41 決勝戦 自分自身の敵討ち
武舞台上、長剣を手に佇む全身鎧の男。
軽やかに武舞台へと飛び乗ったリノは、殺意を込めて彼を睨みつけながら曲刀を抜き放った。
「いよいよクラン対抗戦も決勝戦を迎えました。こんな対戦カードになるなどと、一体誰が予想していたでしょうか」
波乱の幕切れとなった準決勝第二試合。
あの衝撃から三十分が過ぎ、場内も落ち着きを取り戻していた。
「Aブロックを勝ち抜いたのは、ランキング七十九位。クラン『ブルーム』! 予選を除き、リノ選手一人で全試合を勝ち上がってきました!」
司会の紹介と共に、リノに送られる声援。
しかし、今の彼女の耳にそれは届いていない。
ライナの感情と同調した今のリノは、目の前の龍人を殺すことしか頭に無かった。
「対するBブロックの勝者は、ランキング百三十六位、クラン『ジョン・ドゥ』! こちらもアハト選手がたった一人で、しかもあのオルゴ・ギャスドレイを下しての決勝進出です!」
アハトに送られる歓声は、リノよりもずっと小さい。
フォートレスの四連覇を阻んだヒールとしての扱いが強いためだろう。
観客席でリノを見守るアリエスとラン。
先ほどの彼女の表情が、二人の目に焼き付いて離れない。
「リノ、様子がおかしかった」
「リノさんがあんなに怖い顔をするなんて……。オルゴさんのこと、そんなに怒ってるんでしょうか……」
「怒ってるとか、そんな感じじゃなかった。もっとこう……、根深い感じだった」
「……リノさん」
不安を抱えながらも、彼女たちに出来るのは見守ることだけ。
二人の隣に座るクルセイドの三人も、不安げにリノを見つめていた。
「さあ、今審判が舞台上に上がりまして……」
舞台に上がった審判員が、手旗を高々と掲げる。
「さあ、今合図が出され、決勝戦がスタートしました!」
試合開始と同時、リノは猛然と突撃し、曲刀を鋭く振り抜く。
勢いを乗せた初撃を、アハト——レクスは片手持ちの剣で軽々と受け止めた。
「ようやく会えたな、ライノルード」
「私はリノ、ライナじゃない」
「そうか。ならば用はない、早くあいつに交代しろ」
「言われなくても。ライナだって今首飾りの中で、暴れたくてウズウズしてるしね。でもさ、その前に一言だけ言いたくって」
「……聞いてやる」
ヘルムの奥で光る黄色い瞳を睨みつけ、リノは吐き捨てる。
「私とオルゴさんの決勝戦を邪魔しやがって、くたばれクソ野郎」
鍔迫り合いを解除して背後へ飛び退き、間合いを放すと、リノは首飾りの宝石を左手で握りしめた。
「お待たせ、ライナ。思う存分やっちゃって」
意識が入れ代わり、リノの精神は宝石の中へ。
そして。
リノの肉体に宿ったライナが、両の口角を上げて獰猛な笑みを浮かべた。
「……よぉ。会いたくて会いたくてしかたなかったよ、レクス。二百と……何年ぶりだっけ?」
「二百五十一年ぶりだ、ライノルード」
「そっかそっか、そんなに経ったんだ。じゃああたしは二百五十一年間、思い続けてきたってわけか」
曲刀に送り込む魔力、その属性は氷。
鋭く研ぎ澄まされた氷の刃が鋼の刃を包み、強度と切れ味を大幅に上昇させる。
「お前を惨たらしく捻り殺したいってさ!!」
リノが魔法剣を使用する光景に、観客席からざわめきが起きた。
そして、アリエスとランも驚愕に目を見開く。
「あ、あれはリノさんじゃない……! ライナさんです!」
「ライナ……。彼女が出てきたってことは、まさか、あの対戦相手……!」
殺意を剥き出しにして駆け込んでいくライナ。
彼女が表に出てきたことで、二人も気付く。
あのアハトという男は龍人だ、と。
「まずい、このまま戦ったら間違いなくライナはアイツを殺す」
「そ、それがどうまずいんですか?」
「対戦相手の殺害は、故意でない限り罪には問われない。逆に言えば、故意だと認められれば失格になる。それだけじゃない、殺人罪に問われて牢屋の中、なんてことになってしまう」
「……つ、つまりこのままじゃ、リノさんが捕まっちゃう?」
「頭に血が登ってなければ、気付いてるとは思うけど……」
アリエスの気がかりは他にもある。
相手はオルゴをも倒した猛者。
そもそもライナは勝てるのだろうか、と。
そして、試合前のライナとの会話のあと、リノの様子は尋常ではなかった。
相手はただの龍人ではなく、ライナと深い因縁を持つ相手なのでは。
「リノ、お願い……。無事に戻って来て……」
あまりにも多すぎる不安要素。
今アリエスに出来るのは祈ることだけだが、いざとなれば、飛び出していく覚悟も出来ている。
スターブルームを握りしめながら、アリエスは試合の成り行きを見守る。
敵の間合いに飛び込んだライナ。
対し、レクスの剣が赤紫色のオーラを纏った。
彼のユニークスキル【吸収】は、敵のスキルによる攻撃を吸収し、打ち消してしまう。
今回彼が使用したのは、魔力を吸収するマジックドレイン。
オルゴの結界を打ち破ったのは、青紫のオーラを纏うエネルギードレインだ。
「出たね、魔法剣の天敵。だが、触らなければ意味はない!」
「手の内はバレバレだからな、お互いに」
ダッシュの勢いをつけた袈裟斬りを振りかぶる。
当然彼は、氷の魔力を吸収するために刀身で受けにかかった。
だが袈裟斬りはフェイント。
ガードを誘発させたライナは逆方向へと体を回転させた。
守りの逆側から、横薙ぎが胴へと放たれる。
「この程度で、俺が殺れると思うのか?」
レクスはガードを解き、すぐさま側転を打つ。
攻撃は空振り。
彼の強さはスキルに非ず。
重装備に見合わない軽業こそが、レクスの最大の強みだった。
「もちろん思っちゃいないさ。この二百五十一年間、何度お前を頭の中で殺してきたと思ってんだッ!」
足下に氷の刃を突き立てると、冷気がレクスに向かって舞台上を走る。
着地した彼の足下を氷が包み込み、その動きを止めた。
「随分恨まれたものだな」
「あぁ恨むさ。恨まないでおけるものか!」
足を封じた氷に切っ先で触れ、マジックドレインを発動。
瞬時に氷は消え去るが、その隙をついてライナが急襲。
風の刃に切り替えて速度を最大まで高め、顔面を狙った刺突を繰り出した。
「貴様のせいで、私は……、エルザはッ!!」
が、間に合わない。
自由を取り戻したレクスは垂直に跳躍。
突き出された曲刀の刀身に、身軽に飛び乗った。
「なるほど、それは恨むだろうな」
「何故! 何故エルザをみすみす殺させた! 彼女は殺させないというお前の言葉を信じて、私は、私はこの命を差し出したんだぞ! なのにッ!!」
剣を振るうとレクスは高く飛び上がり、ライナの間合いの外に着地。
「何故、か。俺は人間に見切りをつけたんだ。あの事件がきっかけで気付いた。本当に腐っているのは龍人じゃない、人間の方だとな」




