ。

 アリエスと共に全速力で廊下を走り抜け、中庭側の壁が崩壊した場所へと辿り着く。

 そこには既にランの姿は無く、大量の血痕と、壁にもたれかかったミカがいるだけ。


「ミカちゃん、怪我は無い? ランちゃんは?」


「げほっ……。ランさんは、あそこ……。龍人に、攫われましたわ……。ごめんなさい、守れなくて……」


 震える指で空を指さすミカ。

 その先に、翼を広げた黒い影がランを小脇に抱え、悠々と飛び去る様が見える。


「……大丈夫、私とアリエスちゃんで、絶対取り戻すから。行くよ、アリエスちゃん」


「りょーかい。リノ、後ろに乗って」


 スターブルームを浮かせ、足を揃えて飛び乗ったアリエス。

 彼女の後ろにリノが乗り、二人を乗せた魔法の箒は敵を追って急発進する。


「ランちゃん! 今助けるから!」


 ぐったりとしたランに大声で呼びかけるも、意識を失っているらしく返事は無い。

 代わりにリムルが背後を振り返って、面倒そうに顔を歪めた。


「げっ、龍殺しが追ってきてるじゃん。逃げ切れないよね、やっぱり。リムルの本気の本気でやるしかないかー」


 王都の上空を飛翔しながら、半龍半人のリムルの身体は更なる変貌を始める。

 140センチほどの小柄な体が肥大化し、筋肉質の十メートル大の巨体へと変わる。

 細く長い尻尾、両翼共に十メートルを越える巨大な翼、細長い手足を折り畳み、流線形の飛行に特化した姿。


 空戦特化型ドラゴン、リントブルム。

 それがリムルの龍化形態だった。


「ドラゴンに変わった。リノ、どうする?」


「どうもこうも、やるしかないでしょ。ライナ、アレ行くよ!」


『おう、完全同調だね!』


「えっ何それ」


『あたしが考えた。カッコいいだろ』


「いや、別に……。と、とにかく行くよ!」


 首飾りを握りしめ、リノは【収納】を発動した。

 精神を入れ替えるのではなく、精神を身体に保ったまま、ライナの意識を迎え入れる。

 収納を使ってアイテムを取り出す要領で、ライナの魂を取り出し、自らの脳内領域に収納する。


 龍殺しの力がリノの体に満ち、ブラウンの光彩が青と赤に変化。

 収納で取り出した真新しい曲刀を抜き放ち、翼龍リントブルムを睨み据える。


「『……よし、飛ばしていくよ!」』


「おー」


 龍人の存在への不安に苛まれる王都の住民が空を見上げ、翼龍の姿に度肝を抜かれる。

 昼下がりの王都上空にて、空中戦がその幕を開けた。




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