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44 一閃 託されたのは想いと力




 地響きを立てながら迫る暴龍。

 邪龍を上回る強敵、無策で勝てる相手ではない。


「皆さん、何か作戦は?」


「そうだね、首飾りの精霊さんを中心に組み立てるべきだと僕は思う」


「ライナならやれる。簡単にスパスパしてくれるはず」


 案の定、龍殺しの達人であるライナに期待が寄せられる。

 しかし、残念ながら。


「えっと、ライナはさっきの戦いで力を使い果たして……。いつ起きるのか、さっぱり分かりません」


「わあ、大ピンチ」


 ライナの強さをよく知っているアリエスは、無表情で青ざめた。


「む……、ではどうする……。奴はおそらく、邪龍よりも強いぞ……」


「……アリエスちゃんのアレなら、硬い防御も抜けるかも」


「アレって、私の燃費最悪な最強必殺技?」


「そう、アレ! 範囲を絞って威力を上げて、とかすれば、いけるんじゃないかな」


「……分かった、やってみる。準備するからそれまで時間稼いでね」


 箒に乗って高く飛び上がったアリエス。

 彼女は体中から魔力を結集し、集中力を高めながら詠唱を始める。


「世に満ち満ちる数多なる精霊よ、我の声に耳を傾け給え……」


「よし、じゃあオルゴさん! 私たちで時間稼ぎを!」


「む……、まるでリノがリーダーみたいだな……」


「あ、ごめんなさい」


「いや、気にするな……。むしろ頼もしく思う……。優勝おめでとう……!」


 ずっと遠くから背中を見つめるだけだった、あまりにも強すぎるパーティーメンバーたち。

 そんな彼らに認められ、肩を並べて共に戦える。

 こんな状況でなければ、飛び上がって喜んでいたところだが。


「……っ、ありがとうございます!」


 緩みそうになる顔を必死で引き締めて、レクスに向けて走り込んだ。

 大口を開けてリノを一飲みにしようとする暴龍。

 素早く側転を打ち、噛みつきを回避。

 カウンター気味にあごに斬撃を浴びせるが、効果は無し。


 続けざまに繰り出される、丸太のような太い尻尾の薙ぎ払い。

 リノが回避するより先に、オルゴが庇いに入る。


城塞結界フォートレスガード……!」


 重い尻尾の一撃を受け止められ、弾き飛ばされたレクスは、大きく体勢を崩した。

 ところがすぐさま体勢を立て直し、太い両足で踏ん張って低く跳躍。

 全体重をかけて結界の上に飛び乗り、踏みつぶしにかかる。


「ぐっ、くぅっ……!」


「オルゴさん! 今援護に——」


「俺の心配をするには……、まだ早いんじゃないか……っ?」


 ひび割れていく結界の中で、不敵に笑うオルゴ。

 次の瞬間、結界が弾け飛び、同時に蓄積されたエネルギーが衝撃波となって迸った。


 足元から浴びせられた衝撃に転倒し、隙を晒す暴龍。

 すかさず攻撃に転じるオルゴとリノに、ポートは後方から筋力強化の補助魔法を放つ。


「ブースト!」


 二人の体に力が漲り、オルゴは大斧を、リノは曲刀を、それぞれ叩き付けた。


 ガキイイィィィン!


 それでも二人の武器は、甲殻に傷一つ付けられない。

 刃を弾かれ、逆に隙を晒した二人。

 怒れる龍が立ち上がりながら尻尾を振り回し、反撃をしかける。

 リノは回避を発動、身を屈めて尻尾の下を掻い潜ったが、オルゴは真正面からの直撃を受けてしまった。


「オルゴさん!!」


 大質量の攻撃を叩きつけられ、吹き飛ばされるオルゴ。

 口の端から血を流しながらも倒れずに踏みとどまり、鋭い眼差しで暴龍を睨みつける。


「心配、無用だ……」


 起き上がったレクスは激しく足下を踏みつけ、武舞台を粉々に砕き始める。

 龍にとっては手頃な大きさに割れた塊。

 彼は尻尾を大きくスイングし、それらを飛ばしてきた。


「リノ、ポート、こっちに来い……!」


 彼の指示に従って駆け寄る二人。

 オルゴの張った城塞結界フォートレスガードが、飛来する舞台の破片からリノ達を守る。


「アリエスちゃんの準備は!?」


 上空高く浮遊するアリエスを見上げるリノ。

 彼女の詠唱は最終段階に入っていた。


「此に集いし炎精の御力に於いて、我が前の敵を討ち果たさん——」


 準備は完了。

 ポートに目配せを送ると、彼は結界から飛び出し、両手を龍に対して突き出す。


「グラビティバインド!」


 加重圧を受け、暴龍の足下が沈み込む。

 敵が動きを封じられたこの瞬間、アリエスは溜め込んだ魔力を一気に解放し、叩き付けた。


「燃え尽きろ。大火葬送グランクリメイション


 レクスの周囲に生じた、小さな炎の欠片。

 それは一瞬にして勢いを増し、龍の巨体を余さず包み込んだ。

 燃え盛る炎の勢いは衰えず、闘技場の上空高くまで雲を焦がすほどの巨大な火柱を吹き上げる。


 アリエスを天才たらしめる最強の火炎魔法、大火葬送グランクリメイション

 周囲百メートルを焼き尽くすほどの炎が、一匹の龍のみを焼き尽くす範囲にまで圧縮され、燃え盛る。


「も、もうだめ……」


 魔力を使い果たしたアリエスが、上空からふらふらと降りてきた。

 箒から降りて地面にへたりこんだ彼女に、リノが駆け寄る。


「もうショボい魔法も撃てない……。全部使い果たした……」


「お疲れ様、アリエスちゃん。ゆっくり休んでて」


「全部終わったし、そうさせてもら……う、そ」


 無表情の中にあった、安堵の表情。

 それが、一気に驚愕に変わった。


「え? アリエスちゃん、どうし——」


 振り向いたリノが見たもの。

 それは、渦巻く火柱の中から飛び出し、荒れ狂うタイラントレックスの姿。


「仕留め、られなかった……」


 全魔力を込めた大技は、龍の全身を黒く焦がし、大火傷を負わせた。

 確かに効いている、大ダメージだ。

 しかし、仕留めるには至らない。


「アギャアアアァァアァアァアァッ!!」


 全身に負った火傷の痛みが、暴龍の怒りに火を点けた。

 我を忘れて暴れ狂い、デタラメに尻尾を振り回す。

 リノたち三人はオルゴの結界によって守られたが、周囲に散らばった舞台の欠片が尻尾によって弾き飛ばされ、雨あられと観客席に降り注いだ。


 観客席は未だ、負傷者や救助に当たる冒険者たちで溢れている。

 冒険者たちが必死に負傷者を守るが、手が足りない。


 足を負傷して動けない、救助を待つ少女。

 瓦礫の中の一つが、狙い澄ましたように彼女に向かう。


「いけない!」


 咄嗟にグラビティバインドを掛け直すポート。

 暴龍の動きは一旦停止するが、オルゴもリノも瓦礫の破壊は間に合わない。


「いやああっ!!」


 叫びながらギュッと目を閉じる少女。


 ドガァッ!


「師匠、ぼさっとしてんなよ!」


 しかし、瓦礫は少女に届く前に、巨大なハンマーによって粉砕された。


「ふぃー、間に合った」


「もう大丈夫よ〜」


 瓦礫を破壊したのはウリエ。

 さらにガブリエラが、少女に回復魔法をかける。


「キミたち、どうして……! ぐっ、もうバインドが……!」


 タイラントレックスが相手では、十数秒攻撃を封じるのが精いっぱい。

 自由を取り戻しかけた暴龍は、しかし更なるバインドによって動きを封じられた。


「師匠ともあろう者が、情けないですわよ」


「ミカ……!」


「避難誘導が済んだので、心配になって戻ってきましたの。大正解でしたわね」


「……ああ、凄く頼もしい増援だ!」


 二重のグラビティバインドによって、レクスは完全にその動きを封じられ、もはや立つこともままならない。


「今だよ、リノ。行って」


「で、でも私じゃ……」


「リノならやれる。私は信じてる」


「……うん、分かった」


 自分を心から信じる幼馴染の眼差しに背中を押され、リノは曲刀を握りしめた。

 身動きの取れない暴龍の背中に飛び乗り、首まで駆け上がる。


「お願い、ライナ。少しだけでいい、私に——」


 左手で強く首飾りを握りしめる。

 彼女が託してくれた暖かな何かが、右手を伝って刃に宿った、そんな気がした。


 龍の首に到達したリノは、全ての思いを込めて刃を振り抜く。


「力を貸してっ!」


 ヒュパッ!!


 誰よりも、リノ自身が驚いただろう。


 彼女の振るったその一閃はいとも簡単に、まるでバターでも切るかのように、堅牢な甲殻を斬り裂いて、暴龍の首を刎ね飛ばした。




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