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63 潜影少女は嘲笑う




「はぁい、改めましてこんにちは! わたしはリムル、よろしくね!」


 ミカの影から抜け出し、ウインクを投げつける桃色髪の少女。

 手練れの龍人の、城内への侵入を許してしまった。

 ミカは即座に背負ったメイスを引き抜き、敵の脳天目がけて振り下ろす。


「おっと、あっぶなーい」


 だがすぐに少女は影の中に潜り、ミカの打撃は床にヒビを作るに留まる。


「こいつ、影の中を自在に……!」


「【シャドウ】のユニークスキルだな。パッシブが何かにもよるけど、かなり厄介だぜ」


「探知する方法でもあれば、いいんだけどねぇ……」


 三姉妹は直ちに背中を預け合い、背後の死角をなくす。

 今最も恐れるべきは、背後からの奇襲。

 それを封じたことで、敵は一旦攻め手を止めざるを得ない。


「ランさん、あなた何故さっき、敵がいるって分かりましたの?」


「え? な、何となく……?」


「今はどうだ? どこにいるか、わかんねぇか」


「ごめんなさい、全然、分かんないです……」


 現在彼女たちがいる廊下には窓が無く、壁にかけられたランプの明かりが照明となっている。

 加えて美術品のツボや鎧などが作り出す影が無数に存在、隠れる場所に困ることはない。


「影に潜み、影の中を移動して、姿をくらます【シャドウ】のスキル。厄介な敵ですわね……!」


「ひとまずぅ、明るいところに走ればいいんじゃないかしらぁ。お日様サンサンなお外に出るとかぁ」


「それだ! さっすが冴えてるぜ、ガブ姉! 姫さんも付いてきな」


「は、はいっ」


 王宮の外を目指し、走り出した四人。

 薄暗い場所を抜け、窓が連なる日当たりの良い廊下まで出たところで、巡回する兵士と出くわす。


「おや? 姫様、そんなに急がれて如何なされましたか」


「た、大変なんです! 敵が、龍人が城の中に、影に潜んで!」


 のほほんとしていた兵士が、事の重大性を知るや愕然とする。


「なんと……! 直ちに報せに行き——ごぽっ」


 そして、彼は首から鮮血を噴き出し、仰向けに倒れ伏した。

 唐突に訪れた凄惨な光景に、口から飛び出しそうになった悲鳴を辛うじて堪える。

 兵士の首を背後から掻っ切ったのは、当然彼女。

 痙攣する兵士の顔面を踏みつけつつ、リムルは頬を軽く膨らませる。


「ちょっとちょっと、つまんないこと考えないでよー。このままお城の中で、リムルとかくれんぼしてあそぼ? じゃないとお姉ちゃんたち放っておいて、城内無差別大虐殺始めちゃうよー?」


「うっ、おぇ……っ。げほっ……」


 名も知らぬ兵士の死に顔に、バーンドの最期を思い出し、涙が勝手に溢れてくる。

 鉄くさい血の臭いに、胃の中のものをブチ撒けそうになる。


「ランさん、お下がりになって! こいつ……、私たちを自分が不利な場所に行かせないために……」


「城の中全員、コイツの人質ってことかよ……!」


「あらら、どうすればぁ……」


 敵は再び影の中に潜り、姿をくらました。

 窓の外は中庭だが、もはや飛び出しても無意味。

 敵は四人を放り出し、嬉々として城内での虐殺を始めるだろう。


「わたしのせいだ……、わたしのせいでまた、人が死んじゃった……」


 頭を抱え、うずくまり、小刻みに震えるラン。

 余計なことを言わなければ、あの兵士は死ななかったかもしれないのに。


 壊れてしまいそうな心の中、浮かぶのはリノの顔。

 会いたい、今すぐ助けに来てほしい。


「……違う。こんな風に泣くために、わたしはお城に来たんじゃない」


 リノの家を出たのは、弱い自分と決別するためだったはず。

 バーンドが教えたかったのは、王族として命を背負う覚悟のはず。

 フィアーとの会話で、大事なのは心の強さだと学んだはず。

 あの月の下で、リノに勇気を分けて貰ったはず。


 涙を拭い、ランは立ち上がる。

 そして、ずっと目を逸らし続けてきた部分を、抑え続けてきた龍人の力を解放した。

 右腕の先から右肩、首の下にかけてまでが、緑色の鱗に覆われる。


「さっき居場所が分かったのは……、きっと龍人の力のおかげ……! 龍人同士は繋がっているから……」


 暴走しそうな食人衝動を、心を強く持って抑え込み、影の中から敵の位置を割り出そうとする。

 ランの決死の覚悟を目の当たりにし、ミカは姉妹に指示を出した。


「お姉さま、わたくしたちの背後を見張ってて! ウリエ、わたくしがクイックをかけますわ。ランが指示したところに、思いっきりハンマーを叩きつけて!」


「分かったわぁ」


「合点承知! あたいに任せとけ!」


 死角をガブリエラに見張らせ、パーティーのアタッカーであるウリエを補助魔法で強化。

 準備が整ったところで、ランが窓側の壁を指さし、叫ぶ。


「そこです! そこにいます!」


「おっしゃ!」


 瞬間、飛び出したウリエ。

 増強された素早さによって、その場所へと目にも留まらぬ速さで到達。

 体を一回転させながら、鉄塊の如きハンマーを全力で叩きつけた。


 バゴォォォッ……!


 壁が粉々に砕け、隠れ潜んでいた影は壁ごと消滅。

 炙りだされたリムルに目がけ、ウリエはもう一発、ハンマーを追加で叩き込んだ。


「いっ……たああぁぁぁっ!!」


 強烈な殴打を受けた龍人の少女。

 回転しながら吹き飛び、廊下の壁に叩きつけられ、体をめり込ませながら血反吐を吐き出した。


「がはっ、げほげほっ……。……もう、いったいなぁ……。か弱い女の子に、ヒドいコトしちゃダメだゾ?」


 しかし彼女は未だ戦闘不能には程遠い。

 ウィンクしつつ人差し指を振る敵を前に、ウリエは軽く舌打ち。


「ちっ。わりぃ、仕留められなかった。浅かったみてえだ」


「上出来ですわ、ウリエ。それとランさん、頑張りましたわね」


「は、はい……っ」


 荒れ狂う衝動を抑え込み、なんとか正気を保つことに成功したラン。

 額の汗を拭いつつ、ミカに笑い返した。


「さぁ、かくれんぼはもうお終い! その手品、わたくしたちには2度と通じませんことよ!」


 影への潜行を破られ、多勢に無勢。

 追い詰められたこの状況にも関わらず、リムルは余裕の笑みを崩さない。


「はぁ、まいったなぁ。これじゃあシャドウハイド、もう使えないじゃん。でもま、十分時間は稼げたかな」


「時間稼ぎ……? どういう——」


 ミカが疑問を抱いた瞬間、城内を駆け回る伝令兵がその答えを持ってきた。


「た、大変です! 捕らえていた龍人が脱走しました……うぉっ、なんですこの状況は!?」


「脱走って、まさか……!」


「そ。わたしが城内で暴れて目を引いてる間、一緒に来た本命の子が、フィアーちゃん救出に動いてたってワケ。キャハハッ、無駄な努力ごくろーさまーっ♪」




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