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59 龍殺少女は龍殺しを宿す




 それは絶対にあり得ない事態。

 一人の人間にスキルは二つまで。

 長い歴史の中、例外はただの一人としていない。


「馬鹿な……! 四つのスキルを使うなど、一人の人間に出来るはずが……」


「そうだね、一人じゃ出来ないよ。だけど、私たちは一人じゃない。二人だ!」


 風を纏って加速し、狼狽する敵の眼前に躍り出る。

 鋭い斬り上げがフィアーの体を掠め、ローブと仮面を引き裂いた。

 縦に両断された仮面がカラン、と落ち、隠された素顔が露わになる。


「女の、子?」


 そこにいたのは、長く青い髪の少女。

 素顔を見られてしまったこと以上に、リノの意外そうな反応に対してフィアーは怒りを見せ、緑色の瞳を細めて睨みつける。


「……女ならば、どうだというのだ。戦士としての強さに、男だ女だと、関係はあるのか?」


「いや、ないけど。私も女だし。でも女の子か……、ちょっとやりにくくなったかも」


「なんだなんだ、可愛い女の子を見て口説きたくなっちゃったか?」


「違うから! っていうか私の口使って喋るな! 紛らわしい!」


 今のリノ達は、一つの体を二人で同時に動かしている状態。

 脳内会話も出来るものの、ライナが口を動かそうと思えば勝手に口が動く。

 二人のやり取りは、傍から見れば完全に一人芝居だった。


『……惑わされるな。アイツは龍人、これまで何人もの人を喰い殺した、人喰いの化け物だ』


「分かってるよ。たとえ女の子でも躊躇しない。絶対に倒す」


 静かに答え、曲刀を構えて低く姿勢を取る。

 闘志を漲らせるリノに対し、龍人の少女も半分になったナギナタを構え、二人は睨みあう。


「そうだ、それでいい。本気で潰しに来い。本気の相手を叩き潰す事こそ、戦士としての最高の喜び。そして、お前を殺す事こそ、レイドルク様に捧げる最大の忠義」


「忠義……? あのヘドロみたいなゴミクズ野郎に忠義なんて感じてるの?」


「何とでも言え。あのお方がいなければ、私は……。余計なお喋りはここまでだ」


 口にしかけた言葉を取り止めて、一気に間合いを詰めるフィアー。

 手槍のようになってしまったナギナタで鋭い突きの嵐を見舞うが、リノの回避の前には無力。

 全てを避けられた上に、柄を掴まれてしまい、


「収納ッ!」


「チッ……」


 残る武器も消失。

 丸腰となった無防備な敵の心臓を目がけ、風を纏った刃を突き出す。


『リノ、危ない!』


「え——」


 それは全く予想外の攻撃。

 視界の外、フィアーがかざした右手から、光の刃が伸びる。


 ライナの警告によって、寸前で攻撃されたと認識したリノ。

 【回避】によって体を捻った瞬間、黄金に輝く気の刃がギリギリのところで脇腹を掠め、腹部に赤い傷を走らせた。


「つっ……!」


 串刺しは免れたが、無理な回避の代償に大きく体勢を崩す。

 生じた隙を逃さず、振り下ろされる光の刃。

 リノは倒れ込みながら氷の魔法剣、フロストエッジを発動。

 分厚い氷の刃で、光の剣をなんとか受け止めた。


「これも防ぐか。中々良い腕をしている」


「そりゃどうも。褒めてもなんにも出ないけどねっ」


 仰向けに倒れながら、敵の腹部を目がけて蹴りを入れる。

 先ほどの意趣いしゅ返しのつもりだったが、キックは見事鳩尾にクリーンヒットし、フィアーは体をくの字に曲げて大きく吹き飛ぶ。


「助かった……。ライナ、アレなに?」


「あれはユニークスキル【オーラ】だね。自分の生命エネルギーを、様々な形に具現化出来るスキルさ」


「なるほど、厄介そう」


 跳ね起きたリノは、すかさず追撃に移行。

 吹き飛ぶ敵を追って駆け出し、着地の隙を狙う。


 ところが、フィアーは空中で身軽に反転。

 オーラで作り出した投げナイフを数本、投げ放った。

 回避が発動し、全ての攻撃はリノの背後、夜の闇に消えていくが、その間に敵は着地に成功。


「やるね、アンタ」


「お前もな。どうやら私も本気を出さねばならないらしい」


 静かに言い放ったフィアーの腕が、足が、赤い鱗に覆われていく。

 手の爪が鋭く伸び、整った顔も鱗に覆われ、緑色の瞳は黄色く変色。

 半龍半人の姿に変貌したフィアーに、ライナは嫌悪感を剥き出しにする。


「とうとう本性現しやがったね。鱗に覆われたその姿、醜いったらありゃしない」


「ライナ!!」


「……おっと、失言だった。すまないね、ラン」


「い、いえ……。醜いのは、事実ですから……」


 ライナの声は、後方で戦いを見守る女の耳にも届いていた。

 うつむきがちに答えるラン。

 傷ついているのが明らかな彼女とは対照的に、フィアーは眉の一つも動かさない。


「見てくれなど、強さに比べれば無価値だ。そんなもの、なんの役にも立ちはしない」


「おぅおぅ、言ってくれちゃうねぇ。ま、あんたのセリフも一理あるかもね」


「ライナ、勝手にペラペラ喋ってないで、戦闘に集中して。ホント、どっちが喋ってるのか紛らわしいから」


『はい』


 自分の口が勝手に動く感覚は、正直なところ気味が悪い。

 ライナがようやく黙ったところで、戦いは再開。

 曲刀に炎を纏ったリノ、オーラの長槍を手にしたフィアーが、激しく打ち合う。


 本来、鍔迫り合いに持ち込めば敵の武器を融解させられるフレイムエッジ。

 しかし、オーラでかたどられた槍は実体を持たない。

 炎では解けず、乱雑に扱っても刃こぼれせず、決して折れない。

 加えて龍人特有の怪力と、パッシブスキル【槍術】による長柄武器の強化。

 真正面からの打ち合いは、圧倒的にリノが不利だった。


「コイツ、やっぱり強い……!」


「当然だ。百年以上詰み重ねた研鑽、お前ら如きに越えられるか」


 豪力で力任せに叩きつけられる長槍。

 受け止める曲刀の刀身に、次第にヒビが走っていく。


「まずい、このままじゃ……」


 漏れ出た弱音。

 勝機を見たフィアーは、渾身の力でオーラの槍を振り下ろした。


 パキィィ……ッ!


 ここまで激戦を共にしてきた愛刀が限界を越え、真っ二つにへし折れる。


「そんな……っ!?」


「武器を失ったお前に、次の一撃を防ぐすべは無い」


 武器を失い、絶望の表情を浮かべながら無防備となったリノ。

 その心臓をオーラの長槍で貫くべく、穂先を向けて狙いを定める。


「終わりだ」


「『……さあ、それはどうかな?」』


「何……?」


 今までのは演技だと言わんばかりに、折れた曲刀を投げ捨て、不敵な笑みを浮かべるリノ(二人)

 半身の姿勢で刺突を回避しながら、自由になった右手を敵の肩口に押し当てる。


解放リリースッ!」


 ドシュッ!


「が……っ!?」


 リノの右腕から飛び出たのは、収納したナギナタの半分。

 その刃がフィアーの肩口を貫通し、背中側へと突き出した。


「しまった物はいつでも取り出せる。改めて便利だと思うよ、【収納】って」




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