48 龍殺少女の待ち合わせ ☆挿し絵あり
うほごりくん(https://twitter.com/uhogorikun88)様から挿し絵を戴きました。
ありがたく掲載させてもらいます。
感謝です!
アリエスの口から飛び出した衝撃的な発言に、ランの思考は数秒間停止。
その意味を理解すると同時に、
「はっ、ほっ、本気で言ってるんですかっ!!?」
聞いたこともない大声を張り上げた。
「しー。リノに聞こえちゃう。あの子に聞かれたらまずいでしょ」
「そ、それはそうですけど……。でもさすがに驚きますよ……」
アリエスと二人で、リノの恋人になる。
今まで考えも及ばなかった発想に、ランは戸惑うばかり。
「アリエスさんは、本当にそれでいいんですか?」
「構わない。ライナに言われてからずっと考えてた。色々と試してみて、ランがリノとくっ付いてても嫌な気持ちにならないって分かったから」
「あぁ、ライナさんの入れ知恵だったんですか……」
納得してしまうと同時に、アリエスの本気も伝わってきた。
一緒にいるうちに少しだけ見分けがつくようになった彼女の表情。
今のアリエスは至って真剣だ。
「お話は分かりました。でもいきなり過ぎて、よく考えが纏まらなくて……。そもそも、リノさんは納得するんですか?」
「納得させてみせる。近いうちデートに誘って、そこで持ちかけてみる。当然ランも一緒に」
「わ、わたしも一緒!? まだわたし、頷いてませんよ!?」
「大丈夫、信じてるから」
グッと親指を立てて、分かりにくいスマイルを浮かべる。
ランはそんなアリエスに見守られながら、じっくりと考える。
「三人で、恋人……」
アリエスのリノへの想いはとっくに察していた。
同じ相手を好きになってしまったことに、引け目を感じていたのも事実。
リノへの気持ちはもちろん諦めたくないし、アリエスのことも大好きだ。
「もう、こんなの決まってますよね」
返事はイエス。
頷いたランに、アリエスは静かに礼を告げた。
▽▽
三日後、王都中央公園広場。
噴水の前で、リノは待ち人二人を待っていた。
「……なんで一緒に住んでるのに待ち合わせ?」
ツッコミを入れるも、首飾りの中にいるはずの相棒は眠りについたまま。
虚しい独り言に終わる。
アリエスとランから持ちかけられた、三人で遊びに行く提案。
リノに断る理由などなく、依頼の入っていないこの日、王都のあちこちをあてもなく遊び歩くことに決まったのだが。
「先に出ててって、どういうことなんだろ……」
何故か一足先に家を出るように言われ、待ち合わせ場所として指定された噴水前で、リノは二人を待っていた。
「おーい、ライナ。そろそろ起きないかー」
宝石を指で軽く叩いてみても、何も声は帰ってこない。
ひどく手持無沙汰に思えてくる。
一人の時の話相手としても、彼女の存在は大きかったらしい。
「……お待たせ」
ローテンションな聞き慣れた声。
幼馴染のようやくの到着に、顔を上げたリノは思わず我が目を疑う。
「へ? あれ、ホントにアリエスちゃん……?」
「如何にも。私はアリエスだけど……」
いつも黒いローブに魔女帽を着たきりの彼女。
曰く常在戦場、いつでも戦闘に備える心構えとのこと。
ところが今、目の前にいる彼女の服装は、フリルをあしらった純白のブラウスにグレーのロングスカート。
リノ自身、こんな姿の彼女は初めて見る。
「あの、どうかな。やっぱり、似合ってない?」
無言で立ち尽くすリノに不安を感じ、上目づかいで問い掛けるアリエス。
「すっごく似合ってるよ! 可愛すぎてびっくりしちゃった」
「かわ……っ、そ、そう、よかった……」
不安げな表情から一転、顔を紅潮させてうつむいてしまった。
魔女帽で顔を隠そうとして、頭に何も被っていないことに気付く。
「あの……、見ないで……」
恥ずかしさに耐えきれず、とうとう後ろを向いてしまう。
そんないじらしい姿が、リノの中に眠る何かを目覚めさせた。
「こっち向いてよ、アリエスちゃん」
「嫌、恥ずかしい……。こんなの私じゃない、リノに見せたくない……」
「照れてる顔もすっごくかわいいよ。ね、恥ずかしがらずに見せて」
背後から抱きしめ、左の肩越しに顔を覗きこむ。
必死に目を逸らすアリエスの右頬に手を添えて、優しくこちらを向かせた。
潤んだ赤い瞳と紅潮した白い肌に、芽生えた何かはますます膨らんでいく。
「や、むり、本当に恥ずかしいから……」
「なんでそんなに恥ずかしがるの?」
「だって、いっぱい人が見てる」
「……あ」
その瞬間、リノの頭から一気に血の気が引いた。
辺りを見回せば、龍殺しの英雄である二人はしっかり注目を浴びている。
彼女たちの過剰な仲良しっぷりに目が釘付けになっていた周囲の人々。
リノが気付いた途端、彼らは気まずそうに視線を逸らした。
「ほら、恥ずかしい」
「うん、恥ずかしすぎるね……」
すぐさま体を離し、二人はそそくさと近場のベンチに腰掛けた。
その後しばらく続いた気まずい空気、リノはやけに大きめの声で沈黙を破る。
「と、ところでランちゃんはまだかなー!」
「一緒に家を出たし、もうすぐ来ると思うけど」
「一緒に出たのに別々に来たんだ。そもそもなんで、わざわざ待ち合わせ? 一緒に住んでるんだから、一緒に出れば楽なのに」
「デートといえば待ち合わせ。雰囲気作りも大事だと思って」
「これ、デートだったんだ」
落ち着きを取り戻した二人。
それからも会話を続け、十分ほど経った頃、鉄仮面を被った少女がようやく広場に姿を現した。
「お、ランちゃんやっと来た。おーい!」
ベンチから立ち上がり、大きく手を振るリノ。
二人に気付いたランが小走りでやって来るが、彼女は一人ではない。
すぐ後ろに中年の男が一人、従者のようにつき従っている。
「あ、あの、ごめんなさい、遅れてしまいました……。この人が、わたしに大事な話があるらしくて……」
「えっと、あなたは?」
身なりの良いその男、明らかに一般市人ではない。
王宮勤めの身分と見て間違いないだろう。
「私はバーンドと申す者。近衛騎士団の団長を務めております。龍殺しの英雄、リノ様ですね。お目にかかれて光栄です」
「き、騎士団長さんですか!? えっと、ご丁寧にどうも」
ペコリと頭を下げるリノ。
アリエスは警戒を維持したまま、じっと成り行きを観察する。
「それでランちゃん。騎士団長さんがわざわざ用事って、一体なんだったの?」
「わたしの顔を見せて欲しいみたいなんです。でも、リノさんがいないと鉄仮面外せないし……。なんとか納得してもらうのに、時間かかっちゃっいました」
「あー……」
龍人のことをぼかして説明するのは、口下手なランには大変だったろう。
あわあわしながら話す様子が、容易に想像できた。
「それで私のところに来て貰ったんだ」
「ご理解頂けましたならば。リノ様、早速鉄仮面を外して貰えますかな」
「分かりました。ランちゃん、良いよね」
「はい、問題ないです」
リノが鉄仮面を両手で抱え、持ち上げる。
露わになるランの金髪と、整った顔立ち、そして青い瞳。
サラサラのロングストレートが風になびき、リノは思わず目を奪われる。
「綺麗……。ランちゃん、やっぱり美人さんだね」
「は、恥ずかしいこと言わないでくださいぃ!」
「さすがリノ、容赦なくハートを撃ち抜いていく」
三人の少女のやり取りを尻目に、バーンドはランの顔を確認。
その容姿を見た彼は、深い喜びと懐かしさに胸を打たれた。
続いて、リノから受け取った鉄仮面の裏側に刻まれた紋章を確認。
「……はっきりしました。そのお顔、確かにあのお方に瓜二つ。そしてこの王家の紋章」
バーンドはランの前に片膝を付き、深くその頭を垂れる。
「あなた様は紛れもなく王家の血を引くお方。国王陛下の妹君、レイシア様の御息女に相違ありません」




